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シンデレラになってみました  作者: 椛こま


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19/52

シンデレラになってみました 19話



 「昨夜は本当に申し訳ございませんでした」

 山崎は起立した姿勢から頭を下げた。

 「何事もなかったから良かったが、今後はもう少し考えなければな」

 十三は杖に顎をのせて座ったまま、厳しい視線だけを山崎に送った。

 「はいっ」

 山崎はもう一度頭を下げる。

 「悠人もだぞ。花梨ではなく、お前が機転を利かせなくてはいかん」

 視線が悠人に送られる。

 「ええ。あのような事に二度とならないようにします」

 「結婚式を襲った奴の背後は突き止めて、手は打ったから大丈夫だとは思うが、今回の事もただのチンピラの仕業だとはっきりするまでは、ご友人たちにも警戒が必要じゃ。わかったか?」

 「はい。各家庭に当分の間警戒を怠らないよう、お願いいたしました。日中はこちらから警備の者を回しています」

 「あまり大げさにやり過ぎると、花梨の立場もつらくなろう。ただでさえあの学園の子らは窮屈な暮らしをしているからの。今回のせいで羽が伸ばせなくなるような事がないように配慮したか?」

 「もちろんです。大げさにならないよう言葉を尽くしました」

 「うん。お前がそう言うなら、うまくやっているだろう」

 山崎はもう一度頭を下げる。

 十三は悠人に目を向けた。

 「どうだ、結婚生活は?聞けば、毎日早く帰っているようじゃないか」

 「そうですね」

 「想像よりも、家庭を持つのはいいものだろう?」

 悠人は少し考える。

 「おじい様は一般的な家庭がどんなものかご存知ですか?」

 唐突な質問に十三は戸惑う。

 「・・・知らんな」

 「そうですよね」

 悠人は十三とテーブルを挟んで向かい合って座っていた。テーブルに置いた手に顎を添える。親指で顎を支え他の指は口の前で合わせた。

 「私には家庭というものがどんなものか解っていません。だから、いいのか、悪いのかは分かりません。物語やドラマの中に見る、温かく笑顔の絶えない家庭がいい家庭なのだとしたら、私の育ってきた家庭とはかけ離れている。私は良い家庭というのを知らないということになります。ただ、新婚だから早く帰宅したほうがいいという知識はあるから、なるべく早く帰ろうと努力はしています」

 「それは、花梨のことを思ってこそだろう?」

 また、少し悠人は思案する。

 「そうですね。彼女が喜んでくれるせいもあるし、喜ぶ彼女を見て、彼女の望む家庭像を提供しなければという思いもあります」

 「花梨が喜んで、お前はどう思っているんだ。嬉しいか?」

 「嬉しいですね。彼女の笑顔を見ると幸せです」

 十三の目が嬉しいそうに細くなる。

 「それでいい。いい家庭がどんな家庭か分らなくても、お前が幸せならそれでいい」

 満足そうに頷いた。


 「悠人は雰囲気が変わったとは思わんか?」

 悠人を見送って戻ってきた山崎に十三は話しかけた。

 「私は元々外でしか会ったことがないですから、はっきりとは分かりかねますが、印象はまったく違いますね」

 「悠人をどんな男だと思っていたのだ?」

 「冷静沈着で他人には共感することが少なく、感情の起伏も少ない方」

 「ひどい言いようだ。間違ってはいないがな」

 十三は苦笑した。

 「でも、今は違うのだな」

 「はい。お近くで拝見していますと、随分違います。冷静沈着ではありますけど、ちゃんと私たち奉公人にも気を配られ、まして花梨様には誠意をもって接していらっしゃいます。ポーカーフェイスではありますけど、うまく隠されているだけでちゃんと人間らしい感情もお持ちなのだと分かりました」

 「ほう、それはまた、変わったわ」

 「えっ、変わられたのですか?もともとこういった方ではないのですか?外では何をするのも注目される立場の方ですから、自然と処世術が身に着いたのかと」

 「いや、外でも家でも、子供の時でも。あれは笑うこともほとんどなく、冷めた視線で大人を見ているような子供だった。頭がずば抜けていい代わりに人間味の薄い子供だった。あれの父親によく似ていた」

 十三の顔が歪む。

 「あれの母親の美佳子は可愛らしい素直な娘だった。儂は美佳子が嫁に来てすっかり安心してしまったんだ。仕事も楽しかった時期でもあったから、自分のやりたい事だけに熱中して過ごした」

 ため息を大きくつく。

 「孫が生まれたという報告が入って何年かぶりに、美佳子に会った時の驚きは忘れられん。別人だった。もう美佳子には自分の子供を抱きしめる力も残ってはいなかった。泣き叫ぶ美佳子から、悠人を取り上げ、達之を説得して暫く家族をバラバラにした。美佳子の回復を待って、また一緒にしたが、もう元には戻らなかったがな。家同士が決めた結婚だったが、一緒に過ごせば愛情とは言わなくても、情が湧くものとばかり思い込んでいた自分を責めたわ。悠人が六歳を迎えた日に美佳子は居なくなった。本当に可哀想な事をしてしまった」

 大きく息を吐いた十三は一回りも小さくなってしまったように感じる。

 「この間、鈴木さんと話をしました」

 山崎の声に、十三が杖から顎を少し上げた。

 「鈴木さん、美佳子様のご紹介だったのですね」

 「ああ、調べたのか?」

 「申し訳ありません。やはり気になりまして」

 山崎は詫びる。

 「美佳子に悠人に見合いをさせようと思うと話に行ったとき、条件に出されたのだ。鈴木は若夫婦の家の料理人だった。美佳子とは親しかった、あの家で唯一の美佳子の味方だったそうだ。美佳子が出て行った後、辞めてフランスに居た所、たまたま再会して親しくしていたそうだ」

 「美佳子様にどうしてそんな条件を出したか理由を聞きましたか?」

 「いや」

 「ふふ」山崎は笑った。

 「悠人様が信じられないからだそうですよ」

 「悠人が?」

 「ええ。愛情のない結婚をしたら、花嫁に冷たく当たるだろうとお考えだったそうです。情緒の欠けたところがあるから心配だとも。その時も私は私の知っている悠人様とは随分違うと思いました」

 「ほぉ、そうだったのか」

 十三は嬉しいそうに、何度も頷いた。

 「悠人は結婚してから変わったと思っていたが、どうやら花梨と出会ってから変わったのじゃな。結婚を随分あっさり承諾したのも、結婚話がうるさくなってきたから、儂の話を受けるのが一番都合がいいと判断したんだと思っていたが、案外花梨に一目惚れしたからかもな」

 「そうかもしれませんよ。とにかく悠人様は花梨様に誠実に向き合っていらっしゃいます」

 十三は感慨深げに、顎を杖の上の手に戻した。シャキッと立っていれば、十三はとても若く見える。しかし、杖を手に座るとその身体は小さく、ひどく年を取ってしまう。肩の荷が少し下りたかの様に安心するその姿は、実年齢よりずっと年老いて見えた。



  

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