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シンデレラになってみました  作者: 椛こま


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21/52

シンデレラになってみました 21話



 ステージは大成功だった。

 まず向日葵が、今人気の笑わないアイドルの新曲とダンスを完全コピーして見せた。曲を編集で切り替え、途中でオタク芸パフォーマンスが披露される。向日葵のダンスもキレがあるが、オタク芸もキレッキレの仕上がりだった。昨今の高校生ダンスの全国大会にも出場出来るレベルの出来だ。

 ステージの終わった後の客席は拍手と悲鳴の嵐だった。

 

 「すごかったですね。私たち」

 「自画自賛かよ」

 満面の笑顔の彩桜(あおい)に向日葵が突っ込みを入れる。

 「でも、すごくすごく気持ち良かったです」

 花梨はまだ興奮冷めやらずといった体だ。

 「本当に何だか自分が自分ではないようでしたわ」

 「本当に」

 「あれだけ練習した成果が出せて良かったです」

 「苦しかった練習がうそみたいに思えます」

 「お客さんもすごく喜んで下さっていましたわよね」

 「すごい歓声でしたわ」

 皆口々に感想を言い合う。

 「毎年向日葵のステージを下で見ていたけど、上からの景色はあんなでしたのね」

 百合が向日葵の傍に寄って行き、水を差し出す。向日葵は水を受け取るとぐびぐびと喉を鳴らして飲み干した。

 「サイコーだろう?」

 「まさか。自分の振りを間違えないように踊るのに必死でまるで楽しめせんでしたわ。もう二度とごめんですわ」

 「皆と揃ってあれだけ踊れたのはとても気持ち良かったけど、私も向日葵のように楽しむところまでは、とてもとても」

 さすが向日葵ね、と花梨も感心して見せる。

 「まっ、私は生まれ持ってのスターだからな」

 照れ一つなく言ってのけた向日葵の横顔を百合は真顔で見つめた。

 「本当にすごいわ、向日葵って」

 百合のため息に花梨はぷっと吹き出した。

 「あっ」

 一伽が急に声を出した。

 「花梨さん、そう言えば悠人さんがお見えになっていたわよ」

 花梨は驚く。

 「来るのは午後だと言っていたのに」

 「時間が取れたからと言ってましたわ」

 「まあ」

 花梨はほとんど済んでいた身支度を大急ぎで整えると、大急ぎでドアに向かった。

 「百合、向日葵、また後で。悠人さんを探しますわ」

 向日葵は百合を恨めしそうに見つめた。

 「最後の学園祭を三人でとことん楽しみたかったのに」

 「午前中に十分楽しんだでしょう」

 百合はぷいと視線を外すと、身支度を続けた。

 「せっかく、天使をみんなに見せびらかしていたのにな」

 「これから、あの夫婦が招待客も含め学園中の視線を独り占めしますわよ」

 「全然笑えないな」

 向日葵は憮然としてため息をついた。


 悠人はすぐに見つかった。

 まだ、ロビーにいたのだ。

 「悠人さん」

 名前を呼びながら花梨は走り寄った。

 悠人は、花梨を認めて顔を上げた。

 「よかったです。ここにいらして」

 花梨の息は少し上がっている。

 「一伽さんに聞いたのですね」

 悠人は優しい視線を投げかけた。

 「はい。このまま、午後まで居られるのですか?」

 「ええ、います」

 「じゃ、案内しますね」

 花梨は横に並んだ。

 「何処か見たい所はありますか?」

 悠人は入り口で渡された、しおりを開く。

 「そうですね、このサイエンス「悪魔の館」かな」

 花梨は目を丸くする。

 「ここは、桜桃学園の暗部ですよ」

 悠人はくすりと笑う。

 「あんぶとは暗く隠された部という意味でいいのですか?」

 「まさしく、その意味ですわ」

 「でもサイエンスだから、科学なのでしょう」

 「一応はです。実際はオカルト部なのです」

 「それは、科学とは正反対ですね」

 「オカルト現象を科学で証明してみせるという活動なのですが、証明できないので本当にオカルト現象はあるのだという立証をしているそうなのです」

 「それは、すごい」

 普通の口調で悠人は答える。

 「本当にそう思っています?高校生を馬鹿にしてません?」

 「してませんよ。心底感心しています。すごく見たくなりました」

 「そんな、棒読みで言われても」

 また悠人はくすりと笑う。

 「やっぱり馬鹿にしてますね?」

 「さあ、案内してくれるのではないのですか?」

 悠人は花梨の手を取ると歩き出した。

 「ちょっと待って下さい、こっちですよ」

 

 「本当に仲良しですね。あんな社長を始めてみます。女性とじゃれ合うなんて」

 「そうなんですか?」

 「っていうか、山崎さん近い」

 隠れて二人を覗いていた太刀川が横に身体をずらした。

 「圧がすごいんですよ、圧が」

 心から嫌そうに抗議する。

 山崎は笑ったままドスの利いた声で答えた。

 「一回言えば分かるから」

 山崎の本気の声は太刀川を震え上がらせるには十分だった。

 「社長が笑うのを見たことのない人の方が多いくらいですよ。僕なんか秘書について一年目はあまりに無表情なので、本当によくできたマスクを被っているのかと思ってましたよ」

 太刀川は持ち前の強いハートで立ち直ると、会話を戻した。

 「表情柔らかくなりましたものね」

 「そうなんです。今まで女子社員からは恐れと尊敬の眼差しでは見られていたけど、最近はふと優しい眼差しなんか出ちゃう時があったりして、『やだ、社長、かっこいいのは知っていたけど、冷たすぎてこわかったのに最近氷溶けてない?』とか騒がれているんですよ。影でキャーキャー言われているんですよ」

 「いい傾向じゃない」

 「全然いい傾向じゃない。社長の優しさ懐の深さは僕だけの物だったのに」

 太刀川は口惜し気に吐き出した。

 「気持ち悪いけど、その気持ちわかるわ」

 「気持ち悪いは余計です。あっ早く行かないと見失います」

 視界から悠人たちが消えそうになり二人は会話を止めて足を進めた。

 「あら、見失いそうにはないわね。何だかすごい注目の的じゃない」

 悠人たちを付けているのは、山崎達だけではなかった。付けているのは二人だけだったかもしれないが、悠人と花梨を見かけた人たちが、自然と同じ方向に歩いているのだ。

 皆、こそこそキャーキャー囁き合いながら進んでいる。

 「結婚のこと知れ渡っているんですね」

 「まあ、社交界は狭いからね」

 二人もその人の波と一緒に歩いて行く。

 「私は護衛だけど、あなたは何でここにいるの?」

 「僕は・・・でばがめですかね」

 「でばがめってどんな意味ですか?」

 二人が振り向くと、百合と向日葵が立っていた。

 「尾けて覗く、という意味です。ごきげんよう、お嬢様方。花梨様に振られました?」

 「そうなんです。悠人さんが来てると知ると、一目散に行ってしまって」

 百合が朗らかに言うと、向日葵がけっと、悪態をつく。

 「向日葵、その『けっ』というの止めていただけませんか」

 百合は肩を震わす。

 「太刀川さん、お宅の会社はどうなってんの。もっと仕事バンバン詰め込んでくれないと困るんだけど」

 「そんなこと言われてもこちらが困るんですけど」

 身長がほぼ同じ向日葵に凄まれ、太刀川はたじろぐ。

 「それにしても、そのでばがめさんの多いい事。そして、この状態なのにまるで気にしていない風の悠人さんもすごいわ」

 「花梨様は何やら必死なご様子ですものね」

 「一生懸命、学園案内をしてるんだな。本当に可愛いぜ。あんな初代学園長が植えた桜の木の紹介なんてどうでもいいことを、あんな必死で」

 花梨たちは一本の桜の木の下で止まり、花梨は身振り手振りでその木にまつわる逸話を話して聞かしている。

 「社長のあの顔。僕だけが知っていたくつろいでる時の顔ですよ」

 「まじかよ、あのしょうもない話を聞いてくつろげるとは、悠人のやつ、もう花梨にメロメロだな」

 性懲りもなくまた「けっ」という。

 「メロメロって何ですの?本当に嫌ですわ」

 百合は向日葵から一歩離れた。

 「それも仕方ない事だわ。花梨の可愛さは尋常ではないもの。天使と四六時中一緒に居れば、それは魅せられてしまいますわよ。悠人さんもただの人でしたのよ」

 「悔しいがそれは仕方がない」

 向日葵は拳をぐっと握りながら、声を絞り出した。

 「でも、花梨がああもなつくとは思わなかった」

 「そうね。男の方には免疫がありませんし、しかも基本は男の方は苦手で、式を挙げるまで悠人さんのお顔もろくに覚えていなかったのに。義務感もあるでしょうけど、よほど良くしていただいているのね」

 「義務感って何ですか?」

 「結婚に際して紫藤家に色々していただいたので。恩返しをしなくてはならないと思っているのです」

 「可愛いだろ?」

 「自分を見初めて下さったのも、十三様でしたし、そういう意味でも悠人さんには少しでも楽しく過ごしてもらいたいと思っているんですの」

 「すごく、可愛いだろ?」

 「そう念を押されると何ですけど、可愛いですよ。健気なんですね」

 「そう、健気と素直が宝石を纏って歩いているようなもんだ」

 うん、うんと百合と山崎が頷く。

 「山崎さんもかい」

 太刀川はげんなりとして、視線を二人に戻した。

 「社長は本気で好きになり始めているのに、奥さんは義務感か・・・」

 ぼやいた声は小さく誰の耳にも届かなかった。




 

 

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