モンスタージュエル
螺旋の塔の探索は、第七層まで進んでいた。主に江川、中條、茨木の3人パーティーによる探索だ。ダンジョンの中は広大な上、好戦的なモンスターによる足止めなどがあるのと同時に、探索者達の取り締まり・常設されている魔力探知機の簡易点検などの業務もこなしていかなければならない。
端末でマップを見ながら、階層を移動できるワープポイントへ向かう。ワープポイントは一度いったことのある階層は一気に飛ぶことができるが、そうでない場合は1階層ずつしか前へ進めない。なので、武宮はまず階層間を移動できるよう、今日はひたすらワープポイントへ触れる予定だ。
武宮のスピードをもってしても、フロアによっては10、20分はかかる広い距離だ。地形や足場も様々なので、単純な移動というわけにはいかない。
だが基本的には、モンスター達とのエンカウントはあまりなかった。武宮の放つ魔力の質が、モンスター達を怯えさせるのだ。
A級ですらそういった現象はめったに起きないのだが、武宮だと当たり前のように発生する。
『武宮さん。えっと、そこの道は毒沼なので、迂回した方がいいです』
第五層を走っている時、内線で朝倉が教えてくれるが、武宮は首を横に振った。
「このくらいなら大丈夫だ。毒耐性があるから」
武宮は毒沼の上を、ズボズボと音を立てながら走り抜けていく。じゅうじゅう足元が焼けるような音が立っているが、ノーダメージだ。
探索者の体は魔力の壁が常に薄く張られており、それによってあらゆるダメージを緩和しているのだが……武宮のそれは、数多もの攻撃や異常を守り、なおかつ強度が飛びぬけている。
「移動だけでも、規格外なのがわかっちゃいますね~。A級でも毒はダメージ入るのに、やっぱり武宮様は特別です!」
観月が嬉しそうに言う。他の女性オペレーターも耳を立てていて、なんとなく武宮のことを気にかけていた。さすがに彼女ほど積極的なのはそういないが、観月と似た考えの者は多いようである。
「武宮さんって、再婚考えているのかな~」
「ね~。気になるよね~」
そんな会話が、ちらほらと聞こえてきた。
むむむ、と観月がうなり声を上げる。
「やっぱりライバルが多くなっちゃうね、ひまりっち」
「えっ!? わ、私はべつに、そういうわけでは……」
「え~。真っ先に内線飛ばして、よく言うよ~」
「お、お仕事です」
「……あれ。武宮様、どうしたんだろ。立ち止まって、キョロキョロして」
ドローンが捉えた映像では、武宮が落ち着きなさそうに辺りを見渡している。
彼はとある微量の魔力の流れを感じた後、毒沼のより深い方へ進んでいった。紫色のドロっとした液体が、腰の辺りまで浸食する。
今度は観月が内線を送る。
『武宮様。そこから先は、2メートル以上の深さになると推定されているので、さすがに危ないです。というか涼しい顔をしていますが、さすがに心配ですよ~。大丈夫ですか?』
「んっ、俺は平気だ。だけど、量もそうだが毒の濃度も中心に行くほど上がっているな。さっきからすごい音がする」
武宮の言う通り、まるで油たっぷりの鉄板料理のように、ジュウジュウすごい音が鳴っていた。
「大抵の探索者なら、入ったらそれだけで命を落とす。なあ観月、この辺りはこういう毒沼を利用したモンスターとか、出現するのか?」
『パワーのあるモンスターはもちろんいますが、基本、毒耐性のあるモンスターがいないので、あまり近寄らないですね』
「それはよかった。普通の探索なら、近づく理由もないってことだな」
『そうですね~。で、深くへ潜ろうとしているのは、なにか気になることでも?』
「ああ。内線を一旦アイテムボックスへ避難させる。潜って、探したいものがある」
『は、はぁ。お気をつけて……』
内線が切れる。モニターの映像では、本当に武宮が毒沼へ潜っていくのが見えた。職員達があぜんとする。こんな行動をとる探索者ははじめてだ。支部長、野崎ですら前例を見たことがない。
そしてしばらくすると、毒沼から武宮が上がって来た。その右手には赤色の、美しく丸い宝石が握られていた。野球ボールぐらいの大きさで、中心部分は白く輝いている。
武宮は再び通信器具を耳につけた。その声は嬉しそうに弾んでいる。
「中に宝箱があった。これ、モンスタージュエルじゃないか? だとするなら、かなりのお宝だぞ!」
職員達がざわめく。野崎がすぐさま、手元の機械でパチパチキーボードを打ち込んで、ドローンが捉えた映像の、赤い宝石の簡易解析に当たる。協会のデータベースと照合した。
モンスタージュエル。
探索者が稀にめざめる召喚魔法とはまた別で、所持者と共闘する強力なモンスターを召喚するアイテムである。日本では、たった7つしか存在が確認されていないレアなお宝だ。
支部長、野崎が解析結果を武宮へ告げる。
『過去に発見されたモンスタージュエルと似た形・そして魔力の流れを探知したわ。モンスタージュエルである可能性は高いわね』
「よしっ。運がいい……時間経過で、初回の召喚が可能になるんでしたっけ?」
『過去に観測されたパターンによると、そうね。開放される時は、所持者に感覚的なもので告げると報告されているから、アイテムボックスに入れていれば、その内召喚できるようになると思うわ』
「了解。では、格納しておきます」
『ええ。当然、所持者はあなただもの。持っておくといいわ』
指令室の職員達がざわめく。
A級ですら危険な、毒沼と奥深くに沈んでいた宝箱。どおりで、誰も見つけられないわけだ。武宮でなければ、見つからないまま眠ることになったお宝だったかもしれない。
「どんな子が召喚されるんだろうね」
観月がぼそりと呟く。朝倉はにこりと微笑んだ。
「武宮さんの良い相棒に、なってくれるといいですね」
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