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シンデレラになってみました  作者: 椛こま


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13/52

シンデレラになってみました 13話



「お願いがあるのですけれど」

 花梨は意を決して、声に出した。

 本当は夕食が始まる前に、切り出すつもりだった。それが、食事中に変わり、結局全てを食べ終わるまで、口に出せなかったのだ。

 「はい、何ですか?」

 悠人は食後のコーヒーを優雅に口に運んでいた。

 悠人の動作は何をしていても様になる。

 育ちが良いとはこういうことを言うのだろう。

 花梨は声を掛けたが、なかなか続きを切り出せずに、悠人の所作に見とれていた。ゆったりとした時間が流れている、忙しなさが皆無なのだ。

 そこが、父に似ている。

 花梨は、昨日から何度となく感じていたことの答えを得た。

 「何でしょう?随分言い難い事のようですね」

 花梨は我に返る。

 「ちょっと、だけ・・・」

 悠人は花梨が切り出すのを待っている。

 「一緒に、行きたい所があるのですが・・・」

 覚悟を決めて言い出したが、どうにも歯切れが悪い。

 「どこですか?」

 悠人が話を進めようと、促した。

 花梨はあっと、目を剥いた。

 「ど、どうしました?」

 悠人はその顔に面食らう。

 「ちゃんと始めから話せば良かった事に気づきました」

 いつもの顔に戻ると、花梨は堰を切ったように話し始めた。

 「7月の第三週の土日で学園祭があるのです。そこで、私たち桜組は舞台での催しをすることになりました。その催しを向日葵のワンマンショーとそれを応援するという形で、その他の生徒でオタク芸を披露することに決まりました。向日葵のワンマンショーというのは毎年やっているのです。これはもう学園祭では定番というか鉄板というか、もうやらなければいけないことなんですね。やらないなんてなったら、学園中はもちろん、OGの方たちからも抗議が殺到してしまいます。なので、桜組では毎年向日葵のショーと、もう一つ何かをやるのですけど、食べ物系とか、クラスでお化け屋敷とか、ゲームとか。今年はもういっそ、一緒に舞台に立っちゃえ、ということになったんです」

 やっと、一息つく。

 「そういえば、学園から学園祭の招待状が届きましたね」

 悠人は花梨の勢いに押されたのか、テーブルに手を置いた状態から、椅子に寄り掛かるという体勢に変わっている。

 「それ大切なので失くさないで下さい。うちの学祭、もの凄くセキュリティが厳しいので、父兄といえど招待状失くしたら、学園に入れませんから」

 「わかりました」

 花梨は悠人が頷くのを見て安心すると、お茶を口にした。花梨の食後はいつもハーブティだ。

 「美味しい。今日はアニスヒソップだったかな?」

 ゆっくり味合うと山崎に確認する。山崎は軽く頷く。

 「それで、何がお願いなのですか?」

 すっかり寛ぎモードに入った花梨は、慌ててティーカップをソーサーに戻した。

 「そうでした。何処まで話しましたか?」

 「向日葵さんと一緒にみんなで舞台に立つ所です」

 「そうでした。それで、演目が決まったので、練習に入るのですが、クラス長の朝宮一伽(いちか)がどうしても本物を見学したと言い出しまして」

 「本物?なんの?」

 「そうですよね。疑問はもっともです。何の本物かと言うと、オタク芸の本物を見たいと」

 「オタク芸の本物?」

 「そうですよね。私も初めて知ったのですが、地下アイドルを見に行くと、もれなくファンの方のヲタ芸が見れるそうなのです」

 「見れるのですか?」

 「ええ、ええ?たぶん」

 改めて聞かれると、自信はない。

 「それで、外出許可が欲しいのですね」

 悠人は、話が随分ためらった挙句、前置きの長い話だったので、少し拍子抜けしていた。

 「はい。それも、そうなのですが、クラス長と矢代彩桜(あおい)さんの外出許可を取って頂きたいのです」

 言い終わると、花梨はテーブルに頭を付けた。

 「えっ?どうして私が?」

 「私たちのクラスではどの方も放課後の外出許可をとるのが、とても大変なのです」

 過保護だとは思うが、桜桃へ通う家ならあるだろうと悠人は頷いた。

 「それで、朝宮も矢代も、そのお父様方のお仕事が藤グループの傘下なのだそうで・・・」

 言い難そうに花梨は今一度下をむいた。

 「保護者として悠人さんからお電話頂ければ、許可が下りるそうなのです」

 最後は一気に言い切った。

 「保護者としてですか・・・」

 悠人は言葉を吟味するように、口の中で繰り返した。

 「これは、向こうの親御さんにただ電話すればいいという話ではなく、当日も保護者として同行するということですか?」

 「無理ならば、お電話だけでいいと思います。山崎もいますし、向日葵のお家からもボディガードを借り受けることが出来ると思います」

 花梨は、「無理はしないで下さい」と念を押す。

 「わかりました。同行しましょう。日程は?」

 「本当ですか?」

 花梨は両手で小さくガッツポーズをした。

 「早ければ、早いほど。悠人さんの都合に合わせます」

 「村瀬」

 控えていた村瀬がタブレットを持ってくる。悠人はスケジュールを確認する。

 「金曜日は時間が取れます」

 「わかりました」

 食い気味に返事をすると、すぐ脇に控えていた山崎から、携帯を受け取る。

 「そんな即答で大丈夫ですか?」

 今日はもう火曜だ、明々後日のチケットがそんな簡単に手に入るものだろうか?

 「取れたそうです」

 「もう?」

 花梨が、携帯のラインやり取りを見せる。

 「見てもいいのですか?」

 花梨には一切の躊躇いもないが、悠人は躊躇する。なにしろ女子高校生の生の会話を盗み見るのだ。

 『悠人さん金曜日OK』

 『本当!すごい!』

 『了解、6時半から良いのがありました。押さえます。押さえました』

 『早っ』

 『ありがとうございました。了解いたしました』

 「簡潔ですね」

 悠人はラインの文面のシンプルさに感心する。

 「では私は、朝宮家と矢代家に電話をしますね」

 今度は花梨が面食らう。

 「え、今ですか?」

 「善は急げでしょう」

 悠人はまったく気にした様子がない。

 「村瀬」

 村瀬がさっと携帯を差し出す。

 手品のように差し出された携帯に、花梨はびくっとする。

 「忍者」

 花梨は慌てて、ラインに打ち込む。

 『今から、悠人さんが電話します』

 「朝宮哲司さんですか?紫藤悠人です」

 既読が点いた時には、会話が始まっていた。

 花梨は居ても立ってもいられず、悠人の隣に駆け寄り、会話を見守った。今日の今日の話なのだ、一伽の親御さんが信じてくれない可能性もある。

 「えっ」

 相手の第一声は聞こえたが、続きは聞こえない。

 「今週の金曜日に学園祭の打ち合わせのために、お嬢さんをお借りしたいのです。・・・ええ、もちろん帰りは責任を持ちまして送り届けます。はい、よろしいですか?・・・・では、よろしくお願いします」

 あっさりと電話が終了する。

 「あっさりとOKがでましたね。まったく疑われてませんでしたね」

 花梨は驚きの視線を悠人に送った。

 「ああ、掛けたのが会社役員しか知らない電話番号だったので」

 「そ、そんなものがあるのですか?」

 「本来は私も知らないのですよ、でも村瀬が調べました」

 花梨は尊敬の眼差しで村瀬を見る。

 「忍者、ではなくて、村瀬さんすごい!」

 村瀬は美しいお辞儀で返事を返した。

 同様に矢代家も一発OKが出た。

 「紫藤家の力とは本当にすごいものですね」

 花梨はひとしきり感心する。

 悠人は黙ったまま携帯を見つめていた。

 「ありがとうございます」

 花梨は近づいて、頭を軽く下げた。

 「・・・いいえ。学園祭楽しみですね」

 「ええ。とても」

 花梨は全身で笑った。

 「では、私は仕事があるので、部屋へ」

 「はい。ありがとうございました。おやすみなさい」

 花梨は元気いっぱいに悠人の背中に手を振った。



 

 

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