シンデレラになってみました 18話
「昨日は本当に興奮しましたわ」
彩桜はまだ興奮冷めやらずという顔をしていた。
「本当にありがとうございます。本物の臨場感、息遣い、そしてスリル。とても、素晴らしい経験でした」
一伽も同じだ。
「お二人とも、なんともなかったですか?夜眠れなくなったりはしませんでしたか?」
花梨は心配が先に立つ。
「花梨さんの護身術が本物だと判ってとても感謝してます」
「私の護身術なんてどうでもいいのです。夜の繁華街があんな危険な場所だとは知らず、安易にお二人を連れ出して、何事もなくて本当によかったです」
「本当ですね。かどわかしなんて現実に起こることでしたのね。父の話を馬鹿にしていましたけど、これからは少しだけ身を入れて聞きますわ」
うん、うんと彩桜も頷いている。
「な、こんなもんだよ。そんなに心配することなかっただろ」
向日葵が口を挟んだ。
「でも、軽率な行いが死に通じることもあるから」
花梨は真剣だ。
「確かにそうですわ。私たちの行いは少し軽率だったわ」
百合が同意する。
「そですわね。次はもっと気を付けましょう」
一伽が大きく同意を示してこの話の幕を引いた。
「それにしても、紫藤様は男らしくていい方でしたわ」
彩桜は花梨に羨むような視線を投げた。
「あのような場面で、私たち5人の前に立ち一歩も引かないあのお姿」
さっと、花梨たちの前に出て場面を再現する。
「本当に立派なお方に嫁げて、お幸せね」
一伽も、ほぅとため息をつく。
「そうか?」
向日葵は二人のその反応が気に入らない。
「あんなの家のやつら皆するぞ」
「それは、お仕事ですから」
百合が呆れる。
「でも、あいつも仕事に近いだろ。仕事というより使命か。翁より賜った大事な花嫁だからな」
むきになって向日葵が言い返した。
その言葉は花梨の胸に刺さった。
ー使命
ーそうか、使命感
その通りだとすぐに納得がいく。だが、なぜかひどく胸が痛んだ。
「では、昨日の熱が冷めないうちに、全体のフォーメーションなどを決めて行きます」
一伽がクラス長の顔になる。
下校時間が遅くなることが出来ない桜桃では、学園祭の準備は通常の授業時間にやることが当たり前だった。今日は朝から、学園祭の準備時間なのだ。
一伽はテキパキと皆に指示を与えていた。
彩桜は向日葵のワンマンショーの準備チームなので、向日葵とそちらの打ち合わせに向かった。
「どうかした?」
ただ突っ立っている花梨の横に百合が立つ。
「傷はもう大丈夫?」
昨日の立ち回りで、ほぼ治っているお腹の傷を百合は気に掛けていた。
「うん」
花梨は胸を押さえる。
「胸が痛いのですか?」
「えっ?」
花梨は自分の手が置かれている位置を確認する。
「痛い」
百合はじっと花梨を見つめた。
「なぜ?」
「わからない」
「彩桜さんと一伽さんが悠人さんを褒めたから?」
花梨は目を丸くする。
「褒められて、誇らしかったわ。昨日の悠人さんは本当に男らしく素晴らしかったもの」
「それが、使命感から来た行動だというのが、嫌でしたの?」
百合は少し微笑む。
「使命感だと嫌?」
呟くと、花梨は自分の胸にもう一度手をやる。
「悠人さんは結婚した時から、ずっと私にとてもお優しいのです。とても。それが、使命感からなのだという向日葵の言葉は本当だと。だからなんだと思ったの」
百合は言葉を探す花梨を静かに見守っている。
「そしたら、心臓がぎゅっとなったの」
「うん」
「嫌だからなのかしら?でも、なんで嫌だと心臓が痛いくなるの?使命感から私に優しくしてくださるのは当たり前のことなのに」
「花梨は他の理由がいいのよ、きっと」
「他の理由?」
「それは、もっと時間を掛けて探した方がいいわ。花梨と悠人さんは結婚から始まってしまったのだから。今は学園祭のことを考えましょう」
納得のいっていない顔をしている花梨の手を百合は強引に引くと、ずんずんと皆の輪の中へ入って行った。
すぐに花梨も気持ちを切り替える。
今度の学園祭は特別だ。
全身、全力で楽しまなくては、花梨は軽く顔を叩いて気合を入れ直した。




