負けるのは、旦那の方だよ? なんにも知らないんだから。
汚嫁こと真由美は家に帰った時、母が迎えてくれた。旦那がモラハラをするから、帰って、反省させているのだと説明した。
「あらぁ、そう。もう妻として、立派にやっているのね。ゆっくりしていっていいのよ」
真由美は1人娘。そして父と母は、そんな娘をよしよし、いい子いい子と、つねに優しく甘えさせて、育ててきた。なにをやっても絶対に叱らないし、ほしいと言ったものはなんでも買い与えてきた。
実際、真由美の家はお金持ちである。
父が探索者協会の副会長なのだ。つまりトップの、副リーダーである。
母親もとある企業の社長であった。
真由美自身がかつて高所得だったのは、母親のコネで仕事を引き継いでいたからだ。
「真由美がこの会社を経営するのよ。大丈夫、優秀なあなたなら出来るわ」
そんなことを言われ、言われるがまま社長の座についた。しかし実際は仕事なんてほとんどしておらず、母親がサポートという名の、おんぶにだっこ状態であった。
真由美が「結婚するから辞めるね」と言い出した瞬間、会社の従業員一同が心の中で「よっしゃ!」とガッツポーズをとっていたのは、言うまでもないだろう。
……そしてそんな真由美が家に帰ってから、ずっと旦那のところへ帰ろうしない。このまま実家に住みそうな勢いであった。
母は優しい笑みを浮かべながら、優しく問いかけた。
「真由美、いつまでここにいるつもりなの?」
「ん? んー……私さ、正直、離婚でもいいんだよね」
「え?」
「離婚すれば、慰謝料もらえるでしょ? S級からの慰謝料で、もうこれから先は安泰かなって」
「あらぁ、そう。真由美は将来のことも考えていて、えらいわねぇ」
この頃にはもう、すでに大きな騒動になっており、真由美に対して非難が集まり始め、そして協会が開示請求することを発表していることは知っていた。
だが、それでも真由美には余裕があった。
SNSで送られる、大量のコメント。
憎しみの込められたそれらの言葉に、真由美は返す。
「負けるのは、旦那の方だよ? な~んにも知らないんだから。女は慰謝料をもらう立場。男は慰謝料を払う立場。はい、論破」
甘やかされて育った真由美は、考えるということをしない。
浮気をしたのも、なんとなくしたかったから、しただけ。
相手は夜に遊んだホスト。たまたま意気投合し、体の関係になったのだ。ちなみに今はもう「飽きた」らしく関係は継続していない。
そして彼女に余裕があるのは、父がいるからであった。
協会の副会長である彼ならば、真由美を守れると思ったのだ。
「そもそも。被害者は私の方。ネトウヨって、本当に頭悪いよね」
父が家に戻ると、真由美は父に甘えた。
「おかえり。竜のやつ、まだ調子に乗っているね。私から慰謝料なんて、損害賠償なんて、とれるわけないのに」
「ん? あ、ああ……そう、だな。真由美は、なんにも心配しなくていいぞ」
だが、父ははっきりと言えなかった。むしろこの期に及んで、なおも娘を甘やかしたのだ。
しかしもう結果は、わかりきっている。
全て、娘が悪いのだ。
協会へは損害賠償を払わないといけないし、武宮へ慰謝料を払わないといけない。
そして父は、娘の件で協会から非難を浴び、その立場を危うくしていた。
たくさん謝って、なんとか処分を免れているのが現状だ。
しかしなんにも知らない真由美は、1人「勝ち」を確信している。
「ふふふ。あ、おかあさん。ポテチ無くなっちゃったから、買ってきて~」




