わかった。君を鍛えよう
「くっ……私の真の力はここからだというのに、よけいなことを」
「そんな四つん這いの状態で言われても。とりあえず、ポーションを使いなよ。アイテムボックスに入っているでしょ?」
どこか毒々しい、赤い森の中。駆けつけた武宮によってボスは一撃で沈み、魔石へと変わった。
アイテムボックスのポーションを使い、よろよろと立ち上がりながら、雨咲はううっ、と悔し気にうなる。
死にかけたボスを、目の前の男は一撃で倒したのだ。
またしても、力の差を見せつけられた結果に終わる。
「とりあえず、ここにいたらまたボスが湧く。離れよう」
「……はい」
回復した雨咲と共に、赤い森を抜けて平原を出た。
空の色は赤く、辺りの土も赤い。
そろそろA級でなければ通用しなくなる、第七層というだけあって、雰囲気からおどろおどろしい。
色合いもどことなく、ダンジョンからの殺意を感じた。
『た、武宮さん、ありがとうございます! 無事でよかったです!』
通信で朝倉から安堵した声が聞こえた。
雨咲も嫌そうな表情ながらも、ぺこりと頭を下げる。
「……すいませんでした。そして、ありがとうございます」
悪いことをした自覚と、無茶をした自覚もあるようだ。そして周りに迷惑をかけたということも。
「どうして、そこまで強くなろうと思うんだ?」
武宮が問いかける。雨咲はクールな表情で、ため息をついた。
「理由なんてありません。あなたもそうではないですか?」
「そんなことは……いや。まあ、そうかも」
ダンジョンが現れた現代。
そして自分の体に宿った異能。
この2つが揃った時、大体の探索者というのは共通のことを考える。
自分はどこまで強くなれるのか。
自分の力はどこまで高めることができるのか。
S級探索者という、国のパワーバランスにまで関与できるほどの存在もいる。貪欲に夢とロマンを求める性質は、探索者には備わっていることが多い。
「強い探索者はかっちょいーので。私もクールな強者になりたいんです」
(ヒーローに憧れている男の子かな?)
なまじ見た目が小柄な女の子なので、子供っぽく見えてしまう。
「私は自分が、特別な人間だと思っていました」
「え?」
「海外はわからないそうですが……少なくとも、国内では最年少でのA級探索者。万全なパーティでの状態とはいえ、第9層での戦いも生き残りました。この仕事をはじめて、1か月です。私がこの国1番になると、確信していました……あなたに会うまでは」
じっと、武宮を見つめてきた。
「S級探索者……会った瞬間に、わかりました。これほどまでに差があるなんて。私はちっとも、特別じゃなかった。ただ、他の人より初期の魔力に恵まれただけです」
武宮は肩をすくめた。
「贅沢な話だよ。俺が君くらいの年の頃は、指定探索者どころか、第一階層での狩りで苦戦していた。パーティの足を引っ張らないようにするのに、精一杯だったよ」
「……色々と勉強したんです。武宮さんが何故、こんなにも強いのか。そして「努力だけの天才」などと言われるほどの探索者が、何故、短期間でS級になれたのか」
あっ、と武宮は思わず声を上げる。まさかその時のことを知られているとは。
「本当は逆なんです。私のようなタイプこそが凡人。あなたのようなタイプこそが、天才……才能があるんです」
はあ、と雨咲が重いため息をついた。
「スタート時の魔力の大きさや、質の強さは天性で決まる。ですが、その後ダンジョンの奥へ潜れば潜るほど、その魔力は増量するそうなんです」
「まあ、そういう説があるね」
第二階層をクリアすれば、第二階層レベルの魔力へ増える。
そうやって、階層ごとに魔力が変化する……という現象が、多く報告されているのだ。
初期の魔力の高さ、そして階層クリアによって増量する魔力には個人差がある。特に、初期の魔力の高さにおいては、雨咲のように最初から奥の階層レベルに到達しているケースも、稀にだがある。
「高まる魔力や、戦闘能力の差はどこにあるか? その者自身の戦闘能力や、戦闘のセンス、経験……魔力は最終的に、探索者の総合能力を現している、という説が有力なんだそうです。現に、フィジカルで男性よりも劣る女性。そのS級探索者が、日本においては1人もいない」
雨咲はガッカリしたのだろう。
自身に宿る、破格の才能の正体。
それがスタートに恵まれただけの早熟タイプだということに。
「あなたは無茶な攻略をしたり、長時間の努力で無理やり戦闘能力を上げました。そうして、ダンジョン攻略のたびに、メキメキと魔力を上げていく。安定のない冒険。それこそが探索者を強くする、と」
「まあ、はっきりと証明されたわけじゃないけどね。でも、俺はその説を信じたのは、たしかだよ」
自分を追い込んで、時には危険な目にもあって。
そうして積み重なった経験が、やがて武宮を大きく強くした。
「……なので、私もあなたの真似をしようと考えたんです。強い敵に挑む。不利な条件で挑む。経験を積もうとしたんです。あなたも途中からは、ソロがメインだったそうなので」
「なるほど。でも、さすがに段階を踏まないと。俺だって、毎回死ににいこうと思ったんじゃなくて、ちゃんとギリギリのラインを用意してから、自分を鍛えていたんだぞ?」
「むうう……」
雨宮は唸りながらも、ぺこりと頭を下げた。
「私、強くなりたいんです。どうしたらいいですか」
うーん、と武宮は首を傾げた。
「似たような方法を選ぶことは出来る。それでいいなら、訓練の相手は大丈夫だよ」
「本当ですか!?」
「ああ。やってみるか?」
武宮は握っていた斧を解除。アイテムボックスへ収納した。
そして素手になり、その場で腕を組んだ。
「俺に向かって、本気でかかってくればいい。ただし……この鍛え方は、厳しいぞ?」




