シンデレラになってみました 34話
「急にどうした?」
十三は怪訝そうに聞いた。
「どうもしませんわよ。ただ、あなたの顔が見たかったの」
十三は思い切り顔をしかめる。
「お前、悠人に興味なんかあったのか?」
マダム愛華は、ワインを口に運ぶ手を止めて十三を睨みつけた。
「今さらそんなことを聞くのね」
ワインを一気に飲み干すと、ソファから立ち上がり十三の膝に座る。
「重い」
十三は両手で愛華の腰を持ち上げようと力を込める。愛華はそのまま絡みつくように十三の首に手を回した。
「私がどれだけあなたを好きか知ってるくせにいつも冷たいのね」
「儂がどれだけお前のそういう所が嫌いなのか知ってるくせにしつこいな」
愛華はまだピッタリと十三に身を寄せている。
「本当に重い」
十三が押しのけると、愛華はしぶしぶ立ち上がった。
「なかなか素敵な若夫婦ね」
愛華は元のソファに座るとワインを継ぎ足した。
「なんで、急に興味を持ったんだ?いつもの気まぐれか?」
「ことあなたに関して、気まぐれで動いたことなど一度もないわよ」
十三は心底嫌そうな顔をする。他の人間が見たらその場で土下座をしそうになるであろうその顔を、愛華は嬉しそうに見つめた。
「孫の顔を見れば、あなたも罪悪感からやっと解放されるんじゃないかと思って」
十三の眉間にさらに深い皺が寄る。
「そんな顔しないで。悠人くんが幸せになればあなたも幸せになる。そうでしょ?」
十三は答えない。
「あなたが幸せになれば私も幸せになれる。やっと一緒になれるでしょう?」
十三は深くため息をつく。
「お前はいつまでも、本当にしつこいな。なぜ儂にこだわるんだ?」
愛華は満足そうに微笑む。
「この世でただ一人愛してる人ですもの。死ぬまで愛し抜きますし、一緒に居られるチャンスがあればいくらでもアタックし続けるわ」
「お前のそういう所が心底嫌いだと何万回言ったらわかるんだ?」
十三の顔が歪む。
「あなたが女を愛せないのなら、男になるし、人に興味がないのなら、私を人とみなさなくてもいいわ。ただ、ただ一緒になりたいの。だってもう十分待ったもの」
「待ったとか、よく言うわ。好き勝手生きてきただろうが、どんな時も男たちをいいように操って」
「あなたがなかなか手に入らないから、寂しさを埋めていたのよ。私は一人では生きられないんだもの。でも、どの男もにも最高に尽くしてきた。心はあげられなかったけど、私の最高のもてなしで」
「儂は一人で十分だ」
「知ってるわよ。人よりも仕事が好きだったのよね。何もない所にビルを建てる、何も持ってなかった人に色々な物を持たせ、何も知らない人に知識を与える。あなたはただ好きなことをずっとしていられれば良かった。あなたにとって一番楽しい時代に、やってきた達之さんはちっぽけな存在でしかなった」
「相変わらず、ズケズケ物を言う」
十三は吐き捨てると、空いたグラスに自分もワインを注いだ。
「土地が埋まり、人々に物が行き渡り、あなたはやっと仕事に一息ついた。でも、自分の一番近くに居たはずの達之さんは何も持たずに、ううん、持っていることに気づくことなくこの世からいなくなってしまった。残された小さい男の子は大きな屋敷で泣きもせず、ただ一点を見つめているような子だったわね」
愛華の声は囁くようだが、十三の心に突き刺さる。
「だからあなたは、あの何も持っていない小さい子に、あなたが造り出したお金で買える物じゃないすべてをあげたいのよね」
初めて十三は愛華を見つめた。
「だから、悠人と花梨に近づいたのか?」
「久しぶりに会ってみたら、悠人くんはもうあの何も映らない瞳ではなかった。瞳に可愛らしい女子を映してたわ。その瞳を見た時の私の興奮が解る?」
「解りたくもないわ」
十三はそっぽを向く。
「やっと、あなたの役に立つことが出来ると思った。あなたの中の悠人くんを追い出し、私が入り込むチャンスが来たのよ」
愛華の美しい顔いっぱいに笑顔が広がる。
「怖い、本当にお前のそういう所が怖い」
十三は込み上げてくる震えを押さえきれず、身体を揺すった。
「何度だって言うが、悠人が幸せが何か知っても、儂の心は悠人でいっぱいだからな。お前の入り込む隙間は一ミリもないわ」
十三の吐き捨てるような言葉を、愛華はうれしいそうに受け止める。
「そう?じゃ隙間なんていらないわ。私はあなたを満たすことにする。私の愛で」
十三はポカンと口を開いた。
「大好きよ、十三」
やっと口を閉じると、十三は手で愛華を追い払った。
「もう、帰ってくれ。儂は疲れた、お前と会話しているとこのまま死にそうだ」
「あら、本当?じゃ、私の死人をも生き返らせる秘術を披露するわ」
そう宣言すると、愛華は立ち上がり、いきなりドレスの胸元を開いた。たわわな果実がボロンとこぼれる。
「ひぃぃぃぃぃ」
声にならない悲鳴を上げて十三は立ち上がると、一目散に部屋を出て行った。
その後ろを、愛華は十三の名を呼びながら、ゆっくりと追って行った。




