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やりなおすわけ……ねえだろうが!

「くっ……助けなんて、うっ」


 膝をついた雨宮に、武宮はちらりと振り返る。


「任せておきたい気もするけど。その様子じゃ却下だ。下がってて」


「そういう、わけには」


 そんな会話をしている間に、黒い狼が口を開く。魔法陣が広がり、再び黒い炎が解き放たれた。


「っ!!!」


 雨宮は慌てて、力をふりしぼり横へ跳ぶ。

 彼女のいた場所が、ずどおおおおっ!!! と炎によって大爆発を起こした。


「え?」


 そして雨宮は、目を疑った。武宮は武器も持たず、一歩も動かないで炎に直撃したのだ。

 だが、フォローなんてする余裕はない。

 衝撃で地面を転がりながら、なんとか顔を上げる。


「あれは……!」


 炎が止む。

 武宮はなに一つ変わらない状態で、そこにたたずんでいた。


「かなり強力な魔力……第十層レベルってとこか。危険すぎる」


 まともにくらって傷1つ負わない男がなにを言っているんだという感じだが、本人はいたって真面目に言っている。

 雨宮はあんぐりと口を開けた。

 S級探索者の戦いを見るのは初めてだ。

 だけど、わかる。実力者である彼女だからこそ、すぐにわかった。

 武宮はなにも特別なことをしていない。

 ただぼーっと立って、攻撃をくらっただけ。

 彼がしたのは、それだけなのだ。

 まるで圧倒的なレベル差のあるRPGのキャラと、モンスターの戦い。

 まともに攻撃を受けても――ダメージ0なのだ。


(それほどまでに、あの魔物と実力差があるってことですか? 相手はA級モンスターですよ!? それこそ、RPGならレベル80とか、ラストダンジョン級のモンスターなのですが!)


 目の前の非常識的な現象に、混乱する。

 武宮は右手を伸ばし、己の力を発動させた。


極致(きょくち)たる武の力、来い――Ωアックス!」


 光輝く金色の魔力が弾けた瞬間、彼の右手に金色に輝く大きな斧があらわれた。全長150センチほどのバトルアックス。重量感のある見た目だ。真っ直ぐ伸びた先には金色の広い斧刃(おのば)がシンメトリーを作り上げている。先端には槍のような鋭い穂。それでいて細かいところに赤い装飾がなされていて、派手なデザインだ。


「アオオオオオオンっ!!!」


 黒い狼が悲鳴のような声を上げながら、背中を向けて逃亡をはかる。

 武宮は斧を構えて、腰を落とした。


「元気がいいな。けど、逃がさないぞ」


 前へ踏み出した瞬間、雨宮でもとらえきれないほどのスピードで、黒い狼と距離を詰める。

 その背中へ向かって、振り上げた斧で狙いを定めた。

 瞬間、脳裏に今朝のできごとがよぎる。

 実は、かなり嫌なことがあったのだ。


(なにをどうしたら、あんなにも都合のいい頭になるんだろうな)


 離婚調停中の妻――真由美から、連絡があった。出なかったが着信があって、そして送られたメッセージの量は多かった。


 ――ねえ。私達、やり直そうよ。

 ――もう怒ってないし、許してあげるから。

 ――本当は愛し合っている仲でしょ?

 ――私を逃したら、あなたをもらってくれる人なんて、いないんだから。

 ――あなたは、私しかいないの。わかるでしょ?


 ぎぎぎぎぎ、と強く斧を握りしめる。

 よくもヤリなおすだの、許してあげるだのという言葉が出てくるものだと、イライラが止まらない。

 武宮は魂の叫びと共に、力の限り振り下ろした。


「やりなおすわけ……ねえだろうがっ!!!」


 ずどおおおおおおおおんっ! とすさまじいパワーによって、黒い狼がたやすくバターのように、真っ二つになった。さらに振り下ろした衝撃によって、刃が当たっていないのに、地面がビキビキと切れ込みが入る。

 黒い狼は悲鳴も上げられず、その場でばたんと、真っ二つの体を倒した。

 しゅたり、と武宮は地面へ着地。ふう、と一息ついた。少しだけスッキリしたようだ。

 雨咲は一瞬とはいえ、間近に見たS級の力に武者震いした。


(これがS級……私の目標ですか)


 そして指令室はというと、若干なんとも言えない空気に支配された。武宮の叫びをドローンが音声で拾ったのだ。

 一言だけとはいえ、彼が誰に対して、どんな感情を抱いて斧を振り下ろしたのか。なんとなく、想像がつくというものだ。

 だが、そんな空気感になっても、朝倉が真っ先に内線を飛ばした。


「た、武宮さん、お疲れ様ですっ。A級を一撃とは……」


「ん? ああ。かなり強力なモンスターだったよ。優秀なA級探索者でも、討伐は難しいレベルだ」


 魔力となって消えていく狼を眺めていると――やがて現れたその姿に、武宮は息を飲んだ。

 指令室も、ドローンがとらえたその映像に、全員が驚く。

 武宮が信じられないと思いながらも歩み寄り、その姿をたしかめる。


「嘘だろ……これ、人間か?」


 討伐され、消えた黒い狼の体内から現れたのは――意識を失った、男性の探索者であった。

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