シンデレラになってみました 41話
村瀬から車が入ってきたと聞いて、悠人は玄関まで花梨と山崎を迎えに出た。
「お帰り」
出迎えた悠人の前に現れたのは花梨を抱きかかえた山崎だった。
悠人はゆっくり近寄ると山崎の腕の中を見つめた。
「これは?」
山崎は神妙な顔で答える。
「百合様のお宅でのクリスマス会でどうやらアルコールを頂いたようです」
悠人は数日前の百合と向日葵の顔を思い出した。あの時、「良いクリスマスを」とあの二人は言ってなかったか?自然と眉間に皺が寄る。
「お部屋に運びますか?」
悠人は黙って山崎に手を出した。
「いや、庭に運ぶ」
悠人は山崎から花梨を受け取ると、そのまま庭に向かった。
村瀬が先回りして庭に通じる大窓を開けた。
庭は電飾でデコレーションされ美しく輝いていた。その真ん中にドーム型の透明テントが設置されていた。悠人は花梨を抱えたままドームの中に入ると、そっとソファに花梨を寝かせた。悠人は傍らに座るとしばらくの間じっと花梨の寝顔を見つめた。
ずっと見ていられる。
自分でもおかしくなったと思うぐらい花梨が好きだと実感する。
悠人は立ち上がると、家の中に戻りブランケットを持ってきた。
テント内はオイルヒーターで丁度良い室温になっているが、無防備に寝る花梨が心配だった。
そっと花梨に毛布を掛ける。
そして、また花梨に見とれた。
閉じた目を縁取る長い睫毛、美しく通った鼻筋、ほんのりと色ずく頬、ピンク色の形のいい唇。
悠人は唇で優しく睫毛をつつき、鼻筋を辿った。そして、頬に手を添えると軽く唇に触れた。
「ん」
花梨の睫毛が動く。
悠人が触れた所がこそばゆかったのか、花梨は手で頬をこすりながら目を開けた。
目の前の悠人の顔に驚く。
「悠人さん?」
「ええ」
「私どうやって・・・」
花梨は身体を起こして、止まった。
大きな瞳がさらに大きく開く。
「わぁ、すごい」
テントの中から見ると、星空に浮いているような景色だった。
花梨が改めて悠人を見た。
「悠人さんがこれを?」
「花梨を驚かせたかった」
花梨は手を広げると、悠人に抱きついた。
「とても、素敵。ありがとうございます」
悠人の手が花梨の背中に回る。
「どういたしまして。花梨が喜んでくれて私も嬉しい」
二人は少し離れると、見つめ合った。
花梨が嬉しそうに微笑んだ。
可愛い。
悠人は心の底からそう思う。
チュ、悠人は軽く唇を合わせる。
また、花梨は嬉しそうに微笑む。
もう一度キスをする。
花梨の頬に添えられた悠人の手がゆっくりと頭の後ろに動く。
「ぐぅ~」
その音は静かなテント内に響き渡った。
「きゃー」
花梨は悠人を押しのける様に離れると、真っ赤になって腹を押さえた。
「こ、これには、訳があるです」
おかしな言葉で、真剣に訴えかける。
「今日は豪華なクリスマスディナーだからと山崎さんと鈴木さんに朝念を押されたので、百合の家ではあまり食べなかったんです」
「ええ、分かっていますよ」
悠人は笑いを堪えながら立ち上がった。
「すぐに食事を持ってきますね」
花梨は真っ赤な顔を下に向けたままコクコクと首を振った。
キッチンに行くと山崎と鈴木がすぐに気が付いた。
「花梨様、起きました?」
「ああ。お腹すいたって。朝二人に今日はごちそうだって聞いたから、昼は軽めにしたそうだよ」
さっきの花梨の顔が浮かんで、ついにやついてしまう。
「よかった。今日はもう食べられないかもと話していたんですよ」
そう言いながら、鈴木の身体は素早く料理に取り掛かっていた。
「すぐ準備が整いますから」
「整い次第、私が運びます」
山崎も手伝う。
「いや、待っているよ。私が運びたい」
悠人は入り口のスツールに腰を落とした。
「いいんですか?」
山崎は庭の方角を気にする。一人で待っている花梨が心配になったのだろう。
「うん。花梨ももう少し一人で居たいんじゃないかと思うから」
悠人の言葉に山崎はもう何も言わなかった。
15分もすると食事の用意が整った。
前菜のオードブルが可愛く皿にのり、温かいホウレンソウのスープの隣でターキーの半身は香ばしい香りを放っていた。
「ケーキは冷蔵庫に」
「ああ、ありがとう。今日はもう上がって。あとは私がやるから」
二人は黙って頷いた。
「二人ともありがとう。良いクリスマスを」
悠人の笑顔に二人も笑顔で応える。
「悠人様も花梨様と良いクリスマスを」
「ああ」
悠人は料理を乗せたサイドテーブルを押しながら消えて行った。
酔いも、恥ずかしさもすっかり冷めたらしく、料理を見た花梨は目を輝かせた。
「美味しそう」
皿を食い入るように見つめる。
「食べようか?」
悠人も向かいに座る。
「はい」
二人はシャンメリーで乾杯した。
「悠人さんはお酒でなくていいんですか?」
見つめる花梨の目を悠人は見つめ返した。
「うん。今日はちゃんと花梨を見ていたいからね」
1.2.3.花梨は堪え切れず、目を反らした。
「テントだからかな?ちょっと熱くなってきました」
赤くなった顔色を胡麻化すために、パタパタと手で風送っている。
「可愛い」
悠人の言葉に、花梨の手が止まり、更に顔が赤くなる。
「ゆ、悠人さん、何だか今日はおかしいですよ」
「口に出てた?ごめんごめん。さあ、食べよう」
悠人は笑いながら、前菜に手を付ける。花梨もそれに倣うように食事を始めた。
「ヤスミンも今頃奥様とクリスマスを祝っているかしら?」
食事が終わってお腹も気持ちも落ち着いたのか、花梨はいつもの調子を取り戻した。
ヤスミンの名前を聞き、悠人のさっきまでの至上の幸福感が揺らいだ。
「本当にヤスミンが王子様だったとは驚きました」
花梨の興奮は、ヤスミンが去った四日後の今日も変わらない。
またその話か。
悠人の眉間に皺が寄り始める。
「王子様というのも本当に大変ですよね。王女になったのにまだ気に入らない方がいるんなんて。わざわざ日本まで脅すためだけに来てあんな事件起こしてしまうのですから。あのせいでヤスミンは帰国を早めなくてはならなくなったし」
そこはむしろありがたかった。
「捕まった人たちが私たちの家の警備には隙がなくて手を出せなかったという話を聞いて、山崎さんと、村瀬さんには頭が下がりました」
結婚式の事件以来、紫藤家若夫婦のお屋敷はイーサン・ハントでも侵入不可能な警備体制だった。
「私もそこは誇らしかった」
十三にも褒められたし、何より安全を確認出来て本当に安心した。
「ヤスミン元気にしてるかな~」
花梨がうっとりとした顔で遠くを見る。
悠人は口を拭いていたナプキンを置き、立ち上がった。
身体を折り曲げると、花梨の顎を掴んで、そのままキスをした。
花梨の瞳は転がり落ちそうなほど見開かれてる。
「デザートが食べたくなった」
そう言って笑顔を向けると、花梨の身体から力が抜ける。
悠人はさっと花梨の横へ移動して、その身体を支えた。
隠そうと下を向く顔を両手で挟むと視線を合わせた。
「好きだよ、花梨」
花梨の顔からギャーと悲鳴が聞こえるようだ。
悠人は噴き出すのを我慢しながら、またキスをする。
「好きだよ花梨」
悠人は魔法の様に、優しく囁くと、唇を重ねる。さっきより深く、長く。
ゆっくりと名残惜しく唇を離すと、離した口が応えた。
「私も大好きです、悠人さん」
離れた唇が近づき、悠人の唇に押し付けられる。
自分の鼓動が耳元で聞こえる。
優しく花梨の頭をかき寄せ、身体を抱き寄せると、その音はさらに大きくなった。
もう、どちらの鼓動なのか分からない。
二人は何度もキスをした。




