シンデレラになってみました 33話
「欅くん、お疲れ様」
「悠人さんもお疲れ様」
悠人の眉が片方だけ上がった。
「随分この前と態度が違うね」
「この前もかなり友好的だったでしょ?」
悠人は持っていた炭酸水の蓋を捻った。シュポッといい音がする。
「私を認めてくれたのかな?」
ペットボトルを欅に差し出す。
「もともと認めてますよ」
欅は素直にその水を受け取った。
「僕たち家族を救ってくれたこと、花梨に真摯に向き合ってくれていること。僕は感謝している」
向き合った二人の間に静けさが落ちた。
ラウンドが終わり、皆、ホテルに一端戻ってきていた。欅は悠人のスイートルームに来ていた。
「君には出過ぎた真似だったんじゃ?」
「花梨が何かいいましたか?」
悠人は首を横に振る。
「見合いの話が来た時に調べさせてもらったからね、三条家の家庭事情には少し詳しくなった」
欅は、「そっ」、と軽く答えた。
「君は氷室家に養子に入ってまであの家を守っていた。君の気高い意志を無駄にしてしまったんじゃないかと思ったんだ」
「まあ、あなたが現れなくても、借金は何とかしたとは思いますよ」
欅は軽く笑ってから、ごくごくと喉を鳴らしながら水を飲んだ。
二人の間にまた軽い沈黙が流れる。
「欅くん。君は向日葵くんと付き合っているのかい?」
沈黙を破る唐突な質問に欅は目を瞬いた。
「何?急に?」
「昨日偶然見かけたんだよ」
ばつが悪そうに悠人は目を逸らす。
「ああ」
欅は頷いた。昨夜、欅は向日葵とホテルの庭でキスをしていた。
「付き合っているというか、婚約してるんで。聞いてません?」
悠人は初耳だった。
「もともと俺は養子に行ったんじゃなくて、婿にして下さいって言ったんだよ」
「婿?」
「そっ。3歳で初めて会った時から俺は向日葵に惚れてるからね。親父が死んで、氷室のおじさんが借金肩代わりしてくれたあの時、絶好のチャンスだと思ったんだ」
今度は悠人が目を瞬く。
「じゃ、その時から二人は・・・」
「違うよ」
欅は一笑すると、悠人の肩をバンと叩いた。悠人の身体が揺れる。
「ずっとこっちの一方的な片思いだよ。去年やっとOKをもらったんだ」
悠人は叩かれた肩を摩っている。
「で、何?本当は何が聞きたいの?」
欅の目がいやらしく笑っている。
「花梨のこと?」
何とか頷くが照れくささから悠人はまともに顔を上げられなかった。
「本当に花梨のことを好きになってくれたんだ。ありがとう、義兄さん」
欅が飛びつくように抱きついた。悠人は驚いて棒だちになる。
「ハグはやめてくれ」
やっとの思いで欅を押し返す。
「で、花梨のすっとぼけた態度に困ってるんだ?」
「すっとぼけた?」
「花梨の知っている男はみんな家族だからな。家族以外の男を知らないし、義兄さんも初めから家族として参戦しちゃったから、ここから一男として巻き返すのは大変だよね」
「それでいいと思っていたんだ。家族で十分だと」
「でも、物足りなくなった?」
「男として見て欲しいと思う」
欅はヒューと口笛を吹いた。
「僕もずっと思っていた。やっと叶った。十年以上かかったけどね」
ポンと悠人の肩を叩く。
「でも、僕ほどかからないと思うよ、義兄さん」
悠人は肩越しに欅を見つめる。
「義兄さんが思っているよりずっと、義兄さんは花梨に愛されていると僕は思う。後はちょっとした切っ掛けだね」
欅は「がんばって」と手を振ると、そのまま部屋を出て行った。
悠人はじっとその後ろ姿を見送った。




