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シンデレラになってみました  作者: 椛こま


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シンデレラになってみました 28話



 ヘリコプターの轟音が静かな山々に響き渡る。

 ヘリコプターのラッシュとは何とも豪華な光景だが、騒音はかなりのものだ。次々に訪れる客を迎えながら花梨は耳を塞ぎたい衝動に駆られながら笑顔を作った。

 声が聞こえないので、客たちも笑顔で応え握手をして屋敷に入って行く。

 招待客は36名、そう多くないが揃うまでには相応に時間を要した。

 すべての参加者が揃い、やっと花梨が一息ついた時だった。

 ヘリが一機近づいて来る。

 「あら、もう一台?」

 悠人の顔を見上げる。

 「あれが、おじい様のご友人だ」

 風を巻き上げ上陸した機体を花梨はまじまじと見つめた。

 このチャリティーに参加しているのは『三ツ星会』というセレブの集まりだと花梨は説明を受けた。十三は表舞台を退いてからは世捨て人のように暮らしているが、この会にだけは辛うじて参加していた。それはこの会が悠人の父、紫藤達之が起こした会だからだと聞いていた。

 だから、招かれた参加者たちは十三個人とはまったく関係がないと思っていた。

 「おじい様のご友人」

 花梨はヘリを降りた人物を見つめた。身のこなしに見覚えがある。

 「あれは、昨日の?」

 悠人にに話しかけたのだが、悠人の耳には届かなかったようで、悠人は前を見たままだった。

 その人の差し出した手に掴まりながら一人の女性がタラップを降りてきた。

 その姿に花梨は目を奪われた。口もあんぐりと空いた。

 「すごい・・・」

 「花梨、口を閉じて笑顔を」

 悠人の声が耳元で聞こえた。花梨は慌てて自分を取り戻すと笑顔を作った。

 ヘリコプターから下りたご婦人はゆったりと花梨たちの前に進んでくる。大きく胸の開いた黒のドレスからはみ出さんばかりに乳房が二つ揺れている。

 花梨の目はその二つの膨らみに釘付けだった。

 「ごきげんよう」

 婦人はゆったりと挨拶をした。

 「ごきげんよう」

 花梨の背中を強く押しながら悠人が会釈をする。

 花梨はやっとのことで乳房から視線を外した。

 「あら、可愛い娘さんだこと」

 婦人は微笑みながら扉に向かって歩いて行く。最後の客なので花梨たちも一緒に中へと向かう。

 「悠人くんに会うのは5年ぶりかしら?いい男になったわね」

 「ええ。愛華さんは変わらないままなので、年月が分からなくなりますね」

 後ろで玄関が閉まったので会話がしっかりと成り立つ。

 「(わたくし)のような女にとって美しくあることはとても大切な事ですもの」

 「今日お集まりになった女性の皆さま誰もが、その秘訣を知りたいと思っていますよ」

 「あら、そうかしら。あなたの美しい奥様には必要ないと思うけど」

 「たしかに。妻はまだ子供のようなものですから」

 悠人が少し手を引いて話しを振ったが、花梨は心ここに在らずといった体でぼんやりと歩いていく。

 「花梨」

 悠人が名前を呼んだので、花梨は我に返った。

 「はい、愛華さんのように美しく育ちたいです」

 「育ちたい?」

 愛華の唇が優美に上がり、視線は花梨のまっすぐな胸元を見つめた。

 「そうね、あなたはまだまだこれからね」 

 橘が「あちらに」と席へと誘導する。

 「では、また後でね」

 愛華は優雅に挨拶をすると、用意された席に向かって行った。

 花梨はぼぉっとその後ろ姿を見送った。

 「昨日の悠人の浮気相手はマダム愛華の付き人だったのか」

 急に後ろから声を掛けられ、花梨の肩が跳ね上がる。

 「もう、向日葵まで急に声を掛けるなんて」

 びっくり目玉のままで苦情を言った。

 「花梨が見惚れ過ぎなんだよ」

 向日葵が呆れた声で応える。

 「だって、あのお胸。それは見惚れてしまうわ。もうピカって光り輝いて後光が差してたのよ、しょうがないでしょう。悠人さんがいなかったら多分拝んでしまっていたわ」

 花梨の発言に悠人がギョッとする。

 「あの方はもうインドの愛の女神とかではないかしら」

 「まあ、当たらずも遠からずかしら」

 「あら、二人とも愛華さんを知っているのね」

 「それは社交界では有名人ですもの」

 頷く二人を横目に花梨は悠人を見た。

 「そうなのですか?十三おじい様のご友人としか説明されていないのですが?」

 「もちろん、その通りですよ。ただ、二人の言ったことも本当です。彼女はアラブの王族の奥様だったんですよ」

 「王族の?」

 「そう、本当のハーレムを知ってらっしゃるのよ」

 珍しく百合の目が輝いている。

 「まあ、百合の興味は置いといて、あの姿見ただろう?アラブの王子に嫁いでからまったく変わってないんだよ。だからみーんな興味津々なんだ」

 「たしかにお綺麗ですけど、他の皆さまも十分お綺麗なのに」

 向日葵が、指を振る。

 「分かってないな、結婚したのは30年前だ」

 花梨の目が大きく広がった。そして愛華の姿を探して動いた。

 「その時20代だったとして今は50代!そんな神秘なことがあるなんて!」

 花梨が驚く姿があまりにも想像通りの可愛らしさだったので、見ていた3人は同時に頬を緩ました。悠人の笑顔を横目に、

 「あの仮面の様な悠人さんもすっかり花梨の虜ですわね」

 百合が向日葵に囁く。向日葵はチッと舌打ちをした。


 パーティは順調に進んだ。

 メインのオークションも展示出来る物はパーティ会場に初めから陳列してあり、ゲストたちは食事を楽しみながら、各々が出品者から直接その物の逸話などを聞いて品定めをした。

 「花梨」

 向日葵に案内され欅が遅れてやってきた。

 「欅」

 花梨は小走りで駆け寄り、欅の手を引いて悠人に引き合わせた。

 「初めまして、三条欅です」

 欅が手を差し出す。

 「紫藤悠人です。あいさつが遅れてしまい申し訳ない」

 悠人はその手を握った。

 「いえ、こちらこそすいませんでした。余りに急な式だったためスケジュール調整が出来ず、新しい義兄に会うのがこんなにも遅くなってしまいって」

 欅の手に力が入る。

 「私も世界で活躍する義弟に何の挨拶もせず、大切なお姉さんを頂いてしまい、心苦しいばかりでした」

 悠人も笑顔で手を握り返した。

 「まあ、お二人さん挨拶はそんなもんで」

 不穏な空気に向日葵が割って入った。

 「欅、あんたは今日の目玉商品なんで、これから皆さんに品定めしていただかないとね」

 「モデルみたいにランウェイ歩くんじゃないの?」

 「ちゃんと説明してなかったね」

 花梨が後を引き継いで、今日のオークションの流れを説明した。

 「まあ、簡単に言うと俺はホストと一緒に皆さんに挨拶して回ればいいのね」

 話を聞いた欅は、じゃっ早速とどんどん歩き始めてしまった。

 慌てて花梨たちは後に付いて行く。

 鳥籠の中に居た花梨と違い、世界に羽ばたいている欅は社交に慣れていた。悠人が欅を紹介し、欅はゲストたちを巧みに楽しませた。ホストして重圧を感じていた花梨は肩の力が少し抜けた。

 「花梨」

 何処かで名前を呼ばれた気がして声の方向に顔を向けると、向日葵が手招きしてる。

 向日葵はホールの端にいたが、他の客たちより頭一つ高いので離れていてもすぐに見つけられる。花梨は悠人に視線で席を外すことを告げると、悠人も軽く頷いて応えてくれた。

 「どうしたの?」

 小走りで駆け寄り事情を確かめる。向日葵の横には見えなかったが百合もいた。二人の後ろに隠れる様に一人のご婦人が椅子に座っていた。

 「どうしたの?」

 二人の様子を察して小声になる。

 「少し気分が優れないそうなの」

 答える百合も小声だ。

 座っている人物が誰かということはすぐにわかった。このパーティーに招かれている人々のことは事前にしっかり把握していた。

 「細田様。休憩の出来るお部屋の用意がございますのでそちらへ」

 花梨はそっと手を差し伸べる。

 「立ち上がれますか?」

 細田と呼ばれた人物は焦点の合わない視線で花梨を見上げた。

 花梨の目の端に山崎が映った。花梨は山崎に視線を送るとその次の行動を制した。

 『大丈夫』

 山崎は何事もなかったように警備の持ち場に戻る。

 「細田様は園池様の出品された茶器をもうご覧になりましたか?細田様も興味を引かれる一品ではないかと思いますの」

 普通に会話をしながら、花梨は向日葵に反対へ回れと顔で支持を出す。花梨の顔支持に笑いを堪えながらも向日葵は反対側に回った。二人で両側を支えると細田を持ち上げた。百合が案内するように少し前を進みながら四人は奥へ向かった。

 「こちらですわ」

 よく見ればかなり不自然に見える四人の塊だが、ホール反対側にいる欅に、人々の視線は集中していた。

 四人はうまくその場を退場し、空き部屋に急いだ。

 「どういうことだ」

 花梨はソファに横にした細田を横目に見ながら部屋の隅へ寄った。

 「ご持病がおありになるそうなの。だけど、そのこと、ご主人には内緒なのですって」

 「でも、いなくなったら気づくでしょうよ」

 「悠人さんがうまく誤魔化して下さっていると思う」

 向日葵の脳裏に悠人と欅に纏わりついていた若い男が浮かんだ。

 「持病って?」

 花梨は向日葵の耳に口を近づけた。

 「パニック障害」

 向日葵は寝ている細田を見る。

 「旦那様とはかなり年が離れていらして」

 「年下?」

 花梨は頷く。

 「本当はこういったパーティは余りお身体に良くないそうなのだけど、お付き合いというものがあるでしょう」

 「なんで旦那に内緒なんだ」

 「まだ若い旦那から目が離せないのよ」

 百合が代わりに答える。

 「女癖が悪いんだな。どっかの誰かと同じだな」

 何気なく口にして、向日葵の足は思い切り百合に踏まれた。

 「(はじめ)さんは女癖が悪いわけではありません」

 眉を吊り上げた百合に、向日葵は素直に頭を下げた。

 「人類の女全てに優しいだけだな」

 百合はもう一度足を思い切り踏みつけた。

 そんな二人を置いて花梨は細田の傍に膝をついた。

 「お水を」

 サイドテーブルの水をグラスに注ぐと細田の身体の下にクッションを入れる。細田はさっきより気分が良くなっているようだ。支えられながらも身体を起こし、花梨の運んだグラスから水を飲んだ。

 「ごめんなさいね」

 顔色もだいぶ戻っている。

 「年甲斐もなく若い男を捕まえたもんだから、心配が後をたたなくて。恥ずかしいわ」

 花梨は何も言わずグラスを受け取った。

 「薬が効いて最近はこういったことは起こっていなかったのに。今日は大分気が張っていたのね」

 心もとなく笑う細田の手に花梨は自分の手を重ねた。

 「私もそうですわ。もうずっとパーティの事ばかり考えてました」

 「父から代を受け継いだはいいけど、想像以上の重圧で心休まる暇がなかったの。運よく心を許せる人を見つけたと思ったのに、結婚したらなんだか不安に駆られてしまって・・・情けない話よね」

 50代であろう細田はまだ十分美しい。でも、その不安な心の内は、若い花梨たちに解るものではなかった。

 三人は黙って細田の陰りのある横顔を見つめた。

 「あっ、細田様、マダム愛華にお話しを聞きに行きませんか?」

 花梨は瞳を輝かせた。

 悠人と改めて挨拶に行った時に、輝きの源について教えてくれると囁かれたのを思い出したのだ。

 「えっ、マダム愛華の所へ?」

 同じパーティに出席していても簡単に話せる相手ではなかった。

 「よろしいの?」

 「ええ。ぜひと言ってらしたもの」

 現金なもので細田の頬が急に明るくなった。

 四人は部屋を出るとメイン会場に戻った。

 

 マダム愛華はメイン会場にはいなかった。だが戻ってきたところを細田の夫に見つかった。

 「探したんだよ、今までどこに?」

 「花梨さんに園池様の茶器を見せて頂いていたのよ。やはり手に取って見たくて」

 ショーケースに飾られたお宝はホストしか出せない。

 「やっぱり、あなたは茶器のほうがいい?僕はぜひ欅くんとラウンドしたいんだけどな」

 細田の夫は簡単に妻の話を信じると、その手を取りさりげなく自分の腕に置く。

 それは優しい仕草だった。

 細田夫婦の財産はほぼ夫人に属するものだという。一回り以上若いこの夫は何も持っていないに等しいと聞いた。夫人はこの若く優しい男を手に入れるため、かなり大盤振る舞いの結婚契約を交わしたのだと。

 「また、後でね」

 と、寄り添い微笑む夫人の表情からは、さっきの横顔は想像出来ない。

 花梨たちは仲睦まじい後ろ姿を見送った。

 「わからん」

 向日葵の呟きに花梨は笑った。

 「本当に」

 「誰かを好きになればなるほど不安が増すものなのですわ。それより花梨、私たちは予定通りマダムの所に行きましょうよ」

 お子様の二人の手を百合が引いた。

 「そうね」

 花梨は会場を見渡して悠人がいないことを確認する。欅はまだ数人の人々に囲まれていた。

 オークションの品があるメイン会場の他にゆっくりくつろげる部屋が用意されていた。3人は足をそちらに向けた。

 部屋の扉は半分開いていた。

 その陰に悠人の後ろ姿が見えた。

 「あ、悠人さんもいる」

 花梨は足を速めた。

 部屋が近づき、悠人の背中が大きくなった。その背中に白い美しい手が絡みつく。

 花梨は息を飲んだ。

 その手が別の生き物様に見えた。

 白いその手は悠人を絡め取っている。

 「なんだ悠人じゃんか」

 後ろから来た向日葵が気が付いた。

 「あら、ほんと」

 百合も後に続く。

 二人の声が聞こえたのか悠人が振り向いた。

 絡みついていた手が消えた。

 花梨は思わず向日葵と百合を見る。

 二人は何事もなかったように部屋に進んで行く。花梨の足だけが止まったままだった。




 


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