武宮様。この後の予定は……どうしますか?
「武宮様、休みの日はなにをしていますか? 趣味はなんですか?」
グイグイ来る観月に、武宮がそれに答えるというやり取りが続いていた。
「体を鍛えることかな」
「ストイックですね~! かっこいいです、さすがです! たしかに体格すごく良いですもんね。腹筋とか割れてます?」
「そうだな」
「すごいですっ。触ってもいいですか?」
「そ、それはちょっと恥ずかしい、かな」
「きゃ~! シャイなところも可愛いですっ」
観月はなんでも肯定してくれる。恋する乙女というよりは、推しとファンみたいな感じである。
(でも正直、いやされるところもあるな……女で出来た心の傷だっていうのに。俺も単純な男だな)
と、ここでウーロン茶の入ったペットボトルを持つ朝倉が、武宮の空の紙コップへ飲み物を注いだ。
「武宮さん、飲み物足しておきますね」
「ああ、ありがとう。悪いな」
はっ、と観月はそちらをぎょっと見た。
「むむむ。ひまりっちがさりげなく、出来る妻アピールをしようとしているっ!」
「つ、ま……!? ちち、違います、私は少しでも武宮さんの役に立ちたくて」
「後輩が手強いよ~! ええっと、私は……あっ! じゃあ、新しいお肉を持ってきます! 待っていてください、武宮様!」
えっ、ああ、頼んだ、と武宮がぼんやりとした返事をすると、すぐさま観月は茨木が黙々と焼いている新しい肉をとりにいった。
(茨木さんは食べないのだろうか。なんとなく、こういう時に裏方に回るタイプなんだろうなって、雰囲気は感じるけど)
と、ここで対面に座った男――螺旋の塔支部、探索者の中心人物である江川が笑い声を上げた。
「はははっ、初日から両手に花とは、S級さんは女関係も派手なのかい?」
「そ、そんなんじゃないですよ」
武宮が慌てて否定する。
「えっと、江川さんですよね。一番頼りにされているA級の探索者だって、先ほど聞きました。これからよろしくお願いします」
江川はその様子に、ほう、と声を上げる。彼は他のS級探索者と会った経験があるのだが、その人物はとても尖った性格の持ち主であった。しかし彼は真逆の、どこか礼儀正しそうな雰囲気の青年であるため、好印象であるのと同時に意外であった。
「ご丁寧にありがとさん。ここは最年少A級探索者、雨咲を筆頭にまだまだあらけずりな若者ばかりでね。成長途中の現場の上、一般探索者は血の気が強いヤツが来やすい。S級さんには申し訳ないが、前のところより忙しくなると思うぞ」
「やっぱり、新規のダンジョンだから、人が多いですか」
「まぁな。新規ダンジョンによくある話なんだが、未開拓エリアへ毎日のように無断でふみこまれる。我ら国家指定探索者が調べたところ以外は、ふみ込んじゃいけないエリアなのによ。シンプルなルール違反が多い。まあけど、新しい「なにか」を得られるかもしれねーんだ。気持ちはわかっちまう」
「たしかに。ロマンを求めるから、探索者になるわけですからね」
「そういうことだ」
と、ここで江川の隣に座る男が手を上げた。
「あっ、武宮さん! おれもこれからよろしくっス! A級探索者、中條といいます! いざという時は、力になるっスよ」
明るそうな雰囲気で、A級3人組の1人である中條は言った。武宮は手を上げて、よろしく、と返事をした。
「そんじゃ、あいさつもすませたし、おっさんは席を動くとするかね」
「あっ、おれもちょっと他いくッス」
こういった場らしく、2人は一か所にとどまらず席を立った。武宮と朝倉はまだ来たばかりなので、席を動く勇気は中々わかない。
「戻りました~! はい、お肉です、武宮様っ」
「ありがとう」
「おっ、江川さんは支部長のところへ行くんですかね~」
「んっ、野崎支部長?」
何故名指しなのだろうかと思い、口にする。観月は少しだけ声をひそめた。
「あの2人、良い感じなんですよ……あっ! ほらほら、やっぱり、支部長のところへ行ってますよ~」
見ると、たしかに野崎の隣へ江川が座った。美魔女の隣にイケオジが座るのは、中々にアダルティーな絵面だ。
江川は隣へ座りつつ、野崎に軽く声をかけた。
「調子はどうだい?」
「あら、江川さん……そうね。ちょっと、疲れたかしら」
「おいおい。なにかあったか?」
「ええ。色々と、ちょっと立て込んでいるのよ。例えば――」
距離があるので会話の内容を、武宮達は聞き取れない。
が、観月は勝手に、下手な声マネをして吹き替えした。
「きっと「やあ。君は今日も、江ノ島に浮かぶ満月よりも綺麗だね」「まあ、あなたってば。こんなところで、ダメよ……」みたいな会話してるんですよ! きゃー、エッチです!」
「いや、そんな感じじゃなくて、真面目な話をしていそうな雰囲気だけど……」
勝手に盛り上がる観月に苦笑いをしつつ、気になることを質問した。今度は、武宮が声をひそめる。
「……支部のメンバーでさ、鈴木って探索者、いるか?」
「はい? ああ、はい。いますよ。B級で、1人。それがどうかしましたか?」
この場では武宮しか気づいていないが、遠くから鈴木がギロリと睨みつけている。よくある苗字だが、もう間違いない。あのお局の息子さんなのだろう。文字通り親の仇、ということだろうか。
「いや。確認したかっただけだ」
その会話を最後に、また対面の席に座り、あいさつに来る職員や探索者達と会話をする。武宮はそうして、現場へ顔合わせを済ませていった。
☆
大体、1時間が経過しお開きとなった。
ぽっ、と顔を赤くした観月が身をいやんいやん、とよじらせる。
「武宮様、この後の予定は……どうしますか?」
「え? 家帰って、トレーニングして寝るけど」
「ふふふ、それだけでいいんですか?」
可愛らしいうわめづかいで見つめられる。胸の谷間へ視線がいってしまった。
「あ、いや、その……」
(や、やばい。というか、一回結婚しているのに、どうしたらいいのかわからないなんて、情けなくなるな……)
ずいずい迫ってくる観月。近くで見るほど、綺麗で柔らかそうな肌なのがわかる。男の本能が反射的に刺激され、たじろぐ。
そして積極的ではあるが、観月は武宮が顔を赤くしたりする反応に、内心ドキドキしていた。
(えへへ、ほらほら、まんざらじゃなさそう)
観月は恥ずかしそうにしながらも、チャーミングに武宮へ甘い声を出した。
「あの、ですね。私は、この後2人きりでも――」
「言わせないわよ」
「あいたっ!? ちょっ、支部長、いつの間に!」
野崎にチョップされた観月が涙目で振り返る。はあ、と野崎はため息をついた。
「今度は同じ女として言わせてもらうわ。がっつきすぎよ」
「えぇ~。そうですか? 私、こんな男性に言い寄ったの、はじめてですよ。これ、本当の本当ですよ」
「あなたがどういう人かは、私だってわかっているわよ。軽い気持ちじゃないのも。でもあまり、武宮さんを困らせないの」
「ぶ~……正直、押したらいけそうな感じなのに。邪魔しやがって(ボソボソ)」
「なにか言ったかしら?」
「なんでもありませんっ」
圧を感じ、慌てて観月はたたずまいを正した。
隣にいる朝倉が、あはは、と苦笑いを浮かべる。
野崎は朝倉と武宮の2人と向き合った。
「2人共、疲れているのに、こんな会へ参加してくれてありがとう。帰って、ゆっくり休んでちょうだいね」
武宮は軽く頭を下げた。
「こちらこそ、ありがとうございます。みんな良い人そうで安心しました」
「それは良かったわ」
「では、俺はこれで帰りますね」
「ええ。おつかれさま」
武宮が帰っていく。そして朝倉は、野崎へ言った。
「あの、私もお片付け手伝います!」
片づけは一部職員と、茨木、そしてこれから野崎が加わる予定であった。
「あら、いいのよ。そんな気を使わなくて」
「いえっ。まだ新入りでなにも出来ないのは私なので、力になります!」
「ふふふ。そう。そこまで言うのなら、手伝ってもらおうかしら」
「はい!」
そして観月はというと、性格的に「帰っていい」と言われたら「じゃあ帰ります」と素直に受け取るタイプなので、2人へ「じゃあ、私はあがりま~す! おつかれさまでした!」と言って帰っていった。
野崎は「おつかれさま」と返事をしつつ……とあることが、脳裏をよぎった。
彼女は支部長という立場らしく、しっかりと人間を観察している。
鈴木の動きは、きちんととらえていたのであった。
(1人、武宮くんに険悪そうだったわね。鈴木くんだったけれど……なにか、あるのかしら)
お局と肉親関係なのは把握していなかったので、野崎は今回のことを頭に入れ、あとで調べてみようと考えた。




