S級の鍛え方
指令室で朝倉が声を上げた。
「た、武宮さん、大丈夫なのですか? 探索者同士での鍛錬は、さすがに危険な気もしますが……」
雨咲と武宮のやりとりを聞いていた観月は、はあああっ、と息を吐く。
「武宮様、なんだか先生って感じがしてステキ~。私、やっぱり探索者になればよかったかも~。私も武宮様に、ビシバシ指導されたい! 1対1で!」
「観月先輩、なにを言っているんですか……?」
さすがの朝倉もやや引き気味であったが、他の女性オペレーターも観月と似た感じなのか、うっとりとしたような表情を浮かべていた。恋はもうもくという言葉が、脳裏をよぎった。大体なにをやっても、武宮がかっこいいように見えてしまうのだろう。なんだか本当に、推しとファンみたいだ。
「やらせておきなさい。かつては、武宮くんもS級に稽古をつけてもらっていたのよ」
「え、そうだったんですか?」
支部長野崎の言葉に、朝倉が目を丸くする。
「ええ。強者や格上と戦うことは、ダンジョン攻略の基本……だそうよ」
うーん、と観月が首をかしげる。
「でもそれ、スポーツとかなら成立しますけど。探索者は負けたら死亡ですよ?」
「だからこそ、それを乗り越えたら経験になるのよ。RPGに例えるなら、ダンジョンの奥深くに潜り込むことがLVアップ。己を鍛え上げ、死地を乗り越えるのがステータスアップのようなもの。安全面考慮から手を抜くとはいえ、S級との戦いはシンプルに良い経験になるはずよ。現に武宮くんがB級からA級に上がったきっかけの1つは、そのS級との鍛錬だったそうよ」
「ほへ~。スパルタですね……やっぱ、私にはムリそうです」
心変わりが早かった。
そして朝倉の方は、心配そうにモニターの方を見ていた。
(2人共、ケガがなければいいけど……)
武宮に対しては尊敬の気持ちがあるし、雨咲には同い年の女の子同士なので、気にかけているところがある。
2人の戦いを、見守ることにした。
☆
「よし。じゃあ全力で、どこからでもかかってこい」
「……あの。丸腰ですが」
氷の剣を構える雨咲に対して、武宮は素手である。
「ああ。武器は使わない」
「えっと、その」
ナメられている――と思う前に、武器すら構えない人間相手へ、攻撃することを雨咲はためらわれた。
今までダンジョンのモンスターとはなんども戦ってきたし、トラブルを起こした探索者と戦うこともあった。
だが、だからといって無防備な相手に剣を振るうことは、ためらわれた。
「よし。じゃあ、こっちからいくぞ」
「っ!?」
言葉の終わりと同時に――気がついたら、左手首を武宮の右手でつかまれていた。
不思議と、力を感じさせない握り。それなのに、絶対に逃げられないとわかる感覚とプレッシャー。
そして雨咲の視界が、あっという間に反転した。
武宮は右手一本で、雨咲の体をボールにするかのように、ぶん投げたのである。
ずどおおおおっ!!! と、砂煙を巻き上げながら、雨咲は50メートルほど飛ばされて、地面に転がった。
「――っ! 私も一応、女の子なのですけど……容赦ないですね。でもそれなら、私もいきます!」
雨咲は剣を両手でにぎり、素早く前へかけて飛ぶように距離を詰めていく。
間合いに入った瞬間に、剣を上から降り降ろす。氷の鋭い刃は、立ったままの武宮の胸へをとらえた。
がきんっ、と。
硬い感触が跳ね返ってきて、両腕がしびれた。
「……は?」
岩とはまた違う、力そのものがこちらへ戻ってくるような、バネのような奇妙な感覚だ。
武宮は再び雨咲の右手を片手でつかむ。
「ごめんな。そしてさようなら」
「わああああああああっ!?」
次のスローイングは、先ほどよりも力が強い。
80メートルは投げ飛ばされた雨咲が、再び地面へゴロゴロ転がされることとなった。




