城砦都市の攻防 七
フォギィアとライアンの危惧した通り、不死者の軍勢は朝日が顔を出しても攻勢を緩めることは無かった。
徹夜で城壁上を守っていた精霊魔術師達は疲労で気絶する者が出始めていたが、そんなことはお構い無しに、昨夜と同じように不死者の山が築かれ、城壁上に拠点を造ろうと不死者達の攻撃は続くいている。
城砦都市を守る騎士や兵士達が奮闘する中クラウスはフォギィアとオルテガ、そしてライアンを集めていた。
「なんじゃいクラウス。この忙しい時に呼び出しおって」
「まあ聞けよ。今は朝日が昇ったばかりで不死者共の力が落ちてるから防げてるが、夜になって奴等が力を増したら今のままじゃもたないのはわかるだろう?」
「言われんでもわかっとるわ!」
「下級の不死者であるため策など弄してこないと思っていましたが、昨夜とそして今も奴等は城壁上へ足がかりを造ろうと自分達を積み上げて攻め立ててきています。これのせいで交代で休ませるはずだった上級精霊魔術師の休息が無くなったのが痛いですね」
「何か策があるのですか陛下?」
フォギィアの問いかけにクラウスは苦い顔になって頭をかくと苦笑しながら言った。
「策ってほどのものじゃないがな、昨夜の攻防で不死者の数は三万は減らしたはずだ、残りは多く見積もって二十二万、これを打って出て夜までに出来る限り数を減らす」
「そうなると犠牲が出ると思いますが」
「多少の犠牲はこうなっては仕方ない、夜までこのままだと全滅の危険すら出てくる」
「確かに、考えない言でした。申し訳ありません」
頭を下げて謝罪するオルテガにクラウスは手を振って気にしないよう声をかける。
「いい、犠牲を出したく無いと言ったのは俺だしな」
「それで、この四人で打って出るのかクラウス?」
ライアンの問いかけにクラウスは首を振って答えた。
「いや、北をフォギィア、南をオルテガ、西を俺が攻める。御大には他の将軍達と共に防衛を任せたい頼めるか?」
「なんじゃ、儂は留守番か?」
「ライアン殿、片腕を無くされている一日も経っていないのです、無理はいけません」
「そうです、本当なら治療に専念してほしいところなのですから」
「わかったわかった、流石にこのざまでは偉そうなことは言えん、守りは儂に任せて精々暴れてこい」
「「 はっ! 」」
「では連れて行く兵の選抜はお前達に任せる頼んだぞ、それから解ってると思うが不死者相手に騎馬はあまり効果が無い、歩兵を中心に重装備で固めていけ」
「心得ています」
「お任せ下さい」
クラウスの言葉にフォギィアとオルテガの二人は敬礼すると準備のために去っていき、クラウスとライアンの二人が残された。
「それで? 今回もレオン達を連れて行くつもりかクラウス」
「ん? ああ、レオンの体調を確認してみてだがな。俺の隊に入れて連れて行こうと思っている。あれだけ動ける奴を遊ばせておく余裕は無いからな」
「優秀だからといって無理はさせるんじあないぞ? 何といってもレオンも、その妹もまだ成人もしとらん子供で、将来の帝国に必要な者達だ。それをこんなつまらない戦で無くしてはいかん」
「わかっている。死なせるつもりなどないさ」
「ふん、なら良い」
そう言ってライアンはクラウスに背を向ける。そして振り返らずにポツリと呟いた。
「お前も死ぬんじゃあ無いぞクラウス」
それにクラウスは可笑しそうに口を歪めると腰に差していた剣を半分ほど抜き、勢いよく鞘に戻す、すると剣の鍔と鞘がぶつかり辺りに小気味良い音を響かせた。
「俺を誰だと思ってる御大? こんなつまらん戦で死ぬつもりは無いさ」
クラウスの返礼にライアンはこれも振り返らずに残った片腕を上げて去っていった。
ライアンを見送るとクラウスは次の目的地を目指す、喧騒が響く城壁から離れ城塞都市の中心部にある今は軍の者達で埋め尽くされた宿泊施設が固まった一角だ。
現在ここにいるのは負傷兵がほとんどだがクラウスを見つけると傷も気にせずに立ち上がる。それを手を上げて止めさせると、クラウスは一軒の宿に入ると辺りを見渡す、三階建ての建物は吹き抜けになっており、一階は食事や酒を出す食堂として使うのか丸机が並んでいる。端に造られた階段からは半円型に伸びる廊下は二階と三階にそれぞれあり、普段は旅人を泊める部屋の扉が並んでいる。
クラウスは二階の一室の扉の前に立つと三回ノックした。すぐに年端のいかない少女の声で返事が返され扉が開かれた。
「どちら様ですか?」
扉を少し開け、隙間から覗いてこちらを確認する黒髪の少女の青い瞳と目があった。平時ならば無作法を咎めるところだが、現在は戦時中であるためこちらのほうが正解だ。扉を開いただけ礼を尽くしたといえるだろう、そんな風に感心していると少女の瞳が見開かれ、それと同時に扉も開かれた。
「し、失礼しました陛下!!」
腰を直角に折って謝罪する少女に許しの言葉に頭をクシャクシャと撫でてから部屋に入ると、ベッドの横に置かれた椅子に座っていた銀髪の少女とベッドに横になっていた金髪の少年が立ち上がろうとしたので手で制する。
「身体の調子はどうだレオン?」
「これは陛下。寝ている間に治癒を施してもらったおかげで問題ありません。ご迷惑をおかけしました」
「それに関しては不問にすると言っただろう? 今後無茶をしなきゃ良い、あまり心配させるな、なぁカラ?」
突然話を振られたカラだったが、すぐに意味を覚ると同意の頷きを返す。
「本当です」
「申し訳ありません」
「ああ、謝るのはそれで最後にしておけ。それで今から三軍で攻勢に出る予定なんだが二人共出られるか?」
クラウスの問いに二人は顔を見合わせた後頷く。
「昨夜のように空を飛ぶことは出来ませんが、戦地を駆けることは出来ます」
「そうか、ならすぐ用意しろ。お前達は俺の部隊に入ってもらう、今回の目的は敵の数を減らすことだ、そのつもりで派手にいくぞ」
「そのことで陛下、お耳に入れておきたいことが」
「なんだ?」
部屋を出て行こうとしたいたクラウスは振り返るとレオンを見る。レオンの口から出たのは意外な名前だった。
「【色欲】のテスタロッテという淫魔に夢の中で聞いた話なので信じていただけるかわかりませんが―――」
「まてレオン? 【色欲】だって?」
「知っているのですか?」
意外そうな顔をするレオンにクラウスは頷いた。
「知っているも何も、そいつはシードラ共和国の更に南にある国ヒュプテの女王だ。そして世界で確認されている神候補とされる魔導師の一人でもある」
「…… そんな大人物には見えませんでしたが?」
「まぁな」
「あったことがあるんですか?」
「まだ俺が皇帝になって間もない頃に夜這いに来た」
クラウスの言葉にカラとレオン、聞き耳をたてていたウルカがずっこける。
「良い女だっただろう? あの胸に、腰、尻。顔は絶世の美姫ときてる。それで? 夢の中とはいえ、筆下ろしはしてもらったのかレオン?」
その言葉にカラは椅子を倒して立ち上がり、ウルカは全神経を耳に集中させた。ニヤニヤと笑いながら答えを待つクラウスに眉間を押さえながらレオンは答える。
「いえ、そういうことはありませんでした」
「馬鹿野郎!? お前なんて勿体無いことを!!」
「十一の子供に何を期待してるんですか?」
「――― まぁ確かにそうだな」
「今の反応を見るに、陛下は……」
「まぁ、俺は基本来る者は拒まんからな」
恥ずかしげも無く肯定するクラウスにカラから蔑んだ視線が送られるが、クラウスは気付かずに話を続けていった。
「それで、何を聞いたんだ?」
「それは―――― 」
レオンはアスタロッテに聞いた内容を説明する。それには自分の見解も付け加えられていた。
「つまり不死者の軍勢の核がオーダインだと言うんだな?」
「オーダイン?」
「お前の言う首無しの騎士の元になった王国の騎士団長の名だ」
「なるほど、それであればそうです」
「わかった。試す価値はありそうだ。全軍に遭遇したら倒すように伝えておこう、出陣は二時間後だ。しっかり飯食っておけよ」
そう言ってクラウスは部屋を出て行った。
それから二時間後。
今回の戦で最大規模の戦いが開始されたのだった。
遅くなりました。
残業、残業、もう嫌です。
意見、感想ありがとうございます。
今回も読んでくださりありがとうございました。




