王国の姫君
不死者の軍勢との戦いから、首無しの騎士のオーダイン、【七罪】、竜王と立て続けに起こった厄介事が終わってから数日後、城砦都市は平穏とはいえないまでも落ち着きを取り戻していた。
これだけの騒動の中心にいたカラとレオンだが特に騒がれることも無く、ここ数日を平穏に過ごしていた。不思議に思い兵士などに聞いてみたがオーダインとの戦いの後の記憶が曖昧だと答え二人は【七罪】の誰かが何かしたのだろうと結論づけてこの件は終わりにした。何故なら二人共目立ちたくないのだ現状は二人の望むところなのだ。
現在は城外、城内共に少なくない戦死者の遺骸が出たため、一旦城外へと並べ、親族がある者の死体は親族に引き取ってもらい、親族が無い者は今回の戦死者のために設けられた共同墓地へと運ぶ作業が西方辺境伯軍主体で行なわれている。
西方辺境伯軍は軍団長であり、辺境伯でもあったライアンの死により悲しみに沈んでいたが、それを乗り越えようとするためか、ただ単に気を紛らわせるためなのか精力的に働いていた。
そのようすをカラはアセリア王国との国境にあるダシュカット平原へと向かう四頭立ての馬車に備え付けられた小窓から見渡していた。
「いつ見ても戦後処理ってのは胸が痛むねぇ」
「仕方あるまい。戦争で死者が出るのは世の常だ。出ないことにこしたことはないが、そんな戦は皆無に等しい、ならば死者を悼み迷わぬように冥府へ送り出してやるのが生者の義務であり慰めだ」
カラの対面に座るレオンが腕を組み目を瞑りながら黙祷するように言う。
二人が乗る馬車の前には同じ造りの馬車が一台先行しており、その中には全身に負っていた傷を治癒術師によって歩けるまで回復させたクラウスが乗っている。
なぜダシュカット平原へと向かっているかというと、不死者の軍勢との戦いが終わった次の日にアセリア王国側から講和の申し込みがあったためであり、その講和会談が行なわれるのが帝国と王国両国の国境に位置するダシュカット平原となり、それにカラとレオンの二人はクラウスの従者兼護衛という形で同行しているのだ。
「しかし、思っていた以上に王国側の対応が早い」
「そうだねぇ、元々自国の負けが分かっていたみたいだ。国王が死んで混乱しているはずの王国にできる芸当じゃない」
「そうなると考えられるのは―――」
「第三国の介入か、王国内でクーデターかなぁ。どっちにしてもきな臭いねぇ」
アセリア国王が死亡していることは黒狼騎士団長のオルテガからの報告が上がっており、全軍が知ることとなっている。そのため今回の王国側の対応の早さにはクラウス達帝国上層部も警戒していた。
対策として傷の癒えた近衛騎士団長フォギィアとオルテガの二人は自団を率いてダシュカット平原近くに布陣し、すぐに駆けつけられるようになっている。
そのまま馬車に揺られること暫し、クラウス、カラ、レオン、他に数人の文官、護衛として騎士、兵士合わせて百の一行は会談場所へと到着した。
会談を申し込んできたアセリア王国側は既に到着しており、大型の天幕が張られその周囲をこちらと同じ数の騎士や兵士が囲んでいる。
こちらの到着に気付くと天幕の中から一人の少女が姿を現す。歳は見た感じレオンに近い十歳前後といったところだろうか、髪は波打つ赤髪と金髪を混ぜたようなストロベリーブロンドを腰まで伸ばし、人形のように整った顔にはまるのは蒼玉の瞳、薔薇が咲いたように赤い唇は微笑を形作り幼い容姿に似合わない色香を添えていた。
馬車から降りたクラウスの前まで歩を進めると少女は着ている純白のドレスのスカートをつまむと優雅に挨拶をする。
「グローリア帝国第五十八代皇帝クラウス・ヴォルフガング・ソウ・アドラー様とお見受けいたします。私はアセリア王国第九十八代国王ピエトロ・アルド・シダ・アセリアの次女シエラ・ホーリー・シダ・アセリアと申します。今回はこちらの講和の呼びかけにお応え頂き感謝致します」
その見事な挨拶の口上にクラウスは応用に頷くと周囲を見回す。
「丁寧な挨拶痛み入る。だが、今回の講和のそちらの総代は誰か? 失礼だがそのものが最初に挨拶するのが礼儀ではないか?」
「これは失礼致しました。説明が遅れましたが今回我々の総代は恥ずかしながら私が務めさせて頂いております。見目が見苦しいとは思いますがどうかご容赦を」
王女の説明にクラウスだけでなく他の帝国の面々の顔がいぶかしむものに変わる。国の代表、しかも今回のように国の大事に年端のいかない少女を総代としてよこすなど帝国を舐めていると激怒されてもおかしくないのである。現に帝国の面々の中には怒りで顔を歪めているものが少なくない。
「どういうことか説明してもらってもよいかシエラ殿?」
「かしこまりました。ですが立ち話もなんです、天幕の中で座ってお話致しませんか? お茶も用意させますので」
「受けよう。だが茶はこちらで持参したものがあるので結構だ、頼むぞお前達」
クラウスの問いにシエラは頷きながらも一行を天幕へと誘う、それをクラウスは受けると従者として後ろに控えていたカラとレオンにお茶の用意を頼み天幕へと歩き始める。
カラとレオンは手早くお茶を淹れると持ってきていた焼き菓子を盆に乗せて天幕へと急いだ。
そこでは既に全員が長机にそって並べられた席に国ごとに対面するように座っている。二人は盆に乗せた紅茶の入ったカップをクラウスとその左右に座る文官の前へ置くとクラウスの後ろへと控える。
「それではお茶も来たようですし説明させていただきますね。まず私が総代として来た理由ですが、簡単です。私以外の王族は既に我が国にはいないのです」
「それはおかしいだろう。王国には王子が三人いたはずであり、他にも王妃や貴殿以外に姫がいたはずだ、その者達はどうされた?」
シエラはクラウスの問いに微笑を浮かべると後ろに控える兵士へと合図を送る。次の瞬間シエラの後方の天幕が開かれた。
「なっ!?」
「ヒィッ!?」
それを見てクラウスの左右に座る文官が短い悲鳴を上げる。
そこにあったのは横一列に並べられた五つの生首だ。その瞳は虚空を見つめ何も映しておらず、表情は驚愕や怒り、恐怖に歪んでおり、納得してその姿になったわけではないと如実に語っていた。
「この通り、私以外の王族は皆死にましたの」
微笑を浮かべながらそう告げるシエラにクラウス、カラ、レオン以外の全員が呑まれる。それにクラウスは舌打ちをするとシエラを睨みつける。
「なるほど理解した」
「それはようございました」
クラウスの言葉にシエラは嬉しそうに微笑む。
「貴殿が異常だということをな」
「まぁ……」
続いた言葉にシエラは困ったように頬に手を当てるだけだった。
「酷い言われようですね、私は国を想い涙を呑んで親族を手にかけたというのに」
瞳から一滴も涙を流さずにそういうシエラ。
「彼等や今回の戦で亡くなった父はお世辞にも立派な為政者とは呼べませんでした。私利私欲に基づいた政治を行い国民を蔑ろにして、勝てもしない戦争を続ける始末。私は数年前から国を憂える者達を集めてクーデターの機会を窺っていたのですが、今回父王が見事に自爆してくださいまして。好機と見て決起致しました次第です」
なるほどシエラの言い分は理解できる。王国の政治状況は放っていた間者から伝え聞くだけでも中々に酷いものだった。しかし年端もいかない姫が親族を手にかけ悲嘆にくれるわけでも無く、お茶を飲みながら優雅に微笑む姿を異常に感じることを止めることはできなかった。
「ご理解いただけました?」
再度聞いてくるシエラにクラウスはウンザリした態度で頷き先をうながす。
「それでそちらの要望は?」
「話が早くて助かります」
「なに、早々に切り上げたいだけだ」
「まぁ……うふふ、冗談がお上手ですね」
口元に手を添えて笑うシエラ。それだけ見れば可愛らしい少女だが、真実は感情が四方八方に折れ曲がった実利の怪物だ。その怪物が口にした要望はクラウスにしても予想外の内容だった。
「我が国を帝国の属領としてほしいのです」
更新遅くなりましたすいません。
今回も読んでくださりありがとうございます。




