治癒の双子
五月の初めに職場が変わりましてバタバタしていて更新遅れに遅れました。
すいません。
今後も更新遅れると思うので気長にお待ち下さい。
東部辺境伯アークの娘でありカラとレオンの妹であるクリスティナとアリアの双子は東部辺境領首都ウォルンタースにある治癒と慈愛の神であるメルヴィアが祀られる神殿に来ていた。
メルヴィアは人から神へと至ったといわれる神であり、現在も世界を廻って傷ついた人々を癒して廻っているといわれている。
そんなメルヴィアの神殿に双子がなぜ来ているかというと母親であるカリンの付き添いである。
辺境伯夫人ともなると他の貴族からの関心もあるためカリンは結婚当初から世間体に苦心していた。基本的に貴族というのは世間体を異常なほど気にする生き物である。アークや他の辺境伯はそれほどではないが、帝都を中心に活動する貴族は他の貴族、更には富裕層の商人や一般民の目まで気にして生活している。
そこで大事になってくるのが【貴族として】【社交家として】【慈善家として】の三本柱である。
【貴族として】は貴族としての能力のことであり、人の使い方やマナー、その者の能力や家の歴史など。
【社交家として】は晩餐会、舞踏会、狩猟、舞台歌劇などのイベントに参加したり、他の貴族、王族、芸術家などとの家族ぐるみでの付き合いの有無。自宅でパーティを開き広く招待客を招くのも大事である。
そして最後に【慈善家として】は孤児院の医療施設の敷設や、神殿などへの喜捨、領地内の貧しい者や老人を訪問し食べ物や物資を与えることだ。これは人気取りのためにやる者と、本心からの慈善でやる者に分けられるが恩恵を受けるものからすれば実質は変わらないので言及はしない、ちなみにカリンは後者であり今日来ているのも本日メルヴィア神殿で週一で行なわれる治療日の手伝いのためだ。
神殿まで来るとカリンと双子、カリン付きの侍女が乗ってきた馬車から下り、用意してきた物資は神殿の神官達が頭を下げ挨拶して順次下ろしていく。
「それではお願いします」
「はい、お任せ下さい」
カリンは神官達に一礼して微笑みかけると神殿内へと歩を進める。その姿に年若い神官達は頬を染めて礼を返す。四児の母とはいえカリンは未だ二十五であり女盛りの美女であり神官達の間ではカリンの出迎えを誰がするかクジ引きによる争奪戦が行なわれるほどである。
神殿に入ると朝早くということもあり礼拝堂内部は閑散としていたが、治療日の手伝いに来た老齢の医師や富裕層の夫人が礼拝席に座り挨拶を交わしていた。
カリン達もその一角に向かって進み挨拶する。治療日の手伝いは今日が初めてではなく顔見知りのため近づくとあちらも気付き笑顔で迎えてくれる。
「おはようございます皆さん」
「おはようございますミスラ夫人、あらあら今日は可愛らしいお嬢さん方もご一緒なのね」
カリンの後ろを歩くクリスティナとアリアを見て丸顔の婦人がニコニコと二人に笑いかける。双子はそれに照れたのかカリンのスカートの後ろに隠れるが、気にはなるのかチラチラと婦人のほうを窺っていた。
「ほらクリス、アリアご挨拶しなさい」
そんな二人の背中をカリンはポンポンと叩くと二人に挨拶するように促す。すると二人はおずおずといった感じでカリンの後ろから進み出るとぎこちない御辞儀をする。
「クリスティナ・リィア・ミスラなのよ」
「アリア・リィダ・ミスラなのよ」
「はじめまして、可愛いわねぇ」
「ホッホッ、そうですなぁ。今日はお母さんのお手伝いにきたのかな?」
初老の老人に質問された二人は大きく頷く。
「「 そうなのよ 」」
「それは偉いのう。カリン嬢は今日も薬草の処方の手伝いかの?」
「ええ、今日もご教授願えますか?」
「良いとも良いとも。枯れた爺がこんな別嬪さんとお喋り出来るんじ役得役得」
「あらあら、先生ったら」
「ホッホッホッ」
老人が冗談めかして言うと、その場にいた者達から笑い声が上がる。
「しかしカリン嬢は治癒魔術が使えるんじゃから、そっちを頑張っても良いと思うがのぉ」
「私の治癒魔術は下級までですから、精々が擦り傷や軽い切り傷を治せる程度ですからね。他に中級、上級の方がいるんですからそちらにお任せしますよ」
「ふむ、確かにそれもそうじゃの。それじゃあ早速薬草の処方を手伝ってもらおうかのぉ」
「分かりました。」
そう言って老人とカリンが薬草が所狭しと置かれた机で今日使う薬草の処方を始める。最初は興味深げに見ていたクリスティナとアリアだったが、延々続く単調な作業にすぐに飽きると周囲に目がいきはじめる。
そんな中で一際興味がそそられたのが何人もの傷を負った人々が列を作る一角だった。
列の最前列では神官の外套を着た老神官が傷を負った者の傷に手をかざすと、そこから温かな光が生じて徐々に傷口が塞がっていくのだ。
「いくのよアリア」
「わかったのよクリス」
二人はお手伝いという当初の目的を頭の中から放り投げ、興味の対象へと駆け始める。そんな二人に作業に集中しているカリンや周りの者達は気付くことはなく見送る形になってしまう。
治癒術師の老人の前に並ぶ行列を二人は勢いよく追い越すと、診察台が置かれた場所から少し離れた場所に二人は陣取る。
目の前では包帯で包まれていた痛々しい傷跡を治癒術師の老神官のしわだらけの手がゆっくりとなぞり、手から発される光が触れたところから徐々に傷口が塞がっていくところが見て取れた。
それを見て二人は大好きな兄のレオンと姉のカラを思い出す、二人もよく剣術の稽古だといって時には大きな傷を作っていた。最初の頃はそれを見て二人は自分達が痛い訳でもないのにその痛々しさに泣いていたが、いつしか馴れて傷を作ったのを見ても泣くことは無くなったが兄と姉に傷があるのは痛そうで嫌なままだった。
これが出来れば大好きな兄と姉の傷を自分達が治せるかもしれない。
その考えが頭に浮かぶと居ても立っても居られなかった。
傷の治療が終わるのを見計らって二人は治癒術師の老神官へと駆け寄る。
「お爺ちゃんそれどうやるのよ!?」
「教えてほしいのよ!!」
「こらッ!? どこの子達だい君達!!」
元気良く詰め寄る二人に頭の上から怒声が浴びせられる。二人がビックリ顔で見上げると神官の外套を着た少女がその顔に怒りの表情を貼り付けて二人を見下ろしていた。
「これ、むやみに怒るものではないビアンカ」
「で、ですが!?」
「おそらく、この子達は辺境伯の娘さん達だろう、何度かこの子達の上の子達の傷を癒しに行った時に見かけたことがある」
「へ、辺境伯の!?」
「辺境伯夫人は確か薬草の処方部門にいたはずだ、連れて行ってあげなさい」
「わ、わかりました!」
ビアンカと呼ばれた少女がクリスティアとアリアの手を握って連れて行こうとするが二人は動こうとしない。
「やーの!?」
「教えてほしいのー!!」
「し、師匠~」
座り込んで駄々をこねる二人に、辺境伯の息女と知って強く出られなくなったビアンカが情けない顔で
老神官へと助けを求めた。老神官は弟子の情けなさに溜息を吐くとクリスティアとアリアの頭に手を置いて語りかける。
「治癒術を覚えたいのならお母さんの許しを貰ってきなさい、そうすれば教えてあげよう」
「本当なの!?」
「すぐもらってくるの!!」
「えっ!? ちょ!? まっ、待ってぇぇぇぇぇ!?」
老人の言葉に二人はビアンカの手を握ったまま駆ける。それにビアンカは引きずられるようについていく、カリンの元へ戻ると二人がいなくなったことでちょっとした騒ぎになっており、帰った途端カリンの雷が双子の上に落ちた。
「クリス!! アリア!! 勝手にどこにでも行っちゃ駄目って言ったでしょう!!」
「ひぅッ!?」
「うぅぅ……」
「す、すいません!?」
カリンの雷は手を繋いでいたことで双子に挟まれる形になっていたビアンカにも落ち、何も悪くないビアンカはカリンの剣幕に涙声で頭を下げる。それほどまでにカリンの顔は怖かったのだ。美人は怒ると怖い。
その後ビアンカの口から双子が治癒術を習いたいということが伝えられカリンは難しい顔になった。
「治癒術か~、アークは二人には精霊魔術を覚えてほしいって言ってたんだけど……」
「「お願いなのよ母様」」
考え込むカリンにクリスティナとアリアの二人はすがりついて懇願する。その顔は今までカリンが見た双子の顔の中で一番必死なものだった。
「うん、やっぱり自分がやりたいと思ったことをしたほうが上達も早いわよね。良いわよクリス、アリア」
「「 きゃあああああああああああああああ、ありがとうなの母様!! 」」
その後、御前の治療の時間が終わると神殿から用意された食事を受け取り三人で食べているとビアンカを後ろに引き連れて老神官がカリン達のもとへやってきた。
「同席させてもらってよろしいですか?」
「あっ、お爺ちゃんなの」
「どうぞなの」
「これはイダタ神官長、よろこんでご一緒します」
「ありがとう、粗末な物ですがお口にあいますかな?」
「粗末だなんて美味しいですよ?」
そう言ってカリンは自分達の前に置かれた昼食に視線を落とす、スープとパンという簡素なものであったが数種類の野菜が一口大に切られて煮込まれたスープは野菜本来の甘みを楽しめるし、ジャガイモを練りこんだパンは程良い塩見が効いていてスープとの相性が抜群だった。
カリンの言葉にイダタは嬉しそうに微笑む。
「それは良かった。早速ですがビアンカよりお子様方の治癒術の習得の許可の許しを出されたと聞きましたが間違いないですかな?」
「ええ、本人達もやる気ですし」
イダタは頷くとしわの深く刻まれた顔に真剣な表情を浮かべてカリンを見る。
「治癒術を習得するにあたっての弊害は知っていますな?」
「他の魔術を使うのが下手になるんでしたっけ?」
「簡単にいうとそうなります。治癒術は治癒と慈愛の神であるメルヴィア様のお力を己の魂の幾許かを神々と繋げてお借りする術のことです。これは他の神の場合でも同じであり、ゆえに一人の者が何柱もの神の力を行使することは難しい。そして精霊達へと働きかける力も弱くなります。治癒術を習得するのならばそれを納得していただかなければなりません」
「それに関しては先程娘達とも話しました。そうだねクリス、アリア」
カリンが二人に問いかけるとクリスティナとアリアは大きく頷く。
「治癒術覚えるの!」
「兄さまと姉さまに自慢するのよ!」
満面の笑みを浮かべて言う二人を微笑ましげに眺めるとイタダは二人の頭を撫でる。
「それでは治癒術を教えてあげよう」
こうしてクリスティナとアリアの治癒術師への路が始まった。
今回も読んでくださりありがとうございました。




