城砦都市の攻防 九
近衛騎士団と黒狼騎士団が攻勢に出ることによって、不死者の軍勢はその数を減らしていったが、帝国軍と不死者軍とでは十万の戦力差があるため城砦都市に攻め込んでくる不死者達の数が減ることは無かった。
ライアンが指揮を執ることによって大きな被害が出るようなことは無かったが、近衛騎士団と黒狼騎士団という主力が抜けた帝国は徐々に城壁上へと不死者達の侵入を許している。
「拠点を作らせるな! 出来てしまったものは魔術師部隊を送って殲滅しろ!」
「はっ!」
城壁全ての指揮を西門で執るライアンは、城壁上を見渡して不備がないかを確認する。自分がいる西門以外の北、南、東の各門には将軍を一人ずつ配置しているため不備は無いと思っているが、攻めてくる敵方の数はこちらの倍であるため油断は出来ない。他にも自分の利き手である右手を斬り落とした首無しの騎士と化したオーダインの目撃情報が入ってこないのもライアンを不安にさせた。
城砦都市の外に打って出た三軍は順調に不死者の軍勢の数を減らしている。帝国を代表する武人であるクラウス、フォギィア、オルテガの三人に率いられるそれらに関してはライアンはそれほど心配はしていなかった。
各門を守る将軍にしても歴戦の猛者達ではあるのだが、前者の三人と比べると若干見劣りする。実際剣を交えたライアンの意見を言わせて貰えば将軍達では首無しの騎士と化したオーダインの相手は荷が重いと感じていた。それは片手を失った自分も当て嵌まるのだが。
そして悪い予感は当たるもので―――
「ライアン様!! 東門に首無しの騎士出現!! エンリ将軍から援軍要請です!!」
「よりによって一番手薄な東門か!? ベルンハイムここは任せる! ディースは外に出た三軍に首無しの騎士出現の旨を伝えよ!!」
「ご武運を!!」
「はっ!」
「…… 間に合ってくれよ」
ライアンは長年使い続けた柄まで銀鋼製の槍を握り締めると東門へと走る。その顔には焦りの色が浮かんでいた。
エルディン・ジャッド・エンリは目の前の光景に唇を噛んでいた。
帝国の中でも武門の名門と評されるエンリ家に産まれ、【戦王】と呼ばれる現皇帝クラウス・ヴォルフガング・ソウ・アドラーに認められ自分も将軍の地位に就き、それに驕ることなく今日まで研鑽を積み続けた武技が、目の前の存在には通用せず、加勢しようとした部下達はそれが放った目にも止まらぬ剛剣に首を刎ねられ城壁上に転がっている。
「おのれ!!」
一撃必殺を旨とする自分の上段からの振り落としを、目の前に立つ首の無い首無しの騎士へと裂帛の気合を籠めて振り落とす、自分でも最上と信じるその一撃は首無しの騎士が何気なく斬り上げた一撃によって軽く打ち払われた。
その衝撃を受けて手が痺れ剣が吹き飛ばされ、エルディンもそれを追うように城壁を転がっていく。
「エンリ将軍!?」
「おのれ化け物!!」
また部下達がデュラハンへと斬りかかり、次の瞬間当然のように石畳の床に兵達の首が転がる。それを止める力の無い自分に腹が立つ。
「神よ! 今だけでも私に力を!!」
足元に転がる部下の剣を掴むとエルディンは首無しの騎士へと先程と同じ上段からの一撃を打ち込む、それは神に祈りが通じたのか生涯最高といえる一撃であり、首無しの騎士の肩へと吸い込まれ心臓へと到る傷を首無しの騎士の身体に刻む。
その光景にエルディンの顔に希望の光が差し込む。
「やった―――」
そう口に出したエルディンの言葉は最後まで告げられることは無かった。
首無しの騎士の横薙ぎの一撃によりエルディンは胸から下を吹き飛ばされ、空中にぶちまけられた臓物は放物線を描いて周囲のエルディンの部下達に降りかかる。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「エ、エンリ将軍!?」
「オゲェエエエエエエエエエエエエエエエエ」
「クソ!! クソッタレがぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ」
悲鳴を上げる者、信じられないと放心する者、あまりの凄惨さに嘔吐する者、怒りのままに首無しの騎士に斬りかかる者、それら全ての者はライアンが東門に辿り着くまで生き残ることは無かった。
東門に着いたライアンが見たものは、城壁上を埋め尽くす死体の上に立つ首無しの騎士の姿だった。返り血を存分に浴びたその姿は不死者でありながら強固な意志を持ち、左手に持たれた頭から覗く瞳は怪しく輝いている。
「…… オーダイン」
「………………」
「悪いが儂ではお前を倒せん、時間を稼がせてもらうぞ」
そう言ってライアンは槍をオーデインに向かって構える。
それに応えるようにオーダインも剣を構えた。
まず動いたのはオーダインだった。その巨躯からは想像も出来ないほど早く踏み込むとライアンに向かって突き進む。
それをライアンは槍の一撃を突き込むことによって止める。片腕になったことで連撃を繰り出すことは出来なくなったが、その一撃は石を砕き鉄板に穴を穿つ威力を持っている。
ライアンを脅威と感じたのかオーダインは距離を取るとライアンと睨み合う、時間を稼ぎたいライアンとしては嬉しいことだった。
そしてライアンが待ち望んだものが到着する。城壁下から体が浮き上がるような突風が空に向けて昇ったかと思うと、まさにそれに乗って遠く離れた戦地から城壁上へと跳んできたフォギィアが落下するままにオーダインに両手で持った剣を振り下ろす。
オーダインはそれを迎え撃つように剣を振り上げた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
火花を上げて二人の剣がぶつかる。その瞬間周囲に衝撃が波のように広がり周囲にいる者達の髪や外套を揺らした。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
先に弾かれたのはフォギィアだった。二メートルほど飛ばされながらも危なげ無く着地してライアンを見る。
「お待たせしましたライアン殿」
「下から飛んできおったのか!? 無茶をしよる」
「いえ跳んできました。流石に翼がある訳ではないので」
「儂からしたらどっちも似たようなものだが、なにわともあれ助かった。儂一人では時間稼ぎがやっとでな」
「今の一撃でわかりましたが、私より力が強い上に相性が悪いですね。これと互角に戦えるのは陛下と相性の良いオルテガくらいでしょう」
「それなら二人が来るまで持たせるぞ、こやつはここで倒しておきたい」
「わかりました」
ライアンとフォギィアはオーダインを挟むように立つ、それに対してオーダインはライアンのほうを与し易いととったのかライアンに向かって斬りかかる。
「むっ!!」
それに対してライアンは先程と同じように槍を突き込むが、オーダインは止まることなく槍をその身に受け、そのままライアンに袈裟斬りの一撃を放った。
「ぬおっ!?」
その一撃をライアンは咄嗟に槍を手放して後ろに下がって避ける。追撃しようとするオーダインをフォギィアが背中から斬りかかることで止めるが、振り返りざまに放たれた横薙ぎの一撃がフォギィアの剣を捕らえ、次の瞬間オーダインの足がフォギィアの腹部を蹴り飛ばし後方へと吹き飛ばした。
「ガアッ!? ゴフッ!?」
フォギィアは城壁上を数度転がり転落防止と矢避けのために造られた塀にぶつかり止る。内臓を痛めたのかその口から血を吐き出す。
一瞬の攻防でライアンは武器を失い、フォギィアは重症を負うことになり戦況はお世辞にも良いとはいえなかった。
「不味いのう、これは」
腰の剣を抜きながらライアンは呟く、剣も使えるが槍ほどではなくオーダインに通用するか怪しい、フォギィアのほうを見るとよろめきながらも立ち上がるところだった。
「終ワリカ? ライアン殿」
胸に槍を刺したまま聞くオーダインにライアンとフォギィアの目が見開かれる。
「オーダイン!? 貴様意識が残っておるのか?」
「ならば何故このような無意味なことお……」
「無意味デハナイ、我等ガ求メルハ生者の死カ、魂ノ安息ノミ、我等ハソレシカ求メラレヌ者ヘト変ワッテシマッタ。故ニ、我等ハ止マレヌ!!」
言い終わるとオーダインは未だ回復しないフォギィアに肉迫すると横薙ぎの斬撃を叩き込む。フォギィアはそれを剣の腹で受けるが衝撃を逃がせずに吹き飛ばされる。今度は城壁上では無く二十メートル上空の空中へと、そのまま街へと落下していった。
「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」
数瞬後、屋根瓦が割れる音が聞こえフォギィアが落下したことを告げる。いかに風の精霊魔術の扱いに長けたフォギィアであっても疲弊した状態では城壁上へ戻ることは出来なかったのだ。
「覚悟ハヨロシイカ?」
胸に刺さった銀鋼の槍を抜いて近づいてくるオーダインにライアンは苦笑する。
「良いわけないじゃろう、お前さんも死ぬとき精一杯足掻いたんじゃないのか?」
「…… 確カニ」
「ひ孫の顔を見るまで死ねんのでな!! 足掻かせてもらうぞ!!」
城壁の石畳が槍状に変化してオーダインを襲う、オーダインはそれを後ろに下がって避けるとライアンの槍を大きく振りかぶり、投げた。
銀色の軌跡を描いて槍はライアンの胸へと吸い込まれる。それでも勢いは止まらずライアンを貫いたまま飛んでいき城壁上の塀へとライアンを縫いつけた。
「ゴハァッ!?」
ライアンの口から吐き出された血塊が白い髭を赤く染める。ライアンの脳裏に浮かぶのは数時間前にクラウスに告げた言葉。死ぬなといった自分が死のうとしている現実の皮肉に自然と苦笑が浮かぶ。
「すまん、な、クラウス」
次に浮かぶのは不肖の息子とその妻、そして将来が楽しみである孫の顔。
「カイ、ン」
最愛の孫の名を最後に告げて、ライアンの口が言葉を紡ぐことは二度と無かった。
ライアンさん!?
何故だ!?
自分で殺しておいて何言ってるの? と思われるでしょうが殺す気は無かったんです。死亡フラグもへし折ってくれた人だったのに……
次回はいよいよクライマックスです。
終わるかな? くらいに思っていてください、多分終わり……ほにゃらら。
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今回も読んでくださりありがとうございました。




