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シンデレラになってみました  作者: 椛こま


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32/52

シンデレラになってみました 32話


 晴れ渡った青空は絶好のゴルフ日和だった。

アメリカに来てから花梨の気分は今日の天気の様に澄み切っていた。あのモヤモヤとしていたのがうその様に感じる。

 夫婦でと欅は条件を付けたが、結局欅、悠人、オークションでこのゴルフツアーを射止めた野宮鷹志が一緒にラウンドし、その後を花梨、向日葵、百合とで回ることになった。

 三人共ゴルフは初心者ではないが、花梨は二人に比べればコースに出た経験は少ないうえ、海外でのゴルフは勿論初めてだ。

 最初の一打はかなり力が入ってしまった。

 「あー」

 ボールを追って花梨の目が泳ぐ。ボールはフェアウェイを避け林の中に消えた。

 「どこ行ったの?」

 「入口だよ、大丈夫」

 このコース経験がある向日葵はボールの位置を目算だが確認できたようだ。

 「そーれ、と」

 向日葵はまったく力まずドライバーを振った。綺麗な弧を描いてフェアウェイに落ちていく。

 続く百合も簡単にパッと打った。向日葵のような飛距離は出ないが、百合のボールもしっかりとフェアウェイを捉えて落下した。

 三人は並んで歩き出した。

 「欅くん様様ね」

 百合が微笑む。

 「本当。夏休みの最後に大きなプレゼントを貰った気分よ」

 言いながらも花梨は自分のボール目指してコースから外れる。

 「モヤモヤは解決したの?」

 百合の声が追いかける。

 「アメリカに来てからはまったく感じなくなったけど、たぶん解決してないと思う」

 花梨はボールとコースを確かめると、林の手前の深いラフにしっかり足を踏ん張った。

 「出すだけにする」

 花梨はポンとボールを押し出した。ボールはカートのコースを横切りフェアウェイに戻る。

 「原因は分かったのか?」

 向日葵がボールに先回りする。

 「うん」

 ボールの側で向日葵と百合が顔を見合わせた。花梨もボールに追いつく。

 「何だ?」

 向日葵の言葉は直球だ。

 「悠人さん」

 花梨はしっかりとスタンスを取ると狙い決めて、今度は程よく力を抜いてボールを飛ばした。花梨のボールは百合と向日葵のボールを抜きグリーンに落ちた。

 「ナイス!」

 早く続きを聞きたかった向日葵だがしっかりと花梨のプレーを褒めた。

 「私、こっちに来てから三人で行動していたでしょう、すごくほっとしてるのに気づいたの。夏休みで学校もなかったし二人も忙しくて、私もパーティでバタバタして、終わっても中々会えなくて、私パーティの後ちゃんと力が抜けてると思っていたけど、実は力抜けてなかったんだなって、分かったの」

 「紫藤家ではくつろげないってことか」

 向日葵の声が固くなる。

 百合はボールまで近づくとさっさとアイアンを振った。

 「くつろげないとは違うと思う、」

 花梨は言葉を探す。

 「やっぱりまだちゃんと馴染めていないんだと思う」

 向日葵のボールはすぐそこだ。向日葵は速足でボールに近づくとほとんど間も置かずにボールを打った。その間も花梨は言葉を探した。

 「結婚して、生活が変わって、でも私それを苦痛に思ったことなんかないの。だけど、やっぱり無理はしてたの、自分で思ってる以上に」

 「そりゃ、そうだろ」

 「うん。でも、それが嫌だったの」

 「ん?」

 二人の足が止まる。

 「悠人さんも、山崎さんも、鈴木さんも、村瀬さんも皆良くしてくれているのに、馴染めてないなんてそんな自分が嫌だった」

 ボールの横に綺麗に足をそろえて身体にピタリと腕を付けると、スッとパターを動かした。ボールは流れる様に進んだがポールまでは伸びなかった。

 「でも、それなら原因は悠人さんではないのではなくて?」

 百合の打ったボールはしっかりと芝の目に沿ってカーブしながらカップを目指した。

 「あっ」

 ボールはカップの縁にあたりコースを変えた。百合は顔色を変えずにちょっと外れてしまったそのボールをカップに落とす。カランっといい音が響く。

 「その良くしてくれてる紫藤家のみんなへの罪悪感とモヤモヤとが近いけど別物だったことに昨日気づいたの」

 向日葵は花梨の前に手を押し出し、「待て」と言った。

 向日葵は自分のボールの後ろにグッと腰を落とすとしっかりラインを読んだ。そして慎重にパターを振る。向日葵の打ったボールは吸い込まれるようにカップに落ちた。

 「ナイスバーディー」

 二人の声が揃う。

 向日葵がどうぞと花梨をエスコートする。花梨もクラブを計りにカップとボールそして芝を見つめた。立ち上がると、ぐっと腰を入れパターを動かした。花梨のボールも見事にカップに収まる。

 「それで?」

 「アメリカに来てというより、紫藤家から離れて百合と向日葵といることでホッとしている自分に気が付いて、私ちょっとびっくりして、でもそうかやっぱりと思って」

 花梨は眉間を寄せる。

 「だから、アメリカに来てモヤモヤしてないことに罪悪感があったのだけど、昨日パーティあったじゃない?」

 オークションを勝ち取った野宮が親睦を深めるために開いてくれたものだ。

 「悠人さんに会うの罪悪感でいっぱいで、でもだからこそ私に出来る目一杯で尽くさなきゃと思っていたの。だけど、会場についてすぐに目に入った悠人さんは美人たちに囲まれてた・・・。モヤっとしたのよ、ていうか、イラっとしたの」

 拳を握り花梨は二人に告げた。

 「悠人さんに嫉妬したというこうと?」

 「悠人にちゃんと恋愛感情を持っちゃったの~」

 同じような意見だとは思ったが、明らかに一人には悪意が見える。

 「何?向日葵?私がちゃんと悠人さんを好きになれるのはすごく良い事でしょう?」

 「え~。花梨は生身の男なんて好きになったらダメに決まってんじゃん」

 花梨の目が大きく見開く。

 「何言ってんの?」

 百合に助けを求める様に手で合図を送ったが、百合は百合で大きく頷いた。

 「ホントよ。結婚はどうあれ私もまだ、早いと思うわ」

 「えっ、早いって?」

 「花梨にはまだ何も知らない天使でいて欲しいの。恋や愛や生臭い感情に振り回されるなんで考えられないわ」

 『だから、その感情は嫉妬ではない、わ』

 二人の声が揃う。

 「何言ってんの?」

 もう一度花梨は二人に告げた。

 「今までの悠人さんへの気持ちと今の悠人さんへの気持ちに違いがあるとは思はないけど、私は確かに、昨日のパーティでの悠人さんを見てモヤっともイラっともしたの」

 『え~』

 今度も二人の声が揃う。

 「え~じゃないし。ホントだし。そして、モヤモヤの事の発端が分かったのよ」

 今度は二人はえ~、とは言わなかった。

 「何、何だったの?」

 「マダムよ」

 「マダム愛華?」

 「そう、この前のパーティでマダムが悠人さんとハグしているのを見たの、私」

 向日葵と百合は顔を見合わす。

 「私たちは見てない」

 「でも、なんで?その前日にボディガードのお姉さんの胸揉んでるの見ても花梨、全然平気だったじゃん?」

 向日葵の意見はもっともだ。花梨は頷く。

 「私にもよくは分からないけど、たぶんエロスの本気度が違ったのではないかと思ってるの」

 「エ・エロスの本気度?何?それ?」

 花梨は真面目な顔をして、次のホールのスタート地に足を構えた。

 「いや、ゴルフちょっと待って」

 向日葵が慌てて止める。

 「え、前にかなり離されてるよ」

 「そうね、気になる所ではあるけど、あまり遅れるのは良くないわ」

 でも、と百合は花梨の肩に手を置く。

 「エロスの本気度はほっとけないわね」

 仕方なく花梨は構えを解いた。

 「うまく言えないんだけど、橘さんは本気で悠人さんを誘ったわけではない、でもマダムは本気で悠人さんを誘惑するつもりがあったのではないかと思う・・・」

 花梨も初めての感情なのでよくは分からない、でも、あのマダム愛華の白い手。蛇のように悠人に纏わりついていた手。それが脳裏から離れず、思い出すだけで身体の芯が身震いするような感じがするのだ。

 「そう、マダム流石ね」

 花梨の説明に百合は納得した。向日葵は、へっという顔で百合を見ているので納得までは程遠いようだが今度は構わず、花梨はボールをセットすると、一打目を打った。ボールは綺麗な弧を書いてフェアウェイをキープしながら落ちて行った。

 

 

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