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シンデレラになってみました  作者: 椛こま


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16/52

シンデレラになってみました 16話



 カオスだ

 待ち合わせ場所に着いた悠人は、唖然として固まった。

 目の前にいる者たちが、まず何者なのか判らなかった。

 「え、え、これは何ですか?」

 太刀川の空気を読めないという能力が見事に功をなした。

 「あなたは何組の人ですか?星空組?」

 と、三つ揃いの細身のスーツで決めた、向日葵の周りを回った。

 「あなたはどこかのお姫様?」

 と、完璧なロリータファッションに身を包んだ百合のレースを抓んだ。

 「あなた方はオタクを理解はしている」

 と、ウォッシュジーンズにTシャツ姿の一伽と、えんじ色に三本線の入ったジャージ姿の彩桜(あおい)を見て頷いた。

 「最後のあなたはもう人ですらないんですけど。キャッツですか?このクオリティは何?驚き通り越して感動ですが」

 息も切れ切れに、太刀川はダメ出しを終えた。

 完全な猫の特殊メイクを施した花梨が、目を伏せた。

 「褒めてませんよ、言っときますが」

 照れた花梨に、太刀川が容赦なく突っ込んだ。

 「え」花梨の目が大きくなる。

 「本当にすごいですね、このメイク。目だけなのに表情が分かる。お金があるって本当にすごいことですね。誰がしたか、世界的な名前が出てきそうで怖くて聞けないんですけど」

 「よくわかったな。ありとあらゆる伝手を使って辻井何某さんに頼んだ」

 向日葵が胸を張ると、太刀川は「そのざっくりさが怖い」と耳を塞いだ。

 「じゃ、行くか」

 何事もなく、足を進め始めた向日葵の腕を太刀川が慌てて掴む。

 「この格好のまま何処へ行こうと?」

 ドスの利いた声だ。

 「えっ、ライブ会場だろ?」

 足をなぜ止めなければ分からないとばかりの口調だ。

 「こんな格好でいったら、アイドルより目立ちますよ。すぐに、普通の格好に着替えましょう」

 太刀川は慌てて回りを見渡す。待ち合わせたこの場所は、百合の母である、世界的ピアニストの黒瀬蘭の衣装部屋だった。蘭自身のドレスを保管する場所だが、百合が祖父の目を胡麻化して出掛けるために、色々な衣装を持ち込んでいた。

 「普通のジーンズとTシャツでいいんですよ。なぜ、そんな格好になったのですか?」

 「いや、地下アイドルなんてこんな格好した人ばかりなんだろう?」

 「いませんよ、しかも、あなたたちはアイドルではないですよね」

 「まあ、そうだけど。渋谷じゃ、目立たないだろうこのぐらい」

 太刀川は開いた口が塞がらない。

 「百合、ある?」

 真っ黒い髪を縦ロールに結ったフランス人形は首を傾げた。

 「ありますわよ。でも、この格好ではダメなんですか?気に入ったのに」

 「ああ、すごい似合う」

 その場に居る、山崎も含む女子全員が大きく頷いた。

 「それは、認めますよ。このまま原宿にいったら、読者モデルにすぐにでもなれますよ、きっと」

 太刀川はイライラを隠し切れない。

 褒められて満足したのか、百合はみんなが居る部屋の奥の部屋へと行く。

 「でも花梨はどうする?」

 「ジーンズとTシャツなんかで出掛けたら、可愛さが溢れて会場がパニックになるぞ。花梨はこのままでいいな」

 「いや、一番ダメでしょう」

 太刀川は速攻却下する。

 今度も山崎を含む女子全員がぶーぶーと言う。

 「もう、ぶーぶー煩い。社長、なんとか言ってください」

 太刀川の声でやっと、悠人は我に返った。

 「ああ」

 だが、まったく言葉がでない。

 「なんですか?言葉が通じてないですか?ここは日本の東京ですよ」

 「ああ」

 「だから、ああじゃなくて、あなたの奥さんの格好を何とかしてください」

 「ああ」

 改めて目の前にいる猫を見た。

 大きな目がくりくりと悠人を見返す。

 「可愛い」

 思わず本音が零れ落ちる。

 「悠人さんは猫派なんですね。よかった猫の方にして。犬と迷ったんですよ」

 猫が満足そうににっこり笑う。

 「いやいや、違うから。ほらもう、急いでメイク落とさないと、間に合わなくなる」

 「そうだそうだ。メイクを落として来なさい。帽子をかぶって眼鏡をすれば、ごまかしも聞くでしょう。私がいるから、大丈夫です」

 一伽と彩桜が「きゃっ」と小さく歓声を上げ、向日葵が「けっ」と吐き捨てる。

 「では、みなさん、着替えましょう」

 奥の部屋から、百合が声を掛ける。

 皆がそれぞれにブツブツ言いながら、奥の部屋に消えて行く。

 「なんか、お嬢様ってすごいですね」

 悠人の隣にやってきた太刀川は大きなため息を吐いた。顔にひどい疲れが見える。

 「お疲れ様」

 悠人は心から労った。

 「でも、少し惜しかったな」

 続いて本音が漏れる。

 山崎は聞き逃さなかった。一瞬で隣に来ると、さっと携帯を差し出した。

 悠人は山崎の動きにビクッとする。

 「そうですよね。これ、送ります」

 差し出された携帯には、猫に扮した花梨が色々なポーズをとっている。

 「これはっ」

 覗き込んだ太刀川も息を飲む。

 『可愛い』

 三人の声が重なった。

 顔を見合わせた、山崎は微笑み、太刀川は驚き、悠人は恥ずかしさから顔を伏せた。

 悠人は誤魔化すように咳払いをすると、山崎に携帯を返した。

 「早くから集まって、写真撮影していたのか」

 「花梨様のメイクは時間がかかるので、午後の授業中に施されたそうです」

 「授業中?」

 「学園祭のための準備授業だとかで」

 「何でもありですね」

 太刀川は感心している。

 「青春ですね。とても楽しそう」

 山崎の声に悠人は隣の部屋の方を見つめた。奥の部屋からは楽しそうな声が聞こえる。

 「そうだな」

 「そうですか?僕はあーゆう女子特有なキャピキャピ感は嫌いです。それにしても、結婚ってすごいですね。社長が女性に対して、可愛いと言いうなんて。僕さっき耳を疑いましたよ。しかも、女性同士の会話なんて気に留めたことありませんよね?ほんと、変わりましたね」

 太刀川は真剣だ。

 悠人はしらっと無視する。

 「準備が終わったみたいだ」

 奥の部屋からぞろぞろと少女たちが出てきた。皆、ジーンズとぶかぶかの白のプリントTシャツを着てきた。

 「びっくり。シンプルになったのに、すごく目立ちますね」

 たしかに、5人はとても目立った。

 悠人と太刀川はYシャツにジーンズ姿だったが、悠人は一目を引く容姿をしているし、太刀川も顔は普通だがモデルと言っても通るスマートな体形をしていた。山崎はポロシャツにチノパンという出で立ちだったが山崎である、8人全員で外を歩いたらたしかに悪目立ちしそうではあった。

 「車で会場近くまで行って、着いたら何人かで少し距離を取って入りましょう」

 百合の意見は建設的だった。皆納得して、やっと出発した。



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