シンデレラになってみました 42話
「それで」
と、百合と向日葵は顔を近づけた。
クリスマスイブ明けのクリスマス、桜桃学園は敬虔なカトリック校だ。冬休みに入っているがもちろんミサがあった。ミサに参加した後、有志で学園と馴染みの深い教会のボランティアにやってきた三人は教会の経営する孤児院でプレゼントを配り終え、広場のベンチで一休みしていた。
「それで?」
花梨は二人の友人の聞きたいことが分らず、首を傾げた。
「その後はどうしたの?」
「ああ」
花梨は頷く。
「よく考えたら、私たち庭にいたということに気づいて」
花梨は思い出して赤面する。
「いや、庭って言っても誰もいないだろう?」
「そうなんだけど、テントも透明だったし、我に返ったというか、もうとにかく気づいたら恥ずかしくて・・・」
大きくため息をつく姿がまた子ウサギの様に可愛いので、向日葵はもういいかという気分になった。
「それで?」
だが、百合は引かなかった。
「それで・・・ちょっと気まずい雰囲気になったんだけど、プレゼントを渡してなかったから、プレゼントを渡したよ」
百合にも、それでの先に自分が期待する答えがないことが分かった。
「プレゼントは気に入ってもらえました?」
「うん」
花梨の笑顔が輝く。
「結婚指輪がなかったとはな」
結婚披露宴の直前にダイヤモンドの指輪を貰った。
慌てて用意しましたという感じが強かったが、その輝きに花梨は驚いたし、申し訳なく感じたことをよく覚えてる。結婚指輪は披露宴後に二人で買いに行こうと、その時悠人は言った。
それが式の後延び延びになってしまっていたのだ。
悠人には結婚指輪が必要という感覚がたぶんなかった。だから、重要度が低かったのだと思う。花梨もまた学園では装飾品は禁止のため、指輪はあっても身に着けられないとうことがあったので、やはりすぐ欲しいという気持ちは持っていなかった。
でも、半年一緒に暮らし、気持ちを告げ合うようになった今は、指輪が欲しいと心から思うようになった。花梨は学生だが悠人は大人で社会人だ。海外の客とも接する悠人には既婚者の証が必要だと思う。
クリスマスプレゼントを選ぶとなった時、花梨はすぐに指輪を買おうと決めた。
この考えを思いついた時、何でも持っている悠人に、たった一つと言える物をあげられる喜びに花梨は興奮した。
紫藤家に嫁いでから花梨は自分のお金という物を持っていなかった。
家計を任せられた日に悠人は花梨に通帳とカードを渡してくれた。通帳には悠人の給料が入金されていた。カードは花梨名義だったが、引き落とし先はその通帳になっていた。
花梨は自分の日常品はそのカードを使って購入していたが、個人的なお小遣いをその通帳から、引き下ろそうという気持ちにはなれなかった。自分では何の労働もしていない、強い罪悪感がある。
プレゼントを買うにあたって花梨は結婚前にアルバイトで稼いだお金をすべて当てた。
21万円。
このお金をすべて使えるのも、悠人と結婚して経済的な心配が一切ないということが大前提にあるので、心が痛まないわけではなかったが、そこは目を瞑った。
とにかく自分で稼いだ唯一無二のお金で好きな人に、記念となる物を贈れる喜びを純粋にかみしめた。
花梨にとっては大金だが、この値段で買える指輪には限りがあり、悠人がいつも身に着けている物との釣り合いから見て不足していたがそこは考えないことにして、花梨は百合の教えてくれた日本のジュエリーブランドを選んだ。
百合と向日葵と一緒に選んだそれは、洗練されているのに滑らかな優しいラインの物で、ほんのりと和の雰囲気がした。
指輪を渡した時の驚いた悠人の顔を思い出す。
悠人はポカンとしていた。
花梨はそんな顔をする悠人を初めて見た。虚を点かれた、といった感じだったのだろう。
満面の笑みで喜んでくれるとは行かなかったが、すぐに悠人は自分を取り戻した。
「ありがとうございます」
「もちろん、ペアリングですよ。結婚指輪ですもの」
花梨は自分の指輪ケースを出した。
自分のケースを開ける。
そして、悠人の手に合ったケースと交換した。
「指輪、嵌めて頂けますか?」
悠人はぎこちなく頷くと、二人は指輪交換をした。
「悠人さんは何でも持っているので、結婚指輪を私が贈れて、本当に嬉しいです」
「ありがとう」
悠人は言葉を切る。
「ごめん、指輪のこと忘れてしまって」
「むしろ忘れてくれていて良かったんです。こうして一生の思い出に残る贈り物になったから」
花梨は悠人の左手に自分の左手を重ねた。
「これからずっと年を重ねて行きましょうね」
悠人は頷いた。
「で、悠人のプレゼントは何だったんだ?」
花梨は記憶の再生を止めた。
「確か、プレゼントの趣味が悪いんだろう?」
花梨は貰った物を思い出して笑った。
「悪くはなかったよ。でも実用的だった」
「何でしたの?」
「ジャージ」
『ジャージ?』
百合と向日葵の声が揃う。
「私、紫藤家に入ってからおじい様が用意して下さった洋服を着ているでしょ?でも、部屋着はいつものスウェットを着てたの。三条家から持ち込んだ二着の、あれ」
百合も向日葵もそれは知っていた。花梨は中学の時からそれを愛用していた。だから、ボロボロなのももちろん知っていた。
「まだ、着てたんだ」
「うん、落ち着くし、リラックス出来るから」
「みすぼらしかったんだな」
「たぶん・・・」
「きっとすごく考えてくれたのよ。花梨が本当に欲しい物」
百合の言葉に花梨は大きく首を振った。
「そう、きっとそう。だから、すごく嬉しかった」
だから、花梨は悠人にもそう告げた。心からの感謝を。
悠人は微笑んでそれに応えた。
でも、その笑顔に花梨はどこか不自然な印象を受けた。
「ケーキを食べましょう」
悠人のその提案で花梨はその不自然さを忘れてしまった。
そして、ケーキを食べ部屋に戻ったのだ。
ケーキはとても美味しかったし、二人はたのしくおしゃべりした。
でも、もうキスの続きをする雰囲気ではなかった。
「どうしたの?」
「ん?」
百合の問いかけに、花梨はまた記憶の再生を止める。
「今年ののクリスマスは盛沢山だったなと思って。お母さんとお杉さんと朝クリスマスして、百合と向日葵と昼クリスマスして、悠人さんと夜クリスマス」
「おお、ほんとだな」
「来年もしましょうね」
『もちろん』
花梨と向日葵の声が揃ったところに、シスターがやってきた。
「花梨さんたち、もう少しお手伝いをお願いするわ」
「はい、シスター」
三人はすぐに立ち上がった。




