シンデレラになってみました 番外編3
ゼミの芋煮会は今年も異様な参加者だった。
「何だよこの人は?まさに芋を洗うじゃねーかよ」
遅れて参加した鳥居太一は当たりを見渡して盛大にぼやいた。
「ああ、また太一先輩はサボってばかりだから、一人取り残されてるんですね」
吉田の言葉に、えっ?という驚きで太一は応えた。
「それは、もしかして姫がこの会に参加しているという事かい?」
「そうですよ、去年も参加してくれましてね。というか姫の仕切りで行われたんですよ」
「まじで!」
「まじで」
くぅーと身体を縮めて太一は悔しがった。
「ほら、向こうの方で今年もめっちゃ芋を蒸してますよ」
吉田の声に慌てて身体を起こし、目を凝らす。
人が多すぎて花梨の姿は確認できなかったが、でかい蒸し器が積まれているのは見えた。
「もう、お腹が大分おおきいから、無理してほしくないんだけどな」
じゃ、っと吉田は両手のバケツの芋を持ち替えた。
「それを、言うなよ」
太一は目頭を押さえて、空を見上げる。
「やっと立ち直ったんだから」
「そうなんですか?」
まったく興味のない声で相槌だけ打つと、吉田は足の向きを変えた。太一は吉田の片手からバケツを一つ奪った。
「手伝うよ」
白い歯が光る、いい笑顔だ。
吉田はその笑顔に冷たい視線で応える。
「いいですけど、大丈夫ですか?」
「別に妊婦だって構ないさ。あの美しさを近くで拝めるなら芋だって運ぶさ」
吉田は数秒その笑顔を見つめた。
「そういう大丈夫ではまったくないんですが・・・」
小声で呟いたその声はもちろん太一の耳には届かなかった。
「追加の芋持ってきましたよ」
最前線の炊き出し場所につくと吉田は芋バケツを置いた。
「太一先輩こっちです」
人を避けながら太一が疲れ切った様子で辿り着いた。
「ここに置いて下さい」
「おう」
肩で息をしながら、バケツを下ろす。
「ご苦労様です。ありがとうございました」
さっと、ペットボトルが差し出される。
「おっ、気が利くね」
太一は身体を起こして、そのまま固まった。
「どういたしまして」
そこには満面の笑顔の山崎が立っていた。
「復活しました?」
タープの外で座り込んでる太一に吉田は芋の入った容器を差し出した。
ほかほかのおおきな芋の上に明太子とマヨネーズが乗っている。
「・・・おう、ありがとう」
太一はおとなしく容器を受け取った。
「去年の姫仕切りの芋煮会も蒸かし芋だったんですけど、味付けが塩だけという至ってシンプルなものでして。多くの参加者が、えっていう気持ちを飲み込んだ所に、山崎さんと鈴木さんが各種トッピングを持って現れたんですよ。もう、救世主でした。そして、そのトッピングたちがどれも素晴らしくて、今年は姫の反対を押し切って初めからトッピングありなんです」
シンプルに塩だけが一番芋の味が分かると、がんばった花梨の意見はやんわりと皆に却下されたのだ。
吉田は一応何故ここに山崎がいるかを説明した。
「鈴木さんって?」
魂のないまま太一は聞いた。
「なんでも紫藤家のシェフらしいですよ」
「そうなんだ」
どうでもいいことでもしゃべってないとやっていられないといった感じだ。
吉田はそっとしといたほうがいいと判断すると踵を返した。
そこへ
「鳥居先輩、お手伝いありがとうございます」
額に浮かんだ汗を気にしもせず、大きなお腹を抱えながら花梨がやってきた。
すごい勢いで太一が立ち上がった。
突然生き返った死体みたいだ、と吉田は一歩下がった。
「いや、ゼミの芋煮会がこんな盛大な会になってるって知らなったよ。楽しいね」
太一はイケメンを取り戻した。
何事もなかったように花梨と楽しそうに会話をする太一を、吉田は見直した。
「この切り替えの早さ、そして振舞い。さすが太一先輩ね」




