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シンデレラになってみました  作者: 椛こま


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40/52

シンデレラになってみました 40話



 ヤスミンの帰国が決まった事とクリスマスが重なった事もあり、桜組ではクリスマスパーティ込みの送別会が催されることになった。  

 学期末の最終日が12月20日だったため、その日の午後にパーティーは開かれた。

 会場はクラスメイトの瀧澤野乃香たっての願いで、野乃香のお屋敷で行われることになった。

瀧澤家は学園内でも数本の指に数えることが出来るほどの資産家だ。

 「みんな、凝ってるな」

 ゴテゴテのゴスロリに身を包んだ百合は小さな真っ黒いレースの日傘を少し傾けて声の主を見上げた。三つ揃いのスーツをビシッと着こなした向日葵が立っている。

 パーティはヤスミンの希望でドレスコードがコスプレになったのだった。

 「今日の主人公はどこだ?」

 向日葵の声に合わせて百合は正面奥を指さした。

 妖精やら、お姫様やら、魔女やら、猫に囲まれたアラブの王子がそこにいた。

 「あれはコスプレなのか?」

 全身白のトーブに包まれ、付け髭を付けたヤスミンに向日葵は呆れた声を出した。

 「向日葵だって変わらないわよ」

 百合はおかしそうに順番に二人を見比べた。

 「でも、少し前まではあれがヤスミンだったと思うと、すごい説得力がありますわね。あれでは誰がどう見ても男にしか見えないわ。ロマンス小説の王族そのままですもの」

 「確かに。体型もカバーできるし、ちょっとやそっとじゃ分からないな」

 「それにしても、花梨があんなに懐くとは思いませんでしたわ」

 石油王の周りをウロチョロしている猫を見る百合の口調には含みがある。

 地下アイドルを見に行った時にした猫のメイクが気に入り、今回も花梨は猫になりたいと言い張った。今回は顔だけでなく身体も猫になっている。有名ミュージカルに出演出来るレベルの出来だった。

 「本当にな。基本人見知りなのに・・・」

 向日葵は苦々しい顔を隠しもしない。

 「私たちですらこんなに嫉妬に駆られているのですから、悠人さんの心中察しますわ」

 「家の中ではもっとべったりだろうからな」

 吐き出すように向日葵も答える。

 「マダムの計算通りといった所だろうけど、これでヤスミンがいなくなったらホッとして終わりなんじゃないの?いや、いなくなった、やったー!ってガツガツしたら、むしろヤバい奴じゃない?」

 全身真っ黒のレースの少女は瞳を宙に浮かせた。

 「マダムの狙いはもっとこう、悠人さんの気持ちに土足で踏み入った所を揺さぶる感じだと思うわ」

 ハリウッドスターのようなリアクションで向日葵は顔をしかめた。

 「何だか、いやだな。分かんないけどそれって悪趣味なんじゃないか?」

 「マダムがやると、ラブセラピーなんだと思うわ」

 「・・・ラブセラピーね」

 向日葵は分かった様な分からないような曖昧な返事をした。

 まるでホテルのホールのような広さの部屋の真ん中には見事なクリスマスツリーが鎮座している。きらめくオーナメントが眩しく輝きクリスマスのムードを存分に盛り上げている。

 ピアノの生演奏が絶えず聞こえている中、野乃香が石油王をホール中央に連れ出し、ダンスを踊り出した。

 「これはなんでもズルいだろう」

 向日葵は呆れた声をだした。桜組の面々しかいないのだから、残された者はみんな女性なのだ。普段なら向日葵も十分男性になり得るのだが、何と言ってもそこは幼少からの仲ということがあり、桜組では向日葵をあこがれの対象として見るのには無理があった。

 すると、側でそれを見ていた猫が、隣にいた妖精の手を取り踊り出した。

 結婚式のダンスの特訓の成果があり花梨のワルツは美しい。しなやかな猫がリードする姿がまたワルツに美しさを足していた。

 その場から歓声が上がる。

 「あら素敵」

 百合が傘を置き向日葵の手を取ると、颯爽とホール中央までスッテプを踏み出した。

 それにつられるように皆が近くにいた者と手を取り踊り出す。

 皆、良家の子女なのでダンスはお手の物だ。

 クルクルと花が舞う。

 軽やかなステップに合わせて「キャッ、キャッ」と可愛い声が舞う。

 色とりどりの小鳥たちが代わる代わるに舞い踊る。

 百合は花梨の手を取った。

 くるりと猫を回す。

 「ふふ」

 花梨が軽やかに舞う。

 「百合上手ね」

 微笑む猫を思わず撫でたくなる。

 「なんて可愛らしいの」

 百合は小さなため息をつく。

 初めて花梨を見た時の思いが蘇った。

 恥ずかしいそうに皆の前で挨拶をしたその娘は、本当に人形のようだった。

 百合は一目で虜になったが、バラが美しいだけのものでなく棘があることを知っていた。だから向日葵のようにすぐに自分の気持ちを素直に表現することはしなかった。まず、観察したのだ。天使の裏の顔を暴くようにしっかりと。

 でも、その抵抗はすぐに崩れてしまった。

 花梨は本当に天使だった。

 知れば知れるほど痛感する。

 花梨の心は湧き出る泉だ。その泉にどんな汚水が入っても湧き出る水に浄化される。水はいつでも澄んだままなのだ。

 くるりと花梨を回して百合は向日葵に猫を手渡した。向日葵はもうデレデレだ。ワルツを踊っていたはずなのにチークになっている。

 百合の所に新たにやってきたのは本日の立役者の野乃香だった。

 「今日はとても素敵な会をありがとう」

 百合は自然と笑顔になった。

 「いいえ」

 野乃香も笑顔を浮かべて軽やかににステップを踏む。

 この野乃香が一番花梨を受け入れなかったクラスメイトだ。きっと今も心では花梨に反発しているはずだ。花梨がなんでも持っていた少女時代には色々ちょっかいを出していた。花梨の家庭が経済的に壊れてやっと野乃香は花梨を気にしなくなった。財産がなくなった花梨を気にすることが野乃香には許せなかったのだ。

 それが悠人との結婚だ。

 野乃香の密かな優越感がなくなり、さぞ悔しかっただろうと百合は推察していた。でも、野乃香ももう子供ではない、自分の心はちゃんとオブラートに包んで、花梨の前でも笑顔で過ごしていた。

 「私ね、野乃香さんのその美しくて気高いプライド、とても好きよ」

 百合はホールドした手に力を込めて野乃香の身体を倒した。

 弓なりに倒れた野乃香の身体は数秒空間に留まると百合の前に戻った。

 「私は百合さんのそういう所、嫌いよ」

 「あら、残念」

 「私が幼心に犯した可愛いイタズラを、よく向日葵さんと邪魔してくれましたわよね。向日葵さんが先回りするよう百合さんが影で操っていたのよね?」

 野乃香の口元が上がる。

 「操っていただなんて、ただ向日葵に気づいたことを話していただけよ。『あら大変向日葵見て、花梨の上靴だけこんなに可愛いスリッパに変わっているわ』『あら向日葵、花梨の机がキラキラとデコレーションされてるわ』『あら、花梨の下駄箱からラブレターが溢れ出ているわ、どうしましょう?』」

 「いやね、まだ覚えてるのね」

 二人はくるくると回転しながらホールを横切る。

 「でもその後のことは私は不可抗力よ。私は花梨が登校する前にひっそりと且つ速やかに片づけるつもりだったのよ」

 「本当かしら?」

 野乃香は百合を睨んだ。

 「もうそこは本当。だって結果花梨に知られてしまったのよ。花梨は善意からやってもらったと思って申し訳ないぐらいに感謝しちゃって。向日葵がギャーギャー騒ぎながら片づけるからそんなことに」

 「確かに」

 くすり、野乃香は笑う。

 「さっきの様に花梨さんはまるで当たり前のようにみんなを幸せにするでしょう。あの純粋な善意。私とは相いれない、でも理解はしましたの。あーいった希少動物のような人もいるのだと。私、自分が理解出来ないものはなんだか得体が知れなくて気持ち悪い。でも、理解できたらそれでいいの、だってはっきりと嫌うことが出来るもの」

 「その気高さがとても素敵」

 「褒めて頂いたけど、嫉妬は本当に醜いもの。私、とても悔しいの」

 百合は黙って野乃香をリードする。

 「花梨さんの未来は苦労の連続のはずだと信じていたのよ。花梨さんは守ってくれていた堅牢な城から出され、掌中の珠と可愛がっていた百合さんと向日葵さんとも別れ今のようにはいかなかなくなる。世間には私の様に綺麗なものを毛嫌いする人間は多いいでしょ?こことは違い。そんな心ない人々の悪意にさらされて、さぞ苦しむだろうと思っていたの。でも、そうはならなかった。新たに彼女を一生庇護してくれる存在がこんなに簡単に現れるとは思いませんでしたわ」

 野乃香は自嘲気味な笑顔をみせる。

 「花梨は元々何でも持っています。それは私や向日葵でも紫藤家の財力でもない、野乃香さんも分かってらっしゃるでしょ?」

 「すべてを奪われても、すべてがその手にあっても花梨さんは変わらない・・・」

 野乃香の呟きは小さく百合の耳までは届かなかった。ターンをすると、曲が終わった。百合と野乃香は分かれると、笑顔であいさつを交わした。

 

 「楽しかったか?」

 向日葵は持っていたグラスをヤスミンに渡した。

 ヤスミンは片目を細めて向日葵からグラスを受け取ると、中身を飲み干した。

 「おお!うまいな」

 向日葵も片目を細めて答えると、自分のグラスを飲み干した。

 「ジュースだけじゃ物足りないだろう?」

 向日葵がボーイに声を掛けると、ボーイは新たなグラスを運んできた。

 二人は笑顔でカツンとグラスを鳴らす。

 「パーティはこうでなくちゃな」

 ヤスミンは本当に美味しそうに二杯目のグラスも飲み干した。

 「いいシャンパンだな」

 「だろう?アーシャのお薦めだからな」

 「アーシャ?」

 「母だ」

 今度は呼んでいないが、ボーイがグラスを新しい物にして変えて行く。

 「楽しかったか?」

 「ああ」

 人懐っこい笑顔でヤスミンは答える。

 向日葵は目を細める。

 自分が女子たちに見せる作り笑顔とは違い本気の笑顔だ。こんな笑顔を向けられたら、たしかに雛鳥たちはイチコロだ。

 「百合の言う通りだな、本物とはこうも凄いものなんだな。マダムの指令は果たしたのか?」

 ん?とヤスミンは首を傾げる。

 「マダム?」

 「マダム愛華から何か言われていないか?」

 「ああ」

 ヤスミンは頷いた。 

 「言われたな。悠人の前で花梨とイチャつくように」

 ハハハとヤスミンは笑った。

 「すっかり忘れていたぞ、そんなこと」

 ヤスミンはまた笑った。

 「でも、たぶんこなしたな。毎朝毎晩、悠人の視線は痛いぐらいだったからな。君の視線もな」

 ハハハ、今度は向日葵が笑い返した。

 「君の気持ちも分るよ。あれは庇護欲が湧く」

 二人の視線がクラスメイトと談笑する猫に注がれる。

 「愛華はあの二人をどうしたいのかね~」

 「聞いてないのか?」

 「ああ、紫藤家へいって嫁にちょっかいを出せとしかな。後は日本を楽しめと」

 向日葵は石油王の横顔をまじまじと眺める。

 「いい休日だったようだな」

 「ああ、この上なくな」

 二人がもう一度グラスを合わせた瞬間だった。

 ガシャン!

 激しい音が響き渡った。

 二人は音の先に視線を投げた。

 二人の目の中に二つの影が映った。侵入者は頭の先から足の先まで真っ黒だった。

 ピーーーーーーー

 警報の音が鳴る。

 「山崎さん」

 自分の周りにいた少女たちを背中に庇い花梨が叫んだ。

 割られた窓から、野乃香の家のボディガード、入り口から山崎が飛び込んでくる。

 「狙いは俺だ。向日葵下がれ」

 向日葵はその声に躊躇なく従った。

 下がった向日葵とは逆に、ヤスミンは侵入者に向かって行く。

 侵入者の二人も迷いなくヤスミンに向かう。

 三人の視線が交わったと同時に拳が舞う。

 割れた窓からまた二人侵入してくる。

 「急いで」

 花梨は周りにいたクラスメイトを隣の部屋に押し込んだ。

 「中から鍵を閉めて。ドアから離れていて」

 「わかった」

 彩桜(あおい)の元気な声が応える。

 花梨はもう一つのドアの中に入る百合と向日葵と野乃香を見た。すぐに視線をヤスミンに向ける。

 二対一だがヤスミンは持ちこたえていた。

 花梨はもう一方の侵入者の方を見た。山崎がすでに一人を抑え込んでいた。抑え込んだ賊を拘束ベルトで素早く縛り上げると、野乃香のボディガードが相手にしていたもう一人の賊に向かった。

 それは一瞬だった。

 山崎は対峙している二人の後ろに回り込むと肝臓を狙い一発ボディに打ち込んだ。賊の膝が崩れた瞬間に背中から抑え込んだ。拘束すると、ヤスミンの方を向き何かを投げつけた。山崎の手から放たれたそれはヤスミンに殴りかかった賊の足に絡みついた。賊はそのまま倒れる。敵が一人になったヤスミンは安々と相手を倒した。駆け寄った山崎から拘束ベルトを受け取ると、二人は賊を縛り上げた。

 「すごい。瞬殺でしたね」

 山崎の動きに花梨は興奮を隠せない。

 「いや、本当に凄いね。殺さずに相手をあれだけ簡単に抑制するとは」

 「捕縛術ですよ。この国では銃撃戦はないですから」

 二人が笑い合った瞬間、足元の塊が一つ飛び起きた。

 飛び起きた賊の手にはナイフが光った。

 だが、賊がヤスミンに向かってナイフを突き出した時にはその手にはもうナイフはなかった。

 花梨の蹴りによって叩き落されたそれは、金属音を出して床に転がった。そして花梨の二発目の蹴りが男の股間を襲った。

 崩れ落ちる男とブルースリーポーズを決める猫を、ヤスミンが唖然と見つめた。

 その後ろから、「花梨素敵!」「ヤスミン!!」「小室よくやったわ」「花梨のお付きの方は強いわね」と黄色い歓声が響き渡る。

 どうやら、ドアの施錠はされていなかったようだ。 

 ヤスミンは花梨と目を合わせると、盛大に笑った。

 「この国のレディたちは素晴らしいな!」





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