城砦都市の攻防 十三
「コレデ終ワリカ?」
誰も動く者のいなくなった崩落し続ける城壁の上でオーダインが呟く。
【豪槍】と称えられた老将がいた。
風を纏う騎士がいた。
かって【戦王】と己が恐れた皇帝がいた。
全てを倒し、今自分のみが立っている。そのことに喜びは…… 無い。
「誰カイナイノカ!!!」
誰もいない城壁上でオーダインは叫ぶ。それは勝者が上げる声ではなく、親からはぐれた子供のようだった。
「我ヲ倒ス英雄ハ!?」
自分と戦った彼等は確かに英雄といえるだろう、生前の記憶がそう告げる。
ならば何故彼等が倒れ、自分のみが立っているのか。
不死者となった自分は既に英雄になる資格を持たないと自分が認めてしまっている。故に、英雄に倒される怪物でありたいと願った結末がこれだ。
英雄は倒れ、怪物だけが生き残る。
この後は怪物として暴れ、犯し、殺せというのか?
嫌だ。そんなのは嫌だ。
そんなものは自分が望んだものでは無い、だからどうか英雄よ――――
立ち上がれ。
「我ヲ殺シテミセテクレ」
それに応えるように瓦礫の中から二つの小さい影が立ち上がる。
一人は金髪金眼の少年。
一人は銀髪紫眼の少女。
【戦王】と共に自分に立ち向かってきた幼い戦士。
「そんなに死にたいなら、自殺でもすればいいだろう?」
金髪の少年が自分を睨みつけながら呟く。その眼は太陽のように輝き自分を射抜く。
「その剣で頭でも、心臓でも、貫けばいいんだよ」
銀髪の少女が血が流れる左手を庇うように剣を構えてそう言った。
ああ、その通りだ。その通りだとも。
だが、駄目だ。駄目なんだ。
「タダ死ニタイワケデハナイノダ」
こんな幼子に言われなくとも分かっている。
自分は我が侭だ。
度し難いと罵られても反論できない。
「タダタダ死ヌコトナド認メヌ」
路傍の石コロのように死ぬなど認められん。
自分が死ぬのは怪物と呼ばれようと、英雄と華々しく戦って倒される瞬間のみ。
だから幼き戦士達よ、英雄であれ。
自分と華々しく戦い、そして―――
「我ヲ殺シテクレ」
眼前に迫る首無しの騎士を見ながらカラは思う。
魂魔導とは何か。
眼前に迫る首無しの騎士を見ながらレオンは思う。
魂魔導とは何か。
魂魔道は全ての魔術の基本で原点。
今までは魂を広く、広く、広げることで、魔術を強く広域に展開してきた。
しかし、それが間違っていたとしたら?
本来は魂を広げるのではなく、深く、深く、己の魂の中へと潜るものだとしたらどうだろう。
実際目の前の首無しの騎士は魂を広げていない、自分の形に納め強固な世界としている。
だからカラは己の魂の中へと眼を向ける。
だからレオンは己の魂の中へと眼を向ける。
己の中にありながら、内面を覗かれることを拒もうとする魂に触れ、徐々に内面へと沈んでいく、そのまま深く沈むと思われたが、それを拒絶するように不可視の壁があらわれ、それ以上の侵入を拒絶する。
そしてそこにあったのは二人にとっての原点といえるもの、かって二人が目指した渇望だった。
魂の中から帰還した二人の口から世界へと謳い上げる祝詞が紡がれる。
その最初の一節は似通ったものだった。
≪ 僕は神に愛されたいと思わない 賛辞も 祝福も ましてや奇跡なんて望まない ≫
≪ 私は神に愛されたいと思わない それを罪だとのたまうならば 喜んで罪業受け取ろう ≫
神などいらぬと二人は謳う。
≪ 僕が歩む人生は 己で決めた路を歩きたいから ≫
≪ 私が歩む人生は 己が切り開くものでありたいゆえに≫
何故なら自分の人生は自分で背負いたいと願うから。
≪ 故に僕が望むのは信念を貫き通せる強い心 それを手に僕は人生を歩みたい ≫
≪ 故に私が望むのは全てを抱擁できる強き心 そして私はまっさらな地平を踏みしめる ≫
僕に、私に、干渉するな。ほうっておけ。
神などに自分の人生を好き勝手されるのは我慢ならない。
≪ 僕が祈るのは神じゃない ねえ 愛しい人よ抱きしめて ≫
≪ 私が祈るのは神ではない ただ 愛する者に幸あれと ≫
祈りとは願い、なにも神だけに送るものでは無い。
だから祈り、願うのだ。
≪ それを邪魔するものが たとえ神であっても斬り捨てよう ≫
≪ それを邪魔するものは たとえ神であっても斬って捨てる ≫
未来を切り開くために。
≪≪ 序章――― ≫≫
だから亡霊よ。過去しか見えない悲しき者よ。
来世へと旅立つがいい。
≪ 神殺しの神剣 ≫
≪ 神殺しの抱擁 ≫
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