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【WEB版】水魔法なんて使えないと追放されたけど、水が万能だと気がつき水の賢者と呼ばれるまでに成長しました~今更水不足と泣きついても簡単には譲れません~   作者: 空地 大乃
第八章 救いたい仲間たち

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第309話 認識の歪み

 馬車内は、すっかり宴会の様相を呈していた。


 誰かが酒瓶を開ければ、別の誰かが食べ物を差し出し、笑い声が重なっていく。


 ついさっきまで命を懸けて戦っていたとは思えないほどの変わりようだ。


 そして――ウィン姉は完全に出来上がっていた。


「坊主もどんどん呑め~」

「いや、僕はあまりお酒強くなくて……」

「あんなすげぇ水の魔法を使えるんだからいけるだろう?」


 いや、水とお酒はあまり関係ない気がするんだけど――。


「――あぁ、確かに坊主の魔法は凄かった」


 横から声を挟んだのは、元海賊の男性だった。


「正直、水なんて使い物にならねぇと思ってたんだがな」


 そう言って、酒を一口あおる。


 そして、ふっと視線を落とした。


「……だが、妙なんだよな」


「妙って何がだ?」


 傭兵の男が聞き返す。


「いや、俺は元海賊だ。当然、海にも出てた。嵐の日はよ……海に恐れを抱いたもんだ」


「あぁ。船が沈んだらたまったもんじゃねぇからな」


「そうなんだ。つまり俺たち海賊は、海を恐れてた。だけど海は――要は水だろう」


 そこで、彼の言葉が止まった。


 顔が歪む。


「つまり俺たちは――ッ……!」


 突然、頭を押さえる。


「大丈夫ですか?」

「スピィ?」


 僕とスイムが声をかける。


 けれど次の瞬間、男の表情がすっと戻った。


「あぁ、大丈夫だ。ちょっと呑みすぎたみてぇだな」


 そう言って、軽く笑う。


「そうだ、嵐は神の怒りだ。水は関係ねぇ――そういうもんだ」


――違う。


 その瞬間、胸の奥がざわついた。


(今……おかしかった)


 言いかけていた“何か”を、自分で打ち消した。


 いや、“打ち消された”ようにも見えた。

 嵐と海を恐れる理由。

 それは間違いなく“水”だ。


 それなのに――途中で思考が捻じ曲げられた。

 いや、“別の答えに置き換えられた”。


(……なんでそんな結論になるんだ?)


 僕には理解できる。

 水が持つ力も、脅威も。

 それを知らないわけがない。


 なのに――


 周りは、それを正しく認識していない。


 いや、正しく認識“させられていない”。

 さっきの男だけじゃない。


 これまでだって何度もあった。


 水は弱い。

 水は役に立たない。

 水は脅威じゃない。


――そんな風に決めつける言葉。


(でも、それは違う)


 僕は知っている。

 水は強い。

 圧倒的な力を持つものだ。


 なのに、その当たり前が――通じない。


(まるで世界の方がおかしいみたいだ……)


 ぞくりと背筋が冷える。


 言葉に出来ない違和感。


 けれど、それ以上考えようとした瞬間――


「呑んでるか~愛弟~!」

「わわッ!」


 突然、背後から抱きつかれた。


 ウィン姉だ。


 しかもかなり酒臭い。


「ウィン姉、ちょっと呑みすぎじゃない?」

「そんなことないぞ~私は~まだまだ~」


 完全に出来上がってるよねこれ。


「そうだよ~ネロ~これぐらいへいきぃ~へいきぃ~」

「ちょ! エクレアまで!?」


 今度はエクレアが、ふらふらと僕にもたれかかってきた。


 顔が真っ赤だ。


 距離が近い。


 近すぎる。


(ちょっと待って、これ心臓に悪い――!)


「あらあら。エクレアもまだまだねぇ」


 ライトニングさんが余裕の笑みを浮かべる。


「ネロくん。しっかり“解放”してあげてね」

「いや解放って何ですか!?」


 意味深すぎるよ!


「ザックス~一発芸しろ~」

「そうだしろ~」

「ちょ、姉ちゃんにアイスまで!? 呑みすぎだっての!」


 あっちはあっちで大惨事だ。


 ザックスが完全におもちゃにされてる。


「スピィ~♪ スピィ~♪」

「え? スイムも!?」


 スイムの体がほんのり赤い。


 しかも妙に上機嫌でぷるぷる震えてる。


(これ、まさか酒……?)


「たく……揃いも揃って緊張感なさすぎだ……ヒック!」

「いやガイもじゃん!」


 ガイまで顔が赤い。

 しかも妙に絡んでくる。


「ネロ……お前はなぁ……ちゃんと周り見ろ……いいか……ヒック!」

「説得力ないよそれ!」


 結局、僕はガイにも絡まれてしまった。


 さっきまでの緊張感はどこへ行ったんだろう。


 いや――違う。


(緩んでる……けど)


 さっきの違和感。


 あの元海賊の言葉。


 あれだけは、妙に引っかかっている。


 だけど、酒の匂いと騒ぎの中で、その輪郭はどんどん曖昧になっていく。


 まるで――思い出すな、とでも言われているみたいに。


 そして僕は結局ガイの話に付き合い酒も追加されて、そのまま僕の意識は、ゆっくりと沈んでいった――。

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