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シンデレラになってみました  作者: 椛こま


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47/52

シンデレラになってみました 47話


 桜桃学園。

 名前の通り学園内にはたくさんの桜の木が植えられている。

 そして、桜と同じぐらい植えられているのが桃ではなく梅だ。

 大きな理由としては同じ時期に咲いてしまう桜と桃より、時期がずれ卒業式に花を添えられる梅の方がいいという簡単な理由だ。

 今年は梅の花が遅咲きだったため、満開とはいかないが見頃となっていた。

 卒業式に訪れた多くの生徒、父母がその梅園を背景に写真を撮っていた。

 桜桃学園の卒業式は、中等部、高等部と合同で行われる。合同でも卒業生は40人弱しかいないがさすがに多くの人で賑わっていた。

  

 卒業式は、クラス長朝宮一伽の見事な答辞で幕を終えた。

 花梨は朝から涙ぐみ、式の最中にはずっと鼻を啜っている有様だったため、式が終わった時には瞼が赤ぼったく腫れあがった酷い顔になっていた。

 そのひどい顔をクラスメイト全員が泣き笑いでからかった。

 野乃香も上機嫌で並んで写真を撮ったりしている。

 「野々香さんと二人でお写真を撮るの初めてじゃないですか?」

 撮り終えて花梨はまた鼻を啜った。

 「花梨さんとはこの学園を卒業したらもう会うこともないと思っていましたけど、これからも紫藤家の若奥様とは顔を合わせることがあるでしょうから、新しい私たちの始まりの記念に」

 花梨は涙を堪えきれず、むせた。

 「そうですわね。お別れではないのですね、これから新しく始まるのですね」

 野乃香の手を握ろうと伸ばした手をやんわりとかわされ、その手にはハンカチを握らされた。

 「さあ、お鼻をお拭きになって」

 優しい声音だが、野乃香の身体は二歩下がっていた。

 「野乃香さんはアメリカへはいつ?」

 花梨は渡されたハンカチで鼻を拭く。

 一瞬拭いたハンカチと野乃香の顔を見比べたが黙って制服のポケットにしまった。

 「いつご出発ですか?」

 質問の続きをする。

 「あちらの新学期は9月からですが、早めに行って環境に慣れるつもりですわ」

 「ひとり暮らしをなさるのですか?」

 「ええ」

 花梨の耳にも野乃香の実家は実力主義だと入ってきている。父親の経営する会社で働きたければ、認められるだけの実力を付けなければならないのだ。もちろん何もぜず父親のお眼鏡にかなった相手と結婚するという選択もある。

 野乃香は後者を選ばなかった、選ばないだけではなくそういった生き方を否定していた。

 「大学へ進学なさるのですって?」

 完全に否定している生き方を選んだ、目の前のお人形を野乃香は認められない。

 「ええ。おじい様の強い勧めで}

 「何もしなくていい身分で、強い目的もなく周りの勧めで大学へお行きになるのね」

 笑顔だが棘を含んだ言葉だった。

 「はい。ありがたいことに」

 花梨は笑顔で答える。

 「自分に何ができるかは分かりませんが、新しい知識を得ることは決して無駄にはならないと思っております。日々を大切に今を過ごす、その続きに明日がありますから」

 野乃香は笑顔で頷き、心で罵った。

 『ああ、やはり相いれない』

 「それでは、花梨さん、いづれどこかの社交の場でお会いしましょう」

 ごきげんよう、美しいお辞儀をすると野乃香は去って行った。

 「何だって?」

 ひょいと向日葵が覗き込んだ。

 花梨は野乃香の後ろ姿を見送っている。

 「うん。何もしなくていいのに勉強するなんて偉いねって」

 「言ってないだろう」

 真顔で向日葵は突っ込んだ。

 えっ?という顔で花梨は振り返える。

 「一言一句正確ではないけどそう言って、応援してくれてたわよ」

 「ほう」

 向日葵は、そうか良かったな、と相槌を打った。

 花梨は悪意を理解しない。

 面と向かってはっきりと悪口を言われても「私のこと嫌いなのですね」と受け答える。嫌われている事実を理解はするが、その言葉に含まれる悪意を理解できないのだ。

 はっきり言ってもきっとそうなので、笑顔での嫌味などもっての外だった。

 向日葵と百合は高等部に進学した当初は学園を後にした花梨の事を心配していた。

 世間が学園のようではないからだ。

 悪意を理解できなくても、学園では花梨に被害はない。でも、世間は違う。悪意が通じないと思ったら直接行動に出る人間もいる。そうなった時の花梨の心配をしていた。

 だが、その心配は自然となくなっていった。

 花梨は強い。

 そして、すさまじく鈍い。

 鈍感力とはよく言ったもので、気づかなければ知ることはない。

 花梨が他人によってひどく傷つけられることはないと思うに至った。

 「いい式でしたわね」

 いつの間にか百合も隣にいる。

 「うん」

 花梨の目にまた涙が溜まる。

 「あらあら、またそんなに」

 百合がハンカチを取り出す。

 「そういえば、悠人さんと話しをしたのですか?」

 花梨の涙を優しくぬぐいながら百合は聞いた。

 「うん」

 「花梨が大学へ行く心配をなさっていたの?」

 「うーん・・・」

 花梨は目を泳がす。

 「なんだその反応?」

 「いや、何というか、悠人さんの心配事は私にはさっぱり理解できない事だったのよ」

 集合写真を撮る準備が整うまで、生徒たちは各々集まって話をしている。クラスメイトたちと写真を取り終えた花梨たちは少し離れた場所にいた。

 「理解できない?」

 向日葵が首を傾げた。

 「私の世界が広がると、本当の恋をするだろう、それが問題だ。みたいなことを言って」

 百合と向日葵が顔を合わせる。

 「私がいくら悠人さんを好きになったからそんなことはないです、と言っても信じてくれなくて。会話がまったくかみ合わなかったの」 

 「闇が深いな」

 「拗らせてるわね」

 ため息まじりに二人が呟いた言葉に花梨は「あら」と目を大きくして、

 「言い得て妙ね」

 と、納得した顔で頷いた。

 「それでどうしたんだ?」

 「話しても分かってもらえないから、行動で示してみたわ」

 「行動?」

 向日葵が続きを促す前に百合がグイと花梨に詰め寄った。

 「避妊は?」

 百合の質問に向日葵の口が開けっ放しになった。

 「やったのか?」

 ゴンと鈍い音が向日葵の背中を直撃する。

 「下品過ぎるわ」

 「いや、いきなり避妊の有無を聞くのも同じだろう」

 小さな声で向日葵は抗議した。

 「どうして避妊を?」

 花梨は二人のやり取りにかまわない。

 「子供を作るためにしたのに」

 「えっ」

 二人はじゃれ合っていた手を止めた。

 「赤ちゃんができれば、悠人さんも分かってくれるかなと思って」

 「そのために妊娠するの?」

 百合の声がいつになく大きくなった。

 向日葵が慌てて辺りを見渡した。幸い離れた場所に居たので誰もこちらには注目していなかった。

 「花梨、妊娠、出産を簡単に考えてはいけないわ」

 百合の声のトーンは下がったが真剣そのものだ。

 「そう?赤ちゃんは可愛いと思うし、おじい様やお杉さんに見てもらえるうちに産めるなら産みたいし。大きなお腹で大学へ通えば悠人さんの謎な心配事も無くなるし」

 そこで言葉を切り花梨は大きな瞳を瞬いた。

 「私の赤ちゃんよ、百合も向日葵も見たくない?」

 そこから発射された見えないビームに百合も向日葵も撃ち抜かれた。

 「見たい」

 「抱っこしたい」

 「でしょ?」

 花梨は満足そうに微笑んだ。

 「こればかりは神のみぞ知るだけどね」

 そう言うと、がばりと花梨は二人に抱きついた。

 「ずっと、ありがとう。これからも」

 花梨の腕から熱が伝わる。

 百合は鼻の奥が痛くなったのを堪えた。

 向日葵は花梨の腕の下から自分の腕を抜き出すと、二人を抱きしめ直した。

 「泣かすなよ」

 もう声は泣いている。

 「もう」

 百合も堪えきれなくなった。

 「へへへ」

 鼻水を啜りながら花梨は笑った。

 二人が同時にその鼻を拭く。

 顔を見合わせて三人は噴き出すと、固まったままグルグルと回った。

 スカートが広がり、駒のようだ。

 「準備が整いましたので、校庭の方へ集まって下さい」

 シスターの声が聞こえる。

 三人は手をつないで駆け出した。 

 


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