戦いの終わり
【傲慢】のルーファの鋭利に伸びた爪が【強欲】のアモンの背中を切り裂く、【憤怒】のレヴィの身長の倍はある十字槍がルーファの腹部を貫いた。レヴィの攻撃後の隙を突き【怠惰】のベルゴールの拳が脇腹を直撃し、 【暴食】のベルゼの投げた大鎌がベルゴールの背中へと突き刺さる。投擲後の無防備な状態のベルゼをアモンの蹴りが直撃し小さい身体を吹き飛ばす。
そんな攻防が一瞬で行なわれ、五人は自分以外の四人と距離をとろうと飛び退る。全員が手痛い攻撃を受け示し合わせたように動きが止まった。
「チッ、相変わらず思い通りにいかない奴等だ」
「それは私の台詞ですよアモン。ああ… 本当に煩わしい」
「クソッ! クソッ!! クソッ!!! お前らいい加減にしろよ!!」
「……… 五月蠅いチビ」
「なぁッ!? お前のほうがチビだろうがベルゼ!!」
「あ~、俺が言えたことじゃねえが、本気でそろそろ止めにしねぇ?」
言い合いを始めたアモン、ルーファ、レヴィ、ベルゼにウンザリしたように頭をかきながらベルゴールが言うが、止まるどころか事態は炎上するように熱を増していき臨界を突破した。
≪ 私は何も持たず生れ落ちた 故に全てを持つ者になろう ≫
≪ 私は常に至高でありたい 誰よりも優れた者でありたいから ≫
≪ 僕が望むのは平穏 なのに世界は苛立ちに満ちている ≫
≪ おなかがすいた おなかがすいた おなかいっぱいたべたいの ≫
【強欲】の、【傲慢】の、【憤怒】の、【暴食】の、渇望が鎌首をもたげる。
「ちょ!? 止めろよ面倒くせえ」
「あらあら」
「… 止めてよ … 私が … 惨めに … なる」
他の【七罪】がそれを見て三者三様の態度をとるが思いは一緒だった。
『『『 困ったことになった 』』』
乱戦の余波を潜り抜け、なんとかクラウスを救出していたカラとレオンもその光景に息を呑む。自分達より高位の魔導師が紡ぐ魔導が四つ顕現しようとしているのに、自分達には対処するすべが無い。
≪ 私が歩む人生は 奪われることなど認めない 得ることだけで埋めていく ≫
≪ 私の歩む人生は 見上げるものではなく 見下ろすものでなくてはならない ≫
≪ 世界の醜さに 僕の頭は怒りで満ちていく 平穏などとは程遠い ≫
≪ くさはにがい いしはかたい すなはまずい おいしいものがたべたいの ≫
周囲の者の気持ちを置きざりにして四人の渇望が形を成していく。
魔導師が望む願望はなにも全てが好戦的なものばかりではない、しかし今祝詞を謳う四人の願望はまさにそれだ。【七罪】の二つ名は飾りではない、彼等は人々から罪人と位置づけられる者達なのだから。
それぞれが町一つを一夜で滅ぼせるであろう権能を持つため余波でも城砦都市にいる者達はひとたまりもないだろう。生き残れるとすれば【七罪】と同じく魔導を使えるカラとレオン。他は運がよかったら、といった希望的観測しか生存の道は無い。
≪ 故に 他人の幸福など望まない 私が望むのは 己が常に満たされること ≫
≪ 望むのは 己が想像する至高の自分 それが真になれと≫
≪ 綺麗なものを見ていたい 美しいものを見ていたい それだけが僕の望み ≫
≪ わたしがほしいのは なんでもかみくだくじょうぶなはと なんでものみこめるがんじょうなおなか ≫
だから誰か止めて欲しい――― その願いが聞き届けられたのか。天上から破鐘のように頭に響く念話がその場にいた者達全員に届いた。
『そこまでだ』
頭痛がするほどの衝撃を伴って頭に響いた念話の主を見るため全員が頭上を見上げる。
そこにあるのは黄金に輝く巨躯の竜の姿。手や足、胴は猫科の動物の形をそのまま爬虫類にしたようであり無駄の無いその姿は美しくすらある。頭からは二本の大きな角を生やし、その周りをそれより小さい角が冠のように囲んでいた。澄んだ碧眼の間には三つ目の眼が開き、三つの瞳で全てを見透かすように見つめてくる。
その周囲には百を超す飛竜の群れが彼を讃えるように旋回していた。
「なんだ…… あれは」
「飛竜? でも大きさが違いすぎる。それに、なんだいあの馬鹿げた魂の総量は……」
自分達や【七罪】を遥かに凌ぐ魂の総量を持つ存在の覇気に、緊張で口の中が乾くのを感じながら二人が呟く。止めて欲しいとは願ったが、さらに厄介そうな存在の出現など望んでいなかった二人なのだが。
「チッ―――― ザラクゥートスか!?」
「監視者が何故…… いや、そうか!?」
「竜王様!!」
「おいしそう…」
「やっべぇ… 一番面倒臭いのが来やがった」
「あらあら~、うふふふふふふふふふふ」
「ヒィヤアアアアァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ」
そんな二人を置いてきぼりにして、訳知り顔の【七罪】の面々が、睨み返したり、一人納得したり、神を崇めるように跪いたり、涎垂らしたり、コソコソ逃げ出そうとしたり、ニコニコ笑っていたり、頭を掻き毟って発狂したりしていた。
『少し控えよ【七罪】共。我が見逃すのも限度があると知れ』
「偉そうに蜥蜴野郎がぁ!!」
「いやいや、止めときたまえアモン。私も業腹だが竜王と事を構えるのは時期尚早というものだ」
「ああん!? びびってるんなら隅で震えてろやルーファ!!」
「………」
「お前ら竜王様の御前でいい加減にしろよ!!」
アモンの暴言に顔は笑顔のままルーファは仕舞っていた爪を伸ばし、両者は再び臨戦態勢をとる。その間をレヴィの怒声が駆け巡った。
その後また【七罪】同士で喧嘩が始まりそうになりザラクゥートスの一言で収束した。なんというか大人、である。
【七罪】達が一応大人しくなったのを確認するとザラクゥートスは視線をカラとレオンに向ける。
『さて【七罪】が関与しなければ我も出向かなかったのだがな、この者達と付き合うのは止めておけ、最後には我や他の神々も敵にまわすことになる』
「あっ、はい分かりました」
「元から付き合うき無いしね」
ザラクゥートスの言葉にカラとレオンの二人は即答で答える。【七罪】からは迷惑しか被っていないので当然といえば当然なのだが。
「なっ!? 手前等人の話も聞いてねえのに勝手に決めてんじゃねぇ――― オオぉぉぉぉアアァァァァァァァァ、何しやがる手前ェェェェェェッッッ、離せやあぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァッッ」
その二人の返答にアモンが異議を挟もうとするが最後まで続かず、赤い颶風がアモンを空へと攫っていった。目で追うと赤い颶風は普通の飛竜より一回り大きい赤鱗の飛竜であり、その口にアモンを銜えて空を駆けていき見えなくなる。
『話はついた。今後もこやつらが声をかけてくるかもしれぬが相手にせぬことだ』
そう言ってザラクゥートスはカラとレオンから【七罪】達へと目を向けた。
『さて、積もる話もある。少しつきあえ【七罪】共』
「お断りは?」
『むろん却下だ』
イザクゥートスの言葉に続くように飛竜が六匹【七罪】達の前に地響きを立てて降り立つと【七罪】達に向かって乗れとでもいうように背を向ける。それを見て諦めたように溜息を吐くとルーファは跳躍して飛竜の背へと降り立ち、カラとレオンに向かって慇懃な仕草で一礼する。
「それではまた会いましょう」
それに続くように他の面々も飛竜の背へ乗ってカラとレオンへと別れの言葉を告げた。
「またねレオン。カラちゃんも今度会うときは一緒にお風呂入りましょうね~」
アスタロッテはそういって手を振り、カラに石を投げられていた。ベルゴールはイヤイヤするように首を振っていたがベルゼに首根っこを掴まれ連行され、空に飛び立つ時には二人で手を振ってきた。なんだかんだで仲が良いのかもしれない。
レヴィアは錯乱して泣き叫んでいたのをレヴィの槍の石突の一撃を受け昏倒し、一緒に飛竜の背へと乗っている。
最後にレヴィがボソリと―――
「迷惑かけたな」
と言ってすぐさま空へと昇っていった。案外良い子なのかもしれないと思ったのは、彼の耳が根元まで赤くなっていたのを見てしまったからか……。
『では人生を楽しめ若人よ。我が主の世界を照らす光となるのを願っている』
どこかで聞いた言葉を残して竜王ザラクゥートスは去っていった。
文字通り嵐のように去っていった者達を見送ってカラとレオンは辺りを見渡す、崩れた城壁、陥没した道、倒壊した家、復旧には時間とお金がかかりそうだと溜息を吐きながら背伸びをする。
「今度こそ終わったか」
「なにがなんだか……」
「本当にな」
「お疲れ様レオン」
「ああ、お前もなカラ」
二人は顔を見合わせると微笑みあう。
こうしてカラとレオンの初戦は勝利といっていいのか、よく分からない終わり方で幕を閉じた。
難産でした。
なんでこんな詰め込んだ?と何回かUPした話けしちゃいましたし……、前のほうが良かったと思ってた方いたでしょうか?
結構人を選ぶ内容だったので、あれでお気に入りしてくれてた人が何人か離れていったのは、そういうことなんでしょうね。今後は自粛しますです、はい。
さてこの後戦後処理みたいな回を挟んでアセリア戦期終了です。
以前も募集しましたが、その後閑話を何個か入れようと思うので「こういうのが読みたい」「彼、彼女は今どうしてるの?」など書いて欲しいと思う内容ありましたら意見、感想で送ってくれると嬉しいです。
今回も読んでくれてありがとうございました。




