シンデレラになってみました 44話
「悠人の様子が変?」
向日葵の問いに花梨は曖昧に頷いた。
「どうおかしいのですの?」
「うーん、難しいけど・・・」
百合の言葉に言葉を濁す。
センター試験も終わり、三人は久々に学園の茶室で顔を合わせた。
「悠人さんの様子が気になりだしてから、よくよく考えてみたんだけど」
「おう」
向日葵は畳にごろりと寝ころぶ。
百合が冷ややかな視線を送ったが、花梨は気にせず話を続けた。
「たぶん、大学行を決めた頃からだったと思う」
「何だそれ?」
花梨は申し込みギリギリでセンター試験の受験を決めた。花梨自身は進学はどうでもいい感じになっていたのだが、十三が強く望んだからだ。医大には無理でも花梨の望む農業系の大学ならそれほどの努力をしなくても行けるぐらいの成績だったのも決めて手だった。
「悠人も行け行けって感じだっただろう?」
「うん。今でもそうだよ。でも、そうだと思う。ヤスミンがいた時も何か変だったけど、最近の傾向を考えてみると、そうかなって」
百合は黙って聞いている。
「こう、」
花梨は見えない網を引きだした。
「記憶を辿って行くと、あれ?と思う時が大学について話している時だと思い当たりまして」
向日葵は見えない網に捕まってもがいて見せる。
花梨は調子に乗ってさらに網を引っ張った。向日葵が暴れる、花梨が立ち上がった所で百合が「パン」と手を打った。二人は動きを止める。
「それで、花梨は何を困っているの?」
「困ってはいないよ。ちょっと戸惑ってる。大学に行って欲しくないわけではないと思うの。たぶん紫藤家の家の仕事と学業との両立を心配してくれてるんだと思うんだよね」
「まあ、大変だわな。成人すれば、もっとバンバン色んな所に連れ出されるだろうし」
「そう、私も大変さはちょっとづつ分かってきたから、大丈夫!とは言えないけど、勉強の方は嫌いではないし、好きな事の勉強だから大丈夫だとは思うんだよね。どちらかというと社交のほうの勉強が心配だけどね」
「そこは、悠人も村瀬さんも対処してくれるだろうよ」
「うん。だから、心配しないでと言いたいんだけど、言ったら言ったで、心配してないよって答えてくれるのが分かってるから言えないんだよね」
「まあ、そうだな」
向日葵は頷いたが百合は腕を組んで黙っている。
「百合?」
花梨に覗き込まれて、百合は瞬きをした。
「答えがわかっていても、私はちゃんと言った方がいいと思うわ」
「・・・うん。私もそう思うんだけど。何か言いづらい・・・」
花梨の頭の中には大学の話になるとどことなくよそよそしくなり、話を躱そうとする悠人の姿が浮かぶ。その悠人を前にして、その話を悠人に振る、それはハードルが高く感じる。
「結婚した日に悠人さんにお願いされたことがあったでしょう?」
百合に言われて花梨は思い出す。
『私は余り人の心の機微に敏感ではない。だから、言いたいことがあればハッキリと言って欲しい。察して欲しいと思ったとしても、できれば言って欲しい。お願いしておく』
悠人の言葉が浮かぶ。
「言ってた」
花梨は弾かれたように百合を見た。
「そう。ちゃんと言葉にした方がいい。悠人さんの態度が何が原因でそうなっているか、確かめもしないで決めつけるのはいけないわ。お互いにそうしていると、そのうち聞けないで想像してしまうことが増えていってしまうわよ」
「・・・」
花梨は一瞬足元を見ると大きく頷いた。上げられた顔は吹っ切れた笑顔だ。
向日葵はゴロリと寝返りを打つと真面目な顔で言った。
「かわいいな~」
花梨と百合は揃って、向日葵の頭を叩いた。
「スッキリしたから、久しぶりにお茶点てるね」
痛がる向日葵を尻目に花梨はお茶を点てる準備を始めた。
「はぁー」
花梨は大きなため息をついた。
茶室で百合に諭された時はそれは簡単な事に思えたが、その後も花梨は悠人の態度について切り出せずに過ごしていた。
今日こそはと決意しても、いざ悠人を前にすると口から出るのは別の話題になってしまった。
何故出来ないのか?自問自答している間に受験も終わり、花梨は都内の国立農工大学に合格した。
百合も医大合格が決まり、向日葵はプロテニスプレイヤーとしての準備が整った。
お祝いをしようとは言っているものの、それぞれ報告や先の準備に追われて会うのは、卒業式だという事になっている。
その卒業式が明日に迫ってしまったのだ。
「あああああああああ」
花梨は膝に抱えたクッションに向かって叫んだ。
「どうしてこんなことに?」
毎日の日課になった自問自答の時間だ。
「私はいったい何をしてたの?」
「受験勉強ね」
声に出して、花梨は花梨に答える。
「終わってからは?」
「おじい様に報告したり、お母さんに報告したり、そう、お杉さんを労うために旅行に行かせたからその間久々に三条家で過ごしたし、保おじさんの所へも報告して泊まったり、忙しかったじゃない」
「まあ、そんなこともあったね」
「そうよ、なかなか悠人さんと真面目な話をする機会がなかっただけだよ」
「・・・・・・・・」
確かに忙しかったことは確かだ。紫藤の関係のパーティにも一度参加しなくてはならなくなり、気の置けない時もあった。でも、すべてが言い訳だと解っている。
「うー」
花梨は唸り声を枕に吸い込ませるた。
数分、動かず唸り続けると、花梨はすくっと立ち上がった。
「よし」
明日は卒業式なのだ、花梨は自分に問う。
卒業できるのは誰のお陰?進学できるのは?この一年学園生活を満喫できたのは?将来の憂いを失くしてくれたのは?こんなに満ち足りた日々を送れるのは?
「悠人さんにちゃんとお礼を言わなきゃ」
花梨はクリスマスに貰ったジャージの裾を直すと隣の部屋の扉をノックした。




