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シンデレラになってみました  作者: 椛こま


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23/52

シンデレラになってみました 23話



 「あっ、欅」

 「何が、あっ欅だよ。何勝手に結婚してんの?馬鹿だとは思っていたけど、本当に馬鹿だな。お前は」

 「そう、怒らないでよ」

 「いや、怒るでしょう。姉が身売りみたいなことをしたら、普通」

 「それは、そうだけど。何度も話して、納得してくれたのにぶり返すからさ~」

 花梨は呆れた声を出した。

 「いや、顔を見て言わないと気が済まなかったから」

 欅は花梨の前に立つと、ゴツンと頭を小突いた。

 花梨は叩かれた所を押さえはしたが、口元が綻ぶ。

 「おかえりなさい、欅」

 花梨の緩んだ顔を見て、欅の口元も緩む。

 「ただいま」

 二人はしばらくニコニコと見つめ合っていた。

 「何してんだよ。そういうとこ見るとほんとに双子だって思い出すよ。さあ、行くよ」

 向日葵が急かすように二人を押した。

 「こんな所に長くいたら、また追っかけが来るぞ」

 三人は速足で空港を出ると、ロータリーに迎えに来ていた車に飛び乗った。

 「メジャーツアー予選突破おめでとう。本戦ラウンドはもう少しだったね」

 花梨は車が動き出すと、さっきの話の続きを始めた。

 「現役高校生のメジャーツアー出場、その上予選を突破して26位タイだもんすごいわ」

 「俺がアメリカで孤独と戦いながら頑張っている間にたった一人の姉は日本を代表する金持ちと結婚しちゃうんだもんな。俺がなんでこんなに頑張っているのか、ちゃんと知ってるはずなのに」

 欅の口調はまた嫌味ぽくなる。

 「しつこいな欅は。それは良く分かっているわよ。父さんの残した借金のため、あなたが向日葵のお父さんのお世話になるって言ったあの時のあなたの決意、今でも微塵も忘れてないわ」

 花梨は身体を欅に向けて、しっかりと瞳を見つめた。

 欅はふうと大きく息を吐いた。

 「そうだな、もうやめるよ。それで、どう?結婚生活は?相手のおじさんは優しいかい?」

 「おじさんじゃないし」

 「いや、おっさんだよ」

 「なあ、そうだよな、可愛い向日葵」

 嬉しそうに助手席から振り向いた向日葵の顔が歪む。

 「やめろ」

 「俺に向日葵を愛でるのを止めろって?無理」

 「あー嬉しいわ、このやり取り。欅が帰っ来てこの瞬間ほど嬉しいことはないわ」

 向日葵はプイと前に向き直る。

 「意味なく褒められるって、気持ち悪いでしょう?ねぇ向日葵」

 花梨はここぞとばかりに反撃する。

 「そんなドヤ顔も可愛いよ」

 向日葵のほうが上手だ、花梨はすごすごと席に戻る。

 「向日葵のドヤ顔も可愛いよ。どんな顔でも可愛いけどね」

 にっこりと欅が助手席を覗き込む。

 「お前は本当に気持ちが悪いな」

 「照れなくても大丈夫だよ。ま、そんなところも最高だけどね」

 イーと向日葵は牙を剥いた。

 「いいぞ、いいぞ、欅」

 花梨は小声で応援する。

 欅は十分に向日葵の顔を堪能したのか、満足そうに座席に戻った。

 「それで、いいやつなのその悠人ってやつ」

 「ええ。申し訳ない位いい人よ」

 「花梨は天使だからみんな惚れちゃうんだよ」

 向日葵が付け足す。

 「なんだ、悠人ってやつは花梨のことが好きになったのか」

 「そうだよ、もうメロメロだ」

 「メロメロって」花梨は呆れる。

 「メロメロだよ」

 「花梨もそいつのことを好きになったのか?」

 面と向かった直球の質問に花梨はたじろいだ。

 「好き?」自分に言い聞かせるように呟く。

 「私は、まだ分からない。好きという気持ちがよく解らないもの」

 「まじで?」

 「そいつ見てただただうれしくなったり、思わぬ笑顔に心臓が締め付けられそうになったり、笑顔を思い出すだけで元気が出たり、何をおいても顔がみたくなったりしないか?」

 花梨の眉毛がよって瞳が上がる。

 「そういう気持ちにもなるけど、向日葵や百合にもなるわよ。どれだけ二人の笑顔に励まされるか。もちろん欅の事を考えると元気がでるし、違いが分からない」

 「ふーん」

 欅はつまらなそうに頷いたが、はっと質問を付け足す。 

 「独占したくなったことは?他の誰にも見せたくないとか」

 「悠人さんを?そんな気持ちになったことはない。むしろ皆に教えたいわね。すごく礼儀正しい立派な人だって」

 「あっそう。なんかまだまだだな」

 欅はつまらなそうに正面を向く。

 「欅は向日葵にいつもそういう気持ちなの?」

 「出会った時からな」

 ぐっと親指を突き出す。

 「そこまでにしとけ」

 向日葵の悲鳴に花梨は笑った。

 「そうだ、メールでもお願いしたけど、セレブと一日ラウンドする話どう?やってくれる?」

 「社長からも許可がとれたからいいよ。ただし、来月の上旬限定な」

 「ヤッター、うれしい。ありがとうね、欅」

 花梨は欅に抱きついた。

 「お前も旦那連れて一緒に回れよ。おばさんと二人っきりというのは困るからな、相手が誰でもお前たち夫婦と一緒に回るが条件だからな」

 「うん。わかった」

 会話は終わったと欅は目を閉じた。花梨はその横顔を見つめる。

 二卵性の双子でしかも男と女なので似てはいない。花梨は父親似で欅は母親に似ている。花梨が西洋人形のようなばっちり二重の大きな瞳の丸顔をしているのに対して、欅は切れ長ではあるが大きな瞳の卵型の顔をしておる。タイプは違うが人目を引くいい男だ。

 目を閉じていると欅は父親に似ていると花梨は思う。自分も目を閉じていれば母親に似ていると思っている。目が父親似であり母親似であるのだ。

 父が死に降って湧いた借金の問題で三条家は混乱の中にいた、その上母千歳の自殺騒ぎが重なり、当時花梨は真っ白の状態だった。やらなければならない事が山のようにあったが、子供には解決する手段がなかった。保と向日葵の父親の健介がすべてを代わりにやってくれた。だから、あの欅の申し出にはひどく驚いた。自分よりずっと先を見ていた欅、今何ができるかを考えていた欅に。

 欅は運動神経がよかった、産まれた時からといっていいほどだ。雅秋の友人だった健介はそれはそれは欅を気に入っていた。冗談で息子に欲しかったとよく言っていたほどだ。欅は3歳から始めたゴルフでメキメキと才能を開花した。だから、欅が「健介さん僕を息子にして下さい」と懇願した時に、健介は二つ返事でOKした。もちろん欅がそう言いだしたすべての意味を健介は分かっていた。だから、欅を引き取った後の教育も惜しまなかった。欅は順調にゴルフの腕を上げ、去年プロになった。その年に国内の賞金ランキングで2位になった。今年は1位を独走している。顔の良さも相まってその人気はすごかった。

 欅は楽しんでゴルフをやっている。氷室の家に行ったのも、向日葵目当てだったのではないかと疑うほどに楽しんでいる。

 でも、だからといって、欅が自分の将来を決めたあの瞬間(とき)のことが心を重くしない日はなかった。欅だけに負担を強いていることをではない、目の前にある荷物の大きさに足が竦んで、考えることを放棄してしまっていたことをだ。

 悠人と結婚をして、花梨はやっとその重荷を背負うことが出来た。重荷を持ち始めて、心の重荷を降ろせた。花梨はやっと欅に追いついた気分だった。

 「ありがとう欅」

 花梨は寝顔にお礼を言った。




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