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シンデレラになってみました  作者: 椛こま


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24/52

シンデレラになってみました 24話



 花梨は悠人の仕事場の前に来ていた。

 慈善パーティーの日が迫っていたが、この所悠人は忙しく、会えない日が続いていたので、細かい打ち合わせを確認するために会いに来たのだった。

 目の前の建物は洒落たカフェや美容院にも見える。この建物が今度悠人がオープンするホテルだった。花梨は約束通り開かない自動ドアの前に立った。

 学校帰りに来たため、花梨は制服のままだ。

 建物の中にいた太刀川が花梨に気づいてドアを手動で開けた。

 「いらっしゃい、奥様」

 「太刀川さん、奥様は止めて下さい」

 花梨は軽く抗議する。

 「すいません、では花梨様、どうぞ」 

 「様も止めて下さい」

 「注文が多いいですね、花梨さん」

 花梨が中に入ると、太刀川はドアを閉めた。

 「そこに座って待っていてください。ゆっくりお相手出来なくてすいませんけど、社長も出来る限り急いでくると思いますから」

 軽く手を振ると、太刀川は去って行った。

 花梨は四角い黒いレザーソファに座り、辺りを見渡した。

 洒落た入り口を入ると、ロビーと受付になっている。ロビーの奥は本当のカフェになる予定だと聞いている。

 「それで、物は来たのか?」

 「まだです」

 「まじかよ。もう今日こないと間に合わないぞ」

 作業の責任者らしい男は文字通り頭を抱えている。

 「どうします?怖い、怖い社長に言ってきますか?あの冷たい目に睨まれてきます?」

 作業員は本気で怯えている。責任者らしい男は大きく首を振ると携帯を取り出し歩き出した。 

 「いや、業者に荷物が何処まで来てるか、もう一度確認する」

 二人が足早に奥に消えて行くと、入れ替わりに別の作業員が現れた。

 「今の聞きました?結局間に合わないんじゃないですか、あれじゃ。どうします?床材こないと話にならないんじゃないですか?」

 「よかった、俺今日もう事務所行かないから。えっここ日本?ブリザードが吹き荒れてるの?ってぐらい寒く感じるもんな。あの無表情が怖い。順調に行ってても怖いのに、もう今日みたいな日は近寄りたくないぜ」

 「女子社員たちが、結婚して社長が変わったとか言ってたけど、どこが?って感じだよな、お前分かる?」

 「全然。フロントの子が覆われていた氷が解けて、その下の本当の姿が見えてきた感じです~とか言ってたけど、信じられないね」

 その作業員たちは入口に向かって歩いてきたので、ソファの花梨と目が合った。

 花梨は軽く会釈する。二人は怪訝な顔をしたものの、会釈を返して花梨の前を通り過ぎた。

 「誰?すごいかわいくない?」

 「知らない。誰かの娘さんだろう、あんまりジロジロみるなよ、高校生だぞ」

 振り返る相手を引っ張りながら、遠ざかっていく。

 花梨は一人になった。ぶらぶらと足を揺らしながら、天井を見つめる。

 悠人さんは怖がられてるのね。

 何だか、残念だと思う。

 花梨の知る、悠人に氷のような冷たさなど全くない。確かに、表情は余り変わらないが、いつも花梨を気遣ってくれる温かさを感じる。

 男の人には分かりづらいのかしら?

 そういえば向日葵もよく、あの能面野郎と悪態をつく。人の機微に疎い人には分かりづらいのかもしれない。

 「もったいないわ、あんなに素晴らしい方なのに」

 「誰が、素晴らしいのですか?」

 ひいぃ、花梨のお尻は1cmはソファから浮いた。

 「もう、今度から私を見かけたら、1メートル先から歌を歌ってきてくれませんか?」

 大真面目な顔に悠人は小さく吹き出した。

 「それは出来ません」

 「でも、足音立てて来て下さいとお願いしても聞こえないし、歌なら流石にわかりますから」

 「そんなお願い聞いたことありませんよ」

 悠人が手を差し出した。花梨はその手に掴まって立ち上がる。

 「それで、誰が素晴らしいのですか?」

 手を繋いだまま歩き出した。

 「悠人さんです」

 悠人の足が止まる。

 「私?」

 「はい。待っている間に何人か作業してる方の話が聞こえてしまったんです。そしたらどの方も悠人さんをとても怖がっていらして。もちろん上司ですから緊張感のある関係が当たり前ですが、何だかとても残念な気持ちになってしまったのです」

 「・・・そうですか」

 悠人は言葉に詰まる。

 「悠人さんは紳士ですし、とても優しい、ほんとうに立派な方ですから」

 注がれる視線の眩しさに悠人は顔を背けた。

 「食事をしながら打ち合わせをしましょうか?この先に美味しいお店があるのです」

 花梨の瞳が輝く。

 「何のですか?」

 「中華です。この前食べたいといってましたから」

 「ほぅ、楽しみです」

 「その、ほぅというのはどういう意味の、ほぅですか?」

 「よしっ、といった感じです」

 花梨の顔が薄っすら赤くなる。

 悠人の目が嬉しそうに細くなる。

 「さあ、では急ぎましょうか」

 悠人は繋いだ手を引っ張った。


 気づくと手を繋いでいる。

 いつも自然過ぎて、気がつくのが遅れてしまう。そして、気がつくと緊張してしまう。

 花梨は繋いだ手が汗ばんできたので、さらに緊張した。

 全神経が手に注がれているのが分かる。

 上目遣いに悠人を見ると、いつもと変わらない涼しい表情だ。

 花梨は恥ずかしくて手を引き抜きたい衝動に駆られ、手を少し揺すってみる。それでも、悠人の手は変わらず花梨の手を包んでいる。

 手はぎこちなく固まってしまうが、花梨は繋いだ手の温もりも、ひと回り大きい手の感触も好きだった。だから、こうして軽い抵抗を見せた後でもそのまま手を繋ぎ続けてくれる悠人の優しさにいつも感謝していた。


 「悠人さんはやはりすごく優しい人だわ」

 心の声が漏れる。

 悠人が驚いた顔をする。

 花梨には、それが判る。

 「皆さんにも教えて差し上げたいですわ」

 「それは、どういうことですか?」

 怪訝な顔の悠人に花梨は微笑んだ。

 「心の声が漏れちゃいましたわ」

 悠人は疑問の晴れぬ顔で花梨を見つめた。


   


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