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シンデレラになってみました  作者: 椛こま


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22/52

シンデレラになってみました 22話



 学園祭は有終の美で終わりを告げた。

 桜組は最優秀賞を受賞して、向日葵は最優秀個人賞を受賞した。

 皆で喜び、お互いをたたえ合い、抱き合い、涙を流した。

 花梨は、通常の毎日がやってきても、なかなか学園祭の興奮が後を引いて抜け出せなかった。

 でも、日々は過ぎて行く。

 学園祭の後は別れへのカウントダウンが始まるのだ。

 外部大学への進学組は通常授業を受けなくなり、本格的な受験生に変身して行く。

 夏はこれからだが、秋の風が吹いたように寂しさが舞い始めるのだった。

 花梨は開いたノートに今日三度目のため息をついた。

 「・・・全然だめだわ」

 開いていたノートは家計簿だった。

 花梨はダイニングテーブルで今月の支出計算をしていた。悠人の収入は一般のサラリーマンと比べれば格段に多いいといえる。だが、初めて任された先月は赤字になってしまった。そして、今月こそはと張り切ってみたが、結果は芳しくなかった。

 「生活の単価が違うのよね」

 花梨はノートの数字に語り掛ける。

 「だってスーツ一つ、靴一つ、すべてがとても高価なのよね。でも、紫藤家の体面から外見的なことをケチってはいけない。お付き合いはもちろん締めるわけにはいかないし、どこを絞ればいいのか・・・」

 花梨は家計簿を睨む。

 「どうしたんだい?」

 花梨は「ぎゃっ」と飛び上がる。

 悠人は一歩離れて、両手を上げた。

 「また、驚かせた?」

 花梨は恨めしそうに悠人を見ると頷いた。

 「どうして、気配がしないのかしら」

 「普通に歩いていたよ。何にそんなに熱中しているの?」

 悠人は肩越しに花梨の手元を覗き込んだ。

 「家計簿、手書きだったんだ」

 先月の報告は収入と支出と結果だけの簡潔なものだった。

 「PCは苦手で。紙がいいです」

 「今月も私の稼ぎだけでは苦しいみたいだね」

 「悠人さんは何も悪くないです。とても、しっかり稼いでいます。すごく立派です」

 慌てて頭を振ったので、ポニーテールが揺れて悠人の顔に当たった。

 「わ、わざとではないです、ごめんなさい」

 「大丈夫」

 悠人は自分の肩に付いた髪を掴むと顔に近づけた。

 「良い香りだ」

 花梨の目が大きく見開かれると、見る見るうちに真っ赤になった。

 悠人が微笑む。

 「また、ふざけてますか?」

 「いいえ。まったく」

 花梨は疑わし気な視線で悠人を追った。悠人はその視線を逃れる様に、ノートに指を置いた。 

 「お金の悩みを増やして悪いのだけど、来月、慈善パーティーをすることになったよ」

 「慈善パーティー?」

 「おじい様からのご要望でね。そういうパーティーが毎年持ち回りのように開催されるんだ。うちは色々言っていつも断っていたのだけど、今年は若夫婦がいるからと、押し切られたそうでね。私もまるで気乗りしてはいないが、仕方がない」

 「私、セレブのパーティーとかそういったものに参加したことがないので、どんなものか想像もできないのですけど?」

 不安そうな顔で花梨は悠人を見つめた。

 「段取りは村瀬がするので大丈夫。あまり心配しないでどんと構えていればいいんじゃないかな」

 「それだけ?」

 「ええ」

 不安そうだった花梨の顔が不安そのものに変わった。


 夕食後、花梨は台所にいた。

 鈴木と山崎、村瀬が食事の後片づけをしている。

 「村瀬さん、慈善パーティーのことなのですが・・・」

 村瀬が拭いていたグラスを置く。

 「はい、聞いております」

 「まったくわからないので、それがどのようなものなのか教えていただけますか?」

 村瀬は椅子を引いて、「どうぞ」と手で示す。花梨はおとなしくその席に座った。

 「毎年、藤グループと縁がある方々が催している会で基本は場と食事を提供します。でも慈善と謳われているようにメインは寄付を募ることですね」

 「ただ、お金を集めるのは無粋なので、最近はだいたいオークションが開かれています」

 「オークション?」

 「まあ、家にあるいらないものを持ち寄って、それに本来の価値より高い値段を付けて買い、それを寄付するという感じです」

 山崎が口を挟んだ。

 「どんなものが売られるのですか?」

 「私が知りえた話ですと、昨年の一番高価だったのは有名イリュージョニストのショウだったとか」

 「え?」

 「その方の一日券みたいな感じですわ。使いたいときに使える券です」

 「そんな子供の味方、かたたき券のように言われましても」

 あっははと山崎は笑った。

 「買った方が何かのパーティーとかでその方を呼べるのですね。誕生会とか会社の忘年会とかに」

 ぶっ、今度は鈴木が吹き出した。

 「はい、そうです。その方と懇意にしている方が出品して、買われた方が使われるのです」

 「すごいですね」

 花梨は素直に感心する。

 「感心している場合ではありませんよ。だいたいホストが一番の目玉を用意するものなのですよ」

 「ホスト?」

 「はい、今回は悠人様と花梨様です」

 「え!」

 「パーティーの準備は私たちでやりますので、花梨様は悠人様と相談して、そのメインディッシュを考えて下さい」

 「え!」

 驚いて、順に三人の顔を見比べる花梨に、鈴木がゆっくりお茶を差し出した。

 「どうぞ」

 「どうぞといわれたら頂きますが、何だかゆっくりお茶を頂く気分ではないのですが・・・」

 ブツブツ言いながらも花梨はお茶を口に運んだ。

 「まあ、焦ってもしかたありません、まずは心を落ち着かせないと。いい案は浮かばないですよ」

 「それもそうだけど・・・」

 花梨はもう一口お茶を飲む。

 「悠人さんには何かいい考えがあるかしら?」

 視線を三人に送る。

 三人は目だけで笑った。

 「あら、何その無な感じ。これは悠人さんはあまり当てにならないということ?」

 また、三人は目だけで笑う。

 「え?え?どういう表情ですか、それは?」

 追及する花梨を残して、三人はさっさと仕事に戻った。


 「で、悠人さんには何がいいか聞いたのですか?」

 百合、向日葵と花梨は学園の下駄箱で靴を履き替えながら話をしている。百合も向日葵も今日は忙しくゆっくりはしてられないのだ。 

 「うん」

 「で、何て?」

 「いらないものの持ち寄りだから何でもいいんじゃないかって。館の手入れをした時に庭にあった、ビーナス像風の物でいいんじゃないかって」

 「あははは、ビーナス風ってなんだよ」

 向日葵が乾いた笑い声を上げた。

 「それはひどいわね」

 百合も呆れた声を出した。

 三人は玄関を出て歩き出す。

 「悠人さん、物欲がほとんどないらしくって、だから人が欲しい物とか喜ばれる物とかがまったく解らないらしいのよ」

 「あははは、クリスマスが楽しみだな、花梨。トナカイ柄のセーターとかプレゼントされたりしてな」

 向日葵は悠人の弱点を知って、楽しくて仕方がない様子でまだ笑っている。

 「そんな先の事は置いといて、オークションの目玉商品を考えないといけないのですね」

 百合は腕を組んだ。

 「最近は村瀬さんのおっしゃる通り品物より、体験物が流行っているとは聞きますね」

 「そうだな、有名歌手を独り占めとかな。ギター一本で自分のためだけにバラードを歌って貰ったとかあったぞ」

 「桜桃の方々なら向日葵一日貸出券で相当稼げますわね」

 「確かに」

 「百合、お母さんは?」

 「向日葵さすがにそれは無理だよ。年単位のスケジュールだよ。万が一、蘭さんが良いと言っても、買った方との折り合いがつかないわよ」

 「そうね。ポンとオフになる時はあるけど、母は無理でしょうね。どちらにしても、うんとは言わないでしょうし」

 「冗談だよ」

 『あ』

 三人は同時に手を打った。

 「いるね。男の方にも女の方にも喜ばられるだろう身内が」

 「いますね」

 「忙しいが、スケジュールは少しは融通が効くな」

 三人はニヤリと笑い合った。

 「車来てるな」

 前に向き直ると、次々入ってくる車の中に三人共迎えの車を発見した。

 「とりあえず、欅に連絡してみるね」

 「私もスケジュール確認してみるよ」

 向日葵はそれだけ言うと車に乗ってしまった。

 「じゃ、また連絡してね」

 百合も車に乗る。

 花梨は二台の車を見送り、自分も車に乗った。

 「おかえりなさいませ」

 山崎が振り返る。

 「ただいま」

 「あら何だか暗い顔ですね。いいお知恵を借りられませんでしたか?」

 「ううん。目玉商品はうまくいけばあっさりクリアできるかもです」

 車が動き出す。

 「それでは、どうなさったのですか?」

 花梨はため息をつきながら、胸に手を置く。

 「時々、ギュッとするんです。ここに風が吹いて」

 山崎はバックミラーで花梨を確認する。

 「花梨様は悩ましい顔も美しいですね」

 沈んでいた表情が一転してふくれる。

 「なんで、そうなるんですか」

 「だって、愁いを帯びて何だかとても大人びていらして」 

 ニコニコと山崎はうれしそうに返事をした。

 「いや、もう、ほんと皆さんどうかしてます。悠人さんも最近はすぐ人をそうしてちゃかすんですよ」

 「えっ、そうなんですか?」

 「真面目な話をしてるのに、『眉がそんなに寄るんだね』とか『驚くと耳が動くんだね』とか。挙句に『あなたはそんな顔をしても可愛いからすごいよね』とかすごく感心したりするんですよ」

 「あら、一緒です」

 「そういうとこです」

 花梨は心底怒っているようだった。

 「すいません。これからは心の中だけにしますね」

 神妙に山崎は謝った。

 「心の中でも止めて欲しいです」

 「それは無理です」

 「即答しないで下さい」

 「プリプリしてるのも可愛らしい」

 花梨はドンと運転席の背を叩いた。

 「駄々洩れです。全然心の中じゃない」

 「あら、失礼いたしました」

 山崎はしおらしく手で口を隠した。

 「もういいです」

 花梨はどさりと座席に背を押し付けた。

 「もう何も言いませんから、もう一度物思いに耽って下さい」

 「イーーー」という声を聞きながら山崎は満足そうにハンドルを切った。



 

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