シンデレラになってみました 36話
何か音が聞こえた。
悠人はスピーカーから流れる音量を下げた。
ドアベル、だっただろうか?
グラスを置くと、立ち上がった。ぐらっと身体が揺れる。
夕食の後、部屋に戻り一人で飲んでいた。思ったより酔いが回っていたようだ。
ゆっくりドアに向かって歩いて行く。ドアスコープを覗く。
花梨。
悠人はドアを開けた。
「どうしたの?」
花梨の視線は下がっている。もう一度声を掛けようと口を開きかけた。
花梨の瞳に自分が映る。
「お・お話したいことがあって・・・」
薄っすらと頬がピンクに染まっている。
ドクン。
花梨の緊張が伝わってくる。
「どうぞ」
悠人はドアを大きく引いた。
「何か飲む?」
悠人は声を掛けたが、答えは分かっていた。悠人は飲みかけのウィスキーの入ったグラスを持って、花梨の向かいのソファに座った。
花梨は一心に自分の組んだ指先を見ている。
ああ、あの日のようだ。
悠人は、ふっと笑った。
「前にもあったね」
花梨の顔が上がる。
「あの時も花梨はそうして指を回していた」
昨日のように記憶が蘇る。
『子供を作ることです』
花梨は真っ赤な顔でそう言った。
『義兄さんが思っているよりずっと、義兄さんは花梨に愛されていると思う』
欅の声が重なる。
そうなのだろうか?
本当に、私を愛してくれているのだろうか?
「あの時はとても、うれしい相談だったけど、今日は何かな?」
期待していいのだろうか?
「私、私、あなたが好きです」
ダメだ、期待してはいけない。
「家族として?」
自分を押さえなければ。
「悠人さんが好き」
挟み込まれた顔が痛い。
何が起こった?
吸い付かれた唇が痛い。
花梨は吸い付いた口のまま、離れた。
顔が見る見るうちに真っ赤になっていく。
「く、口を吸うって・・・本で読んで」
ああ、なんて可愛いんだ。
悠人は腰を浮かせると、軽く花梨を引き寄せた。そのまま唇を重ねる。
軽く。
そのまま花梨の腰を抱く。
もう一度、軽く唇を重ねた。
見開いていた花梨の瞳が閉じる。
悠人は強く花梨を引き寄せた。
自分の中の思いが溢れてくる。
深く、もっと深く、花梨に注ぎたい。
この熱い思いを。
花梨の頬を引き寄せると、腰を引かれた。
軽く目を開けると、目の前の少女の目はぎゅっと固く閉じられていた。
悠人は我に返る。
そして、優しく花梨を包んだ。
また、私は花梨からただ奪ってしまう、彼女の優しさに甘えて。
「私もあなたが好きです。あなたと・・・」
同じでありたい。
この自分ではどうしようもない熱い思いも、何もかも。
悠人は抱きしめる手に力を込める。このまま一対になるように願って。
「あったかい。すごく安心する」
花梨の優しい手が背中に回る。
悠人は抱き留めた腕の力を抜く。
だめだ、花梨にこの思いを気づかせてはいけない。
私のこの情熱で彼女を踏みにじってはいけない。
彼女は家族として私を受け入れてくれたのだから、彼女を安心させる存在でいなければ。
私は、もうこの手を手放すことは出来ないのだから・・・




