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シンデレラになってみました  作者: 椛こま


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18/52

シンデレラになってみました 18話



 「昨日は本当に興奮しましたわ」

 彩桜(あおい)はまだ興奮冷めやらずという顔をしていた。

 「本当にありがとうございます。本物の臨場感、息遣い、そしてスリル。とても、素晴らしい経験でした」

 一伽も同じだ。

 「お二人とも、なんともなかったですか?夜眠れなくなったりはしませんでしたか?」

 花梨は心配が先に立つ。

 「花梨さんの護身術が本物だと判ってとても感謝してます」

 「私の護身術なんてどうでもいいのです。夜の繁華街があんな危険な場所だとは知らず、安易にお二人を連れ出して、何事もなくて本当によかったです」

 「本当ですね。かどわかしなんて現実に起こることでしたのね。父の話を馬鹿にしていましたけど、これからは少しだけ身を入れて聞きますわ」

 うん、うんと彩桜も頷いている。

 「な、こんなもんだよ。そんなに心配することなかっただろ」

 向日葵が口を挟んだ。

 「でも、軽率な行いが死に通じることもあるから」

 花梨は真剣だ。

 「確かにそうですわ。私たちの行いは少し軽率だったわ」

 百合が同意する。

 「そですわね。次はもっと気を付けましょう」

 一伽が大きく同意を示してこの話の幕を引いた。

 「それにしても、紫藤様は男らしくていい方でしたわ」

 彩桜は花梨に羨むような視線を投げた。

 「あのような場面で、私たち5人の前に立ち一歩も引かないあのお姿」

 さっと、花梨たちの前に出て場面を再現する。

 「本当に立派なお方に嫁げて、お幸せね」

 一伽も、ほぅとため息をつく。

 「そうか?」

 向日葵は二人のその反応が気に入らない。

 「あんなの家のやつら皆するぞ」

 「それは、お仕事ですから」

 百合が呆れる。

 「でも、あいつも仕事に近いだろ。仕事というより使命か。翁より賜った大事な花嫁だからな」 

 むきになって向日葵が言い返した。

 その言葉は花梨の胸に刺さった。

 ー使命

 ーそうか、使命感

 その通りだとすぐに納得がいく。だが、なぜかひどく胸が痛んだ。

 「では、昨日の熱が冷めないうちに、全体のフォーメーションなどを決めて行きます」

 一伽がクラス長の顔になる。

 下校時間が遅くなることが出来ない桜桃では、学園祭の準備は通常の授業時間にやることが当たり前だった。今日は朝から、学園祭の準備時間なのだ。

 一伽はテキパキと皆に指示を与えていた。

 彩桜は向日葵のワンマンショーの準備チームなので、向日葵とそちらの打ち合わせに向かった。

 「どうかした?」

 ただ突っ立っている花梨の横に百合が立つ。

 「傷はもう大丈夫?」

 昨日の立ち回りで、ほぼ治っているお腹の傷を百合は気に掛けていた。

 「うん」

 花梨は胸を押さえる。

 「胸が痛いのですか?」

 「えっ?」

 花梨は自分の手が置かれている位置を確認する。

 「痛い」

 百合はじっと花梨を見つめた。

 「なぜ?」

 「わからない」

 「彩桜さんと一伽さんが悠人さんを褒めたから?」

 花梨は目を丸くする。

 「褒められて、誇らしかったわ。昨日の悠人さんは本当に男らしく素晴らしかったもの」

 「それが、使命感から来た行動だというのが、嫌でしたの?」

 百合は少し微笑む。

 「使命感だと嫌?」

 呟くと、花梨は自分の胸にもう一度手をやる。

 「悠人さんは結婚した時から、ずっと私にとてもお優しいのです。とても。それが、使命感からなのだという向日葵の言葉は本当だと。だからなんだと思ったの」

 百合は言葉を探す花梨を静かに見守っている。

 「そしたら、心臓がぎゅっとなったの」

 「うん」

 「嫌だからなのかしら?でも、なんで嫌だと心臓が痛いくなるの?使命感から私に優しくしてくださるのは当たり前のことなのに」

 「花梨は他の理由がいいのよ、きっと」

 「他の理由?」

 「それは、もっと時間を掛けて探した方がいいわ。花梨と悠人さんは結婚から始まってしまったのだから。今は学園祭のことを考えましょう」

 納得のいっていない顔をしている花梨の手を百合は強引に引くと、ずんずんと皆の輪の中へ入って行った。

 すぐに花梨も気持ちを切り替える。

 今度の学園祭は特別だ。

 全身、全力で楽しまなくては、花梨は軽く顔を叩いて気合を入れ直した。



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