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- Double - 勇者と魔王の転生記  作者: 矢島 ユウ
アセリア王国戦争期
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城砦都市の決着

「素晴ラシイ」


 目の前で顕現する二つの世界を前にオーダインは感嘆する。

 あの歳で魔導の深淵に到ったことだけでも驚愕に値するというのに、それが二つ同時に産声を上げるなど、創世神が世界を創ってから初であろう。

 故に、それの最初の敵となれたことを誇りに思う。

 たとえ後世に口汚く罵られようと、私は今歓喜に打ち震え満たされている。

 感謝を、賛美を、祝福を、ありとあらゆる賛辞を(けい)らに送らせてほしい。

 そして兄らには初めての、我にとっては最後の戦いを、さあ今こそ始めよう。


「出陣!!」


 オーダインの号令を受けて不死者(アンデッド)達の勢いが増す、城壁上に大量の生ける死体(ゾンビ)いける骸骨(スケルトン)が雪崩れ込み、騎士や兵士達と剣を、槍を、戦斧(ハルバード)を打ち合わせる。城壁上には弓を持ったいける骸骨(スケルトン)達が矢を射かけ、味方を巻き込むのも気にせずに矢の雨を降らせる。

 城壁上は瞬く間に混沌と化した。


「コレデ邪魔ハ入ラン。サア英雄トシテノ力ヲ我に見セテクレ!!」


 轟音と共に床を割り砕きながら、オーダインはカラとレオン目掛けて疾走する。身体を纏う青白い炎は主の心情を表すように大きく膨れ上がり、その巨躯を包んでいく。

 それに対して一歩前に踏み出したのは金髪の少年。

 レオンはオーダインを迎えるように大きく手を広げると今一度自分の渇望の名を紡ぐ。


≪ 神殺しの抱擁 ≫


 その渇望に応えるように空に浮かぶ天体の全てが姿を隠す、残るのは黒く塗りつぶされた漆黒の空のみである。

 それ以外に世界に変化は無い。

 ただ一人を除いては。


「馬鹿ナ!?」


 レオンの渇望が世界を侵食すると共に、オーダインに起こった変化は劇的だった。

 オーダインを覆っていた青白い炎はその姿を消し、青白く燃え盛っていた長剣も元の鍔元で折れた剣へと戻る。そして残ったのは鎧のいたる所が罅割れた首無しの騎士(デュラハン)の姿。

 魔導を解除した覚えの無いオーダインは目の前で手を広げて立つ少年を見てレオンの渇望を理解する。


 神などいらない。神などいらない。それでも私の邪魔をするのなら、私の腕の中で息絶えろ。


 それはレオンの前世で行なわれた女神との戦いの最後を転写したものであり、前世のレオンの願いが叶った瞬間である。そのためレオンの魂に深く刻まれ魔導の序章として刻まれていた。


「魔導ノ無効化!?」


 オーダインの予測は間違ってはいないが正解でもない。レオンの渇望の効果は正しくは神力の抑止、それは神力の起源である魂を元とする魂魔導にも適用された。

 抑止であるため、自分より神力や魂量が多い者を無力化させることは出来ないが、格上の者の弱体化、同格から格下の者の無力化を強制することができる。

 レオンとオーダインの魂量は同格に近く、故に今のオーダインは魂魔導を使う前の首無しの騎士(デュラハン)へと弱体化させられていた。

 そしてオーダイン以外の不死者(アンデッド)の軍勢達もレオンの魔導が包み込む。

 不死者(アンデッド)の中で生ける死体(ゾンビ)いける骸骨(スケルトン)というのは死体に魂がなんらかの要因で定着したものであり、レオンの魔導とは悪い意味で相性が良かった。魔石に定着させられていた魂がレオンの魔導の負荷に耐えられず、次々と割れていく。

 オーダインの額にある魔石も同様に軋みを上げるが歯を喰いしばって撥ね退ける。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ」


 再び青白い炎がオーダインの全身を覆っていくがその勢いは弱く(はかな)い。

 そんな弱体化したオーダインに襲い掛かるのは銀髪の少女。

 手に持つのは銀鋼(ミスリル)製の両刃剣、そしてカラは今一度自分の渇望の名を紡ぐ。


≪ 神殺しの神剣 ≫


 その渇望に応えるようにカラの持つ剣が姿を変える。銀鋼(ミスリル)の色である白銀から徐々に、赤く、紅く、クラウスが持つ神鉄(オリハルコン)戦斧(ハルバード)よりも紅く、その色は真紅へと変わった。

 レオンのように世界が様相を変えることは無く、変化したのはカラが手に持つ剣のみ。しかしそれが内包する威力は極大であり、カラにはそれだけで十分だった。


「シッ!」


 短い息を吐いてカラの剣がオーダインに振り下ろされる。

 オーダインはそれを青白く燃え盛る剣で受けようとしたが、それは叶わなかった。

 何故ならオーダインの剣はカラの剣によって、なんの抵抗も出来ず切り裂かれたからだ。

 そのまま額を狙ってきた剣を飛びのくことで避けたオーダインを不死者(アンデッド)となって初めての激痛が襲う。


「アギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」


 あまりの激痛に(うずくま)り、恥も外聞もなく城壁上を転げ回る。

 何故こうなったのか理解できない、身体には剣を受けておらず、斬られたのは剣だけのはずだ。そう思った時オーダインはカラの渇望を理解する。


 神などいらない。神などいらない。それでも僕の邪魔をするのなら、僕の剣で息絶えろ。


 それはカラの前世で行なわれた女神との戦いの最後を転写したものであり、前世のカラの願いが叶った瞬間である。そのためレオンと同じようにカラの魂に深く刻まれ魔導の序章として刻まれていた。


「魂の殺傷能力!?」

「正解」


 カラの渇望はオーダインが言うように、カラの渇望は神を斬りたいと願ったものだ。当然神より低位の存在である者達であれば生身だけでなく魂まで斬ることなど造作もないのだ。

 渇望のほとんどを剣と化すことでカラに斬れないものは皆無に等しい、斬れないものを上げるとするならばカラより遥か格上の神くらいであり、格上の者であっても手傷を負わし、幸運が重なれば倒すことも夢ではない。

 そして魂を殺すということは、その魂が輪廻から外されることを意味する。


「死神……」


 それを理解したオーダインはひかぬことのない痛み顔を顰めながら呟く。

 そして覚悟を決めたように口の端を吊り上げ立ち上がる。


「良イデハナイカ、コレ以上ノ相手ハナイ!!」


 オーダインの覚悟に応えるように前進を覆っていた青白い炎が、オーダインが持つ剣の刀身へと姿を変えていく、そして出来上がったのは三メートルを越す片刃の巨剣。

 カラはそれを見ると剣を突き出すように構える。

 オーダインは八相に構えカラを静かに見据える。

 二人は示し合わせたように同時に床を蹴り剣を繰り出す、オーダインの巨剣がカラに振り下ろされる。それは小柄なカラの身体など木っ端に砕いてしまうほどの威力を宿していた。

 それに対してカラが放つのは下段からの切り上げ、その斬撃は速く鋭く、全てを切り裂くと告げている。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォッッッ――――」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァッッッ――――」


 一瞬の交差。

 立ち位置を入れ替えた二人は微動だにせず剣を振り切った体制のままに立っている。


「クッ、クククク、クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 オーダインの口から哄笑が上がり、辺りに響き渡った。

 それは己の勝利を確信した者のそれであり、自分と相対した英雄達に送る賛辞もかねている。


「感謝ヲ!! 小サキ二人ノ英雄ヨ」


 そう言うオーダインの手にある巨剣は根元から断ち切られ刀身が無くなり、身体には右脇腹から左肩までを大きな傷が走っている。あきらかに致命傷だった。

 それでもなを倒れることなくオーダインは振り返る。

 その目に映るのは祈るように剣を構える銀髪の少女と金髪の少年の姿。それに自然と口元が緩む。

 なんとも心憎いことをしてくれるものだ。

 そんな二人に応えるようにオーダインは手を大きく広げ二人の到来を待つ。

 

「来イ!!」


 金と銀の軌跡が己を通り過ぎたのを感じると同時に、オーダインは満足しながらその生涯を閉じた。

 魂の抜けた抜け殻となったオーダインの身体は糸の切れた人形のように崩れ落ちる。

 それを見て息を吐いたカラにレオンが後ろから声をかけた。


「終わったな」

「そうだね」


 オーダインが沈黙したのを確認すると二人は展開していた魔導を解除して周囲を見渡す、城壁上では数が減ったとはいえ、まだ数万はいる不死者(アンデッド)の軍勢との戦闘が続いていたが司令塔であったオーダインを倒したことによってその勢いは治まっている。


「そうだ陛下(とうさま)は!?」


 クラウスがまだ瓦礫に埋まったままだと思い出したカラがクラウスが埋まっているであろう瓦礫の山に駆け寄った時それは現れた。

 空から落下するように。

 天から堕とされたように。

 それはカラの目の前に着地する。

 白髪赤眼の異貌。

 身体を覆うのは漆黒の長衣。

 蝋のように白い肌は月光を反射して青白く輝いていた。

 整った顔に浮かぶのは喜悦の笑み。

 その者の名はアモン。

 【強欲(グリード)】の二つ名を持つ魔導師であることを二人はまだ知らない。


 オーダインさん最後はあっけなく……

 もしかしたら、後日もう少し最後の瞬間を盛るかもしれません。

 次回は【強欲】さんが暴れる予定。


 今回も読んでくださりありがとうございました。


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