シンデレラになってみました 16話
カオスだ
待ち合わせ場所に着いた悠人は、唖然として固まった。
目の前にいる者たちが、まず何者なのか判らなかった。
「え、え、これは何ですか?」
太刀川の空気を読めないという能力が見事に功をなした。
「あなたは何組の人ですか?星空組?」
と、三つ揃いの細身のスーツで決めた、向日葵の周りを回った。
「あなたはどこかのお姫様?」
と、完璧なロリータファッションに身を包んだ百合のレースを抓んだ。
「あなた方はオタクを理解はしている」
と、ウォッシュジーンズにTシャツ姿の一伽と、えんじ色に三本線の入ったジャージ姿の彩桜を見て頷いた。
「最後のあなたはもう人ですらないんですけど。キャッツですか?このクオリティは何?驚き通り越して感動ですが」
息も切れ切れに、太刀川はダメ出しを終えた。
完全な猫の特殊メイクを施した花梨が、目を伏せた。
「褒めてませんよ、言っときますが」
照れた花梨に、太刀川が容赦なく突っ込んだ。
「え」花梨の目が大きくなる。
「本当にすごいですね、このメイク。目だけなのに表情が分かる。お金があるって本当にすごいことですね。誰がしたか、世界的な名前が出てきそうで怖くて聞けないんですけど」
「よくわかったな。ありとあらゆる伝手を使って辻井何某さんに頼んだ」
向日葵が胸を張ると、太刀川は「そのざっくりさが怖い」と耳を塞いだ。
「じゃ、行くか」
何事もなく、足を進め始めた向日葵の腕を太刀川が慌てて掴む。
「この格好のまま何処へ行こうと?」
ドスの利いた声だ。
「えっ、ライブ会場だろ?」
足をなぜ止めなければ分からないとばかりの口調だ。
「こんな格好でいったら、アイドルより目立ちますよ。すぐに、普通の格好に着替えましょう」
太刀川は慌てて回りを見渡す。待ち合わせたこの場所は、百合の母である、世界的ピアニストの黒瀬蘭の衣装部屋だった。蘭自身のドレスを保管する場所だが、百合が祖父の目を胡麻化して出掛けるために、色々な衣装を持ち込んでいた。
「普通のジーンズとTシャツでいいんですよ。なぜ、そんな格好になったのですか?」
「いや、地下アイドルなんてこんな格好した人ばかりなんだろう?」
「いませんよ、しかも、あなたたちはアイドルではないですよね」
「まあ、そうだけど。渋谷じゃ、目立たないだろうこのぐらい」
太刀川は開いた口が塞がらない。
「百合、ある?」
真っ黒い髪を縦ロールに結ったフランス人形は首を傾げた。
「ありますわよ。でも、この格好ではダメなんですか?気に入ったのに」
「ああ、すごい似合う」
その場に居る、山崎も含む女子全員が大きく頷いた。
「それは、認めますよ。このまま原宿にいったら、読者モデルにすぐにでもなれますよ、きっと」
太刀川はイライラを隠し切れない。
褒められて満足したのか、百合はみんなが居る部屋の奥の部屋へと行く。
「でも花梨はどうする?」
「ジーンズとTシャツなんかで出掛けたら、可愛さが溢れて会場がパニックになるぞ。花梨はこのままでいいな」
「いや、一番ダメでしょう」
太刀川は速攻却下する。
今度も山崎を含む女子全員がぶーぶーと言う。
「もう、ぶーぶー煩い。社長、なんとか言ってください」
太刀川の声でやっと、悠人は我に返った。
「ああ」
だが、まったく言葉がでない。
「なんですか?言葉が通じてないですか?ここは日本の東京ですよ」
「ああ」
「だから、ああじゃなくて、あなたの奥さんの格好を何とかしてください」
「ああ」
改めて目の前にいる猫を見た。
大きな目がくりくりと悠人を見返す。
「可愛い」
思わず本音が零れ落ちる。
「悠人さんは猫派なんですね。よかった猫の方にして。犬と迷ったんですよ」
猫が満足そうににっこり笑う。
「いやいや、違うから。ほらもう、急いでメイク落とさないと、間に合わなくなる」
「そうだそうだ。メイクを落として来なさい。帽子をかぶって眼鏡をすれば、ごまかしも聞くでしょう。私がいるから、大丈夫です」
一伽と彩桜が「きゃっ」と小さく歓声を上げ、向日葵が「けっ」と吐き捨てる。
「では、みなさん、着替えましょう」
奥の部屋から、百合が声を掛ける。
皆がそれぞれにブツブツ言いながら、奥の部屋に消えて行く。
「なんか、お嬢様ってすごいですね」
悠人の隣にやってきた太刀川は大きなため息を吐いた。顔にひどい疲れが見える。
「お疲れ様」
悠人は心から労った。
「でも、少し惜しかったな」
続いて本音が漏れる。
山崎は聞き逃さなかった。一瞬で隣に来ると、さっと携帯を差し出した。
悠人は山崎の動きにビクッとする。
「そうですよね。これ、送ります」
差し出された携帯には、猫に扮した花梨が色々なポーズをとっている。
「これはっ」
覗き込んだ太刀川も息を飲む。
『可愛い』
三人の声が重なった。
顔を見合わせた、山崎は微笑み、太刀川は驚き、悠人は恥ずかしさから顔を伏せた。
悠人は誤魔化すように咳払いをすると、山崎に携帯を返した。
「早くから集まって、写真撮影していたのか」
「花梨様のメイクは時間がかかるので、午後の授業中に施されたそうです」
「授業中?」
「学園祭のための準備授業だとかで」
「何でもありですね」
太刀川は感心している。
「青春ですね。とても楽しそう」
山崎の声に悠人は隣の部屋の方を見つめた。奥の部屋からは楽しそうな声が聞こえる。
「そうだな」
「そうですか?僕はあーゆう女子特有なキャピキャピ感は嫌いです。それにしても、結婚ってすごいですね。社長が女性に対して、可愛いと言いうなんて。僕さっき耳を疑いましたよ。しかも、女性同士の会話なんて気に留めたことありませんよね?ほんと、変わりましたね」
太刀川は真剣だ。
悠人はしらっと無視する。
「準備が終わったみたいだ」
奥の部屋からぞろぞろと少女たちが出てきた。皆、ジーンズとぶかぶかの白のプリントTシャツを着てきた。
「びっくり。シンプルになったのに、すごく目立ちますね」
たしかに、5人はとても目立った。
悠人と太刀川はYシャツにジーンズ姿だったが、悠人は一目を引く容姿をしているし、太刀川も顔は普通だがモデルと言っても通るスマートな体形をしていた。山崎はポロシャツにチノパンという出で立ちだったが山崎である、8人全員で外を歩いたらたしかに悪目立ちしそうではあった。
「車で会場近くまで行って、着いたら何人かで少し距離を取って入りましょう」
百合の意見は建設的だった。皆納得して、やっと出発した。




