城砦都市の攻防 八
太陽が空に昇り、不死者達を日光が照らしてその力を削ぎ始めたのを見計らって、城砦都市の北、南、西の城門が同時に開かれ、それぞれの門から三つの部隊が不死者の軍勢に向かって出撃した。
北から出撃したのは、近衛騎士団団長を勤めるフォギィアと彼が率いる黒狼騎士団二万。
フォギィアが振るうのは両刃の直剣、銀鋼製のそれはいける骸骨の堅い骨を容易く粉砕し、生ける死体の身体を一刀両断に切り裂いていく、反対の手には逆三角形盾を着け不死者達の攻撃をものともせずに、身体に風を纏わせ文字通り疾風となって戦場を駆け抜ける。
攻撃範囲が狭いのを補うために使うのは唯一使える風の精霊魔術を特化したもの、フォギィアの周囲にはいくつもの竜巻が生まれ不死者達を空高く巻き上げ、地面に叩きつけ、竜巻の中で衝突させて屠っていく、フォギィアが通った後には無残にひしゃげた不死者達の骸が転がっていく。
南から出撃したのは、黒狼騎士団団長を勤めるオルテガと彼が率いる黒狼騎士団二万。
オルテガが両手で振るう二本の曲刀には炎が纏わりつき、それは剣が振るわれるたびに鞭のように伸びて不死者達を切断し焼いていく、炎が弱点である不死者に対してオルテガの戦闘スタイルは天敵といえた。
それに拍車をかけるようにオルテガが操る炎の精霊魔術で展開された数十頭の狼の群れが不死者達に襲い掛かる。オルテガによって完璧に制御された狼達は一つの群れとなって連携を取り、次々と不死者を牙で噛み砕き、その炎の身体で焼いていく、彼等が駆け抜けた後に残るのは消し炭と化した不死者の骸が散乱しているのみ。
もっとも不死者の軍勢が多い西門から出撃したのは、皇帝クラウスが率いる近衛騎士団一万と黒狼騎士団一万、その中にはカラとレオンの姿もあった。
真っ先に突っ込んだクラウスの周囲を囲む不死者達は次の瞬間、クラウスが振るう戦斧に蹴散らされる。それは帝国でも一振りしかない神鉄製の戦斧。
燃えるような色をしたそれから繰り出される一撃一撃が必殺となって不死者達を蹂躙する。
突けばそこを中心に消し飛び、斬れば数体の不死者の身体が分断され、叩けばその衝撃に相手が爆散した。そのままクラウスは死を告げる暴風となって不死者の軍勢の中を縦横無尽に暴れまわる。
そして【戦王】はそれだけでは終わらない。全ての系統の精霊魔術を上級で扱えるクラウスは惜しげも無くその暴威を展開する。
膨大な炎が戦場を舐める。大量の水が全てのものを押し流す。数多の石槍が地面から出現し不死者達を串刺しにする。激しい風塊が戦場に叩きつけられ、その場にいた者達を押しつぶす。
イメージも何も無い、ただ純粋な質量だけを重視したクラウスの精霊魔術は、普通の者が行なったならば大した効果は発揮出来ない展開のしかただが、カラとレオンに匹敵する魂量がそれを災害級の御業として昇華させていた。
そんなクラウスとは少し離れた場所で背中合わせとなり、同じように不死者の軍勢を蹂躙しながらカラとレオンはクラウスの戦い振りを観察していた。
「出鱈目だねぇ、転生者でもない陛下がなんで僕達と同格の魂量を持ってるのさ」
「それに関しては心当たりがある。気付いているか? 私もお前も、僅かだが魂量の総量が増えている」
「え? 本当だ…… なんで?」
「おそらく昨日の戦いで葬った不死者達から微量だが魂の譲渡、または収奪が起こっている。多分だが、これは不死者だけでなく魂持つ者全てに適応されるんだろう」
「つまり、魂持つ者を葬れば葬るだけ魂量が増えるってことかい?」
「そうだ」
レオンの推測を聞いたことによって、カラはクラウスの強さが納得出来た。数十年戦争をし続け魂持つ者を屠り続けることによって、クラウスはカラ、そしてレオンと同格の魂量を持つに到ったのだとすれば説明がつくのである。
そう考えるとレオンがテスタロッテに聞いた、今回の不死者の軍勢を使っての術者の強化というのも、戦闘を省略した魂の強化方法と考えれば辻褄があう。
「そうと分かれば」
「精々稼ぐとしようか!!」
二人は不死者の軍勢へと躍りかかる。強く、更に強くなるために。
そんなカラとレオンの心境とは別に戦況は動いていく、最初に変化があったのは南を攻めるオルテガの陣営。
それは味方であるはずの不死者達を襲いながら現れた。
百足のように蠢く身体は不死者達の腐肉や骨が固まって出来ており、足となるのは生ける死体の腕やいける骸骨の足だ。頭となる部分に納まるのは王冠を被った亡者であり、身につける装飾品からアセリア国王ピエトロ・アルド・シダ・アセリアだと予想がつく。
不死者の中でも放っておけば無限に増殖するとされる危険種である不死の百足である。
「また哀れな姿になられたものだ」
「そんなこと言ってる場合ではないと思いますが?」
隣で顔を引きつらせる副官に頷きながらも様子を窺っていると、不死の百足は周囲の生ける死体やいける骸骨に襲いかかり自分の身体へと吸収していく。
「団長。あれ止めたほうがいいのでは?」
「そうだな」
見る見るうちに、その身体が元の倍の大きさになった不死の百足は周囲に不死者がいなくなると遠巻きに警戒する黒狼騎士団に襲いかかる。
帝国を代表する騎士団である黒狼騎士団の騎士達である。生ける死体やいける骸骨のように簡単にやられはしないが、その部厚い身体の前にこちらの攻撃もほとんど効果がない。
「皆下がれ! 私がやる」
オルテガは一人不死の百足の前に立つと騎士達に下がるように告げる。それを見て不死の百足の頭に納まる四肢の無いピエトロが口を開いた。
「余ノ手ハドコダ? 余ノ足ハドコダ? 貴様の手ヲヨコセ! 足ヲヨコセ! 貴様ノ心臓ヲヨコセェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」
叫びながら頭から突っ込んでくる不死の百足を逆に前進することで避けると、オルテガはそのまま炎を纏った双剣を不死の百足の腹に突き立てたまま走り抜ける。不死の百足の身体の横に並ぶ何本もの手足が切り裂かれ、地面に転がった。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!? セッカク集メタトイウノニ!! 許サン許サン許サン!!」
不死の百足は身体に突き立っていた剣や槍を数十本はある手に持つとオルテガへと数十本ある足を忙しなく動かして襲いかかる。
それを迎え撃つように炎の狼の群れが不死の百足に向かって牙を剥いた。
不死の百足が繰り出す剣や槍は炎で出来た狼達を素通りして何の効果も発揮せず、武器を持った手の根元から噛み千切られていく、そのまま狼の群れは螺旋を描いていき最後には纏まって天へと昇る炎の竜巻へと姿を変える。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!? 嫌ダ!! 余ハ余ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
炎の竜巻に飲み込まれた不死の百足は、その身を引き千切られながら炎に焼かれ、どんどんその巨体を削られていき最後には本体であるピエトロだけとなり、そして最後に残ったピエトロも断末魔の悲鳴を上げて燃え尽きると地面にアセリア国王の証である王冠が乾いた音を立てて転がる。
オルテガの勝利に黒狼騎士団の者達は雄叫びを上げオルテガを称えると、まだ残る不死者の軍勢へと再び襲いかかるのだった。
もう出てこないだろうと思ったアセリア王登場。見事なほどやられ役を演じて散りました。
レベル制度という訳では無いですが、成長システム導入しました。
城砦都市の攻防もう少し続きそうです。
もう少しお付き合いください。
意見・感想お待ちしています。
今回も読んでくださりありがとうございました。




