【色欲】の淫魔
二人の男女が抱き合いベッドの上で絡み合っていた。
そう認識したのは、抱き合う二人のうち男のほうが自分だったからだ。
肩まで伸ばされた黒髪が頬に触れる。女の肌に這わせる手は鍛え抜かれ、それに続く肉体が万能感を伝えてくる懐かしい感覚。
かって魔王と呼ばれていたころの自分の身体だった。
組み敷く女は銀髪の少女、といっても幼いわけではなく、蕾から花へと、少女から大人の女性へと到るちょうど中間点といった年齢だ、十六~十八といったところだろうか、顔立ちも見覚えがあるものでカラが成長すればこうなるかもしれなかい、といった姿だ。
そのありえない光景にこれは夢だという結論に到る。夢というのは己の願望が現実になるというが、これが自分の願望なのか、などと思う訳も無く。
「それで貴様は誰だ?」
「カハッ!?」
自分が組み敷く少女の首を握り締めながらレオンは聞いた。
「や、止めて!?」
自分の良く知る声で上がる悲鳴に自然と嫌悪感が全身を包む、それを止めるために首にかける力を更に強めると少女の顔が苦痛に歪んだ。
「アガッ!?」
「芝居は止めろ、今のお前は確かに私の知る者と良く似ているが眼が違う。私の知るアレの眼はお前のように淫靡な光は宿していない、アレを侮辱するのは許さん」
自分を睨みつけるレオンに、演技は無駄と覚ったのか少女の顔に人を小馬鹿にしたような笑みが広がる。
「アハ、アハハハハハハハハハハ。失礼、少し楽しみたかったのですけれど、相手が悪かったようですわね、謝罪致しますわ。貴方の好みに合わせたつもりでしたけれど、それが逆効果になるだなんて…… 貴方を想う女性は大変ですわね」
突然笑い出した少女の髪が肌が変わっていく、銀糸を束ねたようだった銀髪は濡れたように光沢を放つ艶のある黒髪に、新雪のように白かった肌は男を誘惑するような褐色の肌へと変わっていった。
少女であった顔立ちも彫りの深い女性の顔へと変わり、その口元には未だ面白いものを見つけた、というように笑みの形に歪んでいる。長いまつげにおおわれた大きな瞳は様々な感情が渦巻くようにテラテラと赤く輝いていた。
体型も細身の体から肉感的な男好きのする身体へと変化し、その裸身をレオンの前に惜しげもなく晒す。その裸身の背中には蝙蝠のような翼が生えていた。
「それで、私になんの用だ?見たところ淫魔のようだが」
レオンはかって愛用した魔槍を手にすると女の首元に突きつける。夢の中であるため自分が想像した物が瞬時に現れるのはなかなか便利だ。
「特にこれといって用はありませんわ、しいて言えば暇潰しといったところでしょうか。今からでもお相手いただけません?」
そう言うと自分に突きつけられた槍に女は舌先を這わせる。その光景はどこまでも淫靡だった。
そんな隙だらけの女にもレオンは警戒を緩めない、何故なら女が内包する魂の総量が自分やカラと同等か上回ると感じたからである。
自分でいうのもなんだが半神となり、その大半を失った現在でも自分達が内包する魂量は異常だ。そんな自分達と同等かそれを上回る魂量を持つ目の前の淫魔を警戒するなというほうが無理である。
本来淫魔というのは男の夢に忍び込んだり、現実で情事へと誘い精を得ようとする下級悪魔であり精神を強く持った騎士であればギリギリ勝てるといった強さしか持たない存在のはずなのだ。
「貴様は何者だ?」
「そういえば名乗りがまだでしたわね。私は【色欲】のアスタロッテ、ご推察通り淫魔ですわ。気軽にロッテと呼んでくださってもかまいません」
「そうかアスタロッテ、それで貴様は何故私の夢の中にいる」
「私が名乗りましたのに、貴方が名乗らないのは礼儀に反するのではありません?」
そう返しながらも、アスタロッテと名乗った女の口元には余裕の笑みが離れない、それに苛立ちながらもレオンは現在の名を名乗った。
「レオンハルト・アルバ・ミスラだ。レオンで良い」
「それではレオン、貴方の質問に答えると致しましょう」
レオンが名乗るとアスタロッテは満足したように微笑む。そして瞬時にその身に服を纏うと、しなをつくってレオンに片目を瞑って見せる。
またその身に纏った服は意匠だけ見れば貴族の秘書官が着るような色気の無い物なのだか、アスタロッテの肉感的な身体を包むには明らかに丈が足りず、大きな胸は谷間どころか六割ほどがこぼれるように服からはみ出ており、括れた腰は外気にさらされへそが丸見えで、安産型のお尻を包む丈の短いスカートはピッチリと張り付きお尻の形を強調していた。
全裸であった時よりも、男を刺激するのではないかというその姿に、あえてレオンは突っ込まずにアスタロッテの次の言葉を待つ。
「この姿に欲情しないとは不能なんですのレオン?」
「せ・つ・め・い!!」
一向に話が進まないことにそろそろ我慢するのが面倒になってきたレオンは、最後通告とばかりにアスタロッテの襟を掴んで先を促す、その拍子にアスタロッテの胸が服からこぼれ出て乳房の先の突起に目がいくが気にしていない風を装う。
「興味があるなら遠慮なさらなくて良いんですのよ?」
しっかり看破されていたが。
「だから話が一向に進まんだろうが!!」
話を逸らしたいという訳ではなく、ただ情事に移行したい体を崩さないアスタロッテに暫し説教すると渋々といった態度を隠しもせずにアスタロッテは説明を始めた。
「今貴方がいる城砦都市、というか不死者の軍勢なのですが。私のような存在、この世界で力持つ者達の感心を集めておりますの」
「それは貴様のような者がこの戦に介入してくるということか?」
「今のところそれはありませんわね」
自分の問いに首を振って否定するアスタロッテにレオンは安堵の息を吐く。不死者の軍勢だけでも手を焼いているのだ。それ以外にこんな規格外の化け物達に介入されては収拾がつかなくなる。
「私も見物するだけのつもりでしたが、将来有望そうな少年が目に留まりましたので少し味見しようと夢にお邪魔しましたら、このような美丈夫が出てきて嬉しい誤算という現状です、さっ説明も終わりましたし犯りましょうか」
「そんな約束をした覚えはないわ! それより何故不死者の軍勢がお前達のような者の感心を得る? そこのところを詳しく教えろ」
「それを教えましたら相手してくださいます?」
アスタロッテに得物を狙う獣の眼で睨まれ、レオンは内心冷や汗を流すが必要な情報を得るために頷いた。
「…… 考えはしよう」
「約束ですわよ!!」
言質は獲ったとばかりにアスタロッテは語り始める。それはレオンにとっては耳に痛い内容だった。
「あの不死者の軍勢は生け贄なのです」
「生け贄? 何に捧げる生け贄なんだ?」
「本来はあの軍勢を召喚した術師に対するものですわね、不死者の軍勢を召喚した邪法は本来ならば術者本人も不死者化しており不死の魔術師くらいの上位種にはなっていないと負荷に耐えられません」
「本来の邪法の目的は?」
「術者の強化。不死者達の魂を吸収して自身を強化するのが目的ですわ。流石にこれほどの規模のものは過去にも例はないでしょうけれど、成功か失敗か以前に手法が間違っているのですからお粗末としか言いようがありませんわね」
アスタロッテの説明を聞き終わったレオンは何かを思い出すように目を閉じる。
思い出すのは前世で神となるために自分が使った術式だ。あれも手法は違うが目的は一緒だった。必要なことだったからといって自分が行なったことが正当化される訳ではないのだ。
巡り巡って自分の行いが自分や周囲の者達に返ってきているように感じられた。
「…… そうか」
「それからレオンに良いことを教えてあげましょう。不死者の軍勢を吸収するためには軍勢の核となる個体を倒す必要があります。つまりその個体さえ倒せば不死者の軍勢を倒せるということですわ」
その言葉にレオンの頭に紅い甲冑を纏った首無しの騎士が思い浮かんだ。他の不死者達とは一線を画すその実力は核となる個体であると告げている。
「なるほどな―――」
「さあレオン!! 私の知ることは全て教えましたわ!! いざ快楽の海で二人、心行くまで溺れましょう!!」
考え込んでいたレオンは説明が終わるなり突進してきたアスタロッテに押し倒され、馬乗りにされる。今日はよく馬乗りされる日である。
荒い息を吐きながら服をはだけさせるアスタロッテを眺めながら、レオンは先程から聞こえていた声に導かれるように意識を浮上させていった。
「あ、あら!? ちょっ、レオン!?」
「考えたがやはり今回は無理だ、すまんなアスタロッテ」
レオンが夢から覚めることによって、レオンの夢に入り込んでいたアスタロッテも夢から追い出されるように、その存在が薄れていく。
アスタロッテは楽しみにしていたプレゼントを取り上げられた子供のように涙を浮かべる。
「そ、そんなぁああああああああああああああああああ―――」
アスタロッテの雄叫びを聞きながらレオンは目を覚ます。
それに気付いたのか枕元の椅子に腰掛けていたカラがレオンの顔を覗き込んで笑顔を浮かべた。
「おはようレオン」
「ああ、おはようカラ」
後々出てくる予定だったアスタロッテさんの登場です。
淫魔ということでお色気担当です。今回の衣装は女教師風にさせていただきました。
次回は城砦都市の攻防に戻ります、そろそろ終わらせたいと思うので次回はいよいよクライマックスか? の予定。は未定。
今回も読んでくださりありがとうございました。
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