城砦都市の攻防 六
「レオン!? レオン!!」
気を失って膝から崩れ落ちたレオンを全身を使って支えながらカラはレオンの名前を呼び続ける。
「落ち着け、気を失っただけだ。近場の不死者共は殲滅した。一旦城壁内にもどるぞ」
いつの間にか周囲の不死者達を一掃したクラウスとオルテガが戻ってきていた。城門周辺には時間稼ぎのための石壁が土の精霊魔術によって展開されている。
クラウスは気を失ったレオンを小脇に抱えて歩き始める。カラとオルテガもその後ろに従った。
城門前でクラウスが合図すると跳ね橋が下ろされ始める。
「さて、小休止だ。こいつも休ませないといかんしな。カラお前もだ」
「僕はまだやれます」
「それは頼もしいがな。まだ先は長い休めるうちに休むのも大事なことだ。わかったな?」
「うっ、わかりました」
「良い子だ」
クラウスは大人しく頷くカラの頭を撫でる。そうしていると跳ね橋が下りたので四人は城砦都市へと戻った。
城砦都市に戻るとクラウス達を近衛騎士団長であるフォギィアが出迎えた。
「お疲れ様でした陛下」
「ああ、中で何か変わったことは?」
「特にありません。軍配置ですが、西方辺境軍の負傷者の治療は神殿に任せ、他の者達は東の城壁と街中の守備を任せるように手配しました。指揮はライアン殿に執って頂きます。黒狼騎士団と将軍方の軍勢には北と南の城壁へ分かれてもらい、西は我等近衛騎士団が受け持つように配置しました。黒狼騎士団はオルテガ殿の副官のお二方に近衛騎士団は私が指揮を執ります。それでよろしいですか?」
「問題ない、では俺とオルテガ、後はこの二人で遊撃隊として打って出る。お前達は守備に徹して損害を最小限に不死者共の数を削っていけ」
「はっ」
「俺達は暫し休む。任せたぞフォギィア」
「お任せ下さい」
フォギィアは一礼すると軍の指揮を執るため、去っていった。
「さて、聞いたとおりだ。カラお前達も休め、従者に迎えにくるように伝えてある。オルテガお前には話がある、少し付き合え」
「わかりました」
そう言ってクラウスとオルテガも去っていく、それを待っていたようにハルとウルカがカラに駆け寄ってきた。
「カラお嬢様! レオン様もご無事で良かった」
感極まったようにウルカはカラに抱きつき、ハルは気絶したままのレオンに駆け寄ると肩を貸して立ち上がらせる。
「すまないウルカ。手伝ってくれ、レオン様を休めるところに移動しないと」
「僕が―――」
「駄目です! カラお嬢様もお疲れでしょうから、レオン様は私達で運びます」
「わ、わかったよ」
ウルカの剣幕にカラは渋々頷くと、カラ達は自分達に用意された部屋へと移動すると備え付けられたベッドにレオンを寝かせると一息ついた。
「お茶を淹れますねカラお嬢様」
「うん、ありがとう」
レオンの枕元の椅子に座ったカラにウルカは淹れたての紅茶を手渡す、紅茶の香りに昂っていた感情が落ち着いたのか、身体が重くなるような疲労感がカラを襲い、椅子の背もたれにその身を預ける。思っていた以上に疲れているようだった。
紅茶を口に含むと爽やかな甘い香りと、林檎の甘みを舌に感じた。甘味を得たことで身が喜ぶように活性化する。頭もスッキリして疲労が若干薄れるのがわかる。
「うん、美味しいね。これは林檎のジャムを入れたのかな?」
「ええ、そうです。疲れた時は甘い物が欲しいかと思いまして。簡単な焼き菓子も用意しました。。流石に焼き立てとはいきませんが」
そういってウルカは紙の包みに包まれたクッキーを取り出した。乾燥果物を練りこんだもので口に入れると果物の香りと甘みが口に広がり頬が緩む。
カラが落ち着いたのを確認したウルカはカラの正面に座ると厳しい顔になる。
「大丈夫なのですかカラお嬢様?」
真剣に自分を心配するウルカにカラは苦笑しながら頷く。
「大丈夫だよウルカ―――」
「敵襲!! 敵襲だぁあああああ!!」
カラがウルカを安心させようと口を開いたのと、敵襲を知らせる兵士達の叫び声と、敵襲を知らせる鐘の音が街中に響いたのは同時だった。
クラウスから防衛を任せられたフォギィアは、城壁に立ちながら眼下に広がる光景を見つめていた。
眼下に広がるのは不死者達が堀を埋め尽くし、城壁へその手が削れるのも構わずに打ちつけ、ひっかいて破壊しようとする光景だ。
しかし城砦都市といわれる都市の城壁である。そう簡単に壊される物では無いのだ。心配なのは各城壁に一戸ずつある城門だが、上級精霊魔術師を一人ずつつけて守らせているため簡単には突破されないだろう。
生ける死体やいける骸骨といった下級の不死者である彼等は生前よりも知性が劣るため、梯子や櫓など攻城兵器を使ってくる心配はない、こちらからの攻撃が一方的に不死者を減らす攻防が展開されている。
順調すぎる戦場に若干気が緩みそうになるが、そんな心を叱咤して戦場を睨みつける。何が起こってもおかしくないのが戦場であると長年の経験で知っていたため、次に起こった不死者達の行動に対処することが出来たといえた。
「団長、あれを!?」
隣で周囲を警戒していた騎士が叫んだのを合図に目を向けると、その光景が目に入った。それは―――
「不死者でできた階段?」
不死者達が一箇所に固まり城壁にへばりつき、その上にどんどん不死者達が山積みになっていき、城壁上を目指していた。下方の不死者達はその重みに潰れていくがそんなことはお構いなしとばかりに不死者達は殺到し、階段はその高さを増していく。
「焼き払え!!」
フォギィアの命令が聞こえたからか、城壁上の上級精霊魔術師から中級、下級の者達にいたる全ての者が展開した火の精霊魔術で眼前まで迫ってきている不死者の階段を焼いた。
「やったか!?」
未だ消えない炎を纏う、不死者が堆く積み上がった山にフォギィアは目を凝らす、山の表面では炎に包まれた生ける死体やいける骸骨が苦しむように蠢き、山から転がり落ちていく姿が見て取れる。
「大丈夫そうですね」
横で見ていた騎士が安堵の言葉を呟く、フォギィアも頷こうと思ったが視界の隅に映った光景に叫んだ。
「火を放ち続けろ!! まだ終わっていない!!」
フォギィアの目が捉えたのは更に山を築こうとする不死者の群れだった。それは火達磨となった同胞を突き飛ばし、蹴落として城壁上を目指して突き進む。
フォギィアから遅れてそれを確認した者達は恐怖から己を鼓舞するように叫びながら先程と同じように火の精霊魔術を展開し不死者達を焼いていく、しかし不死者達は焼かれた者を押しのけどんどん階段の高さを上げていった。
城壁上では精霊魔術の使いすぎて倒れる者が出始め、不死者の殲滅速度が減っていく。
「団長このままでは……」
「城壁上へ攻め込まれるか、迎撃準備!!」
「し、しかし、あの軍勢が一気に攻めて来たらとても守りきれません!?」
「わかっている。だが、それ以外に手は無い!!」
フォギィアが覚悟を決め、不死者の軍勢を正面から迎え撃とうと決意した時、辺りを地響きが襲った。
「な、なんだ!?」
「見て下さい団長! 不死者達が―――」
騎士の声に不死者の階段を見ると、横から突き出した巨大な石壁にぶつかって横倒しに崩れていくところだった。
「危ないところだったのう、フォギィア」
その光景に目を奪われ、後ろからかけられた声に振り返ると、片腕を失いながらも豪胆に笑うライアンが、後ろに数人の上級精霊魔術師を従えて歩いてくる姿があった。
「ラ、ライアン殿。今のは貴方が?」
「うむ、他の城壁に配置されていた術者を一名ずつ連れてな、あれに関しては数名で当たらねば対処できん、連絡をとりあって対処するとしよう」
「わかりました。幸いそろそろ夜明けです、不死者の攻勢も弱まるでしょう。日中も攻めてくると思いますか?」
「わからん、ただ日中も攻められると疲れを知る生者である儂等には辛い戦になりそうだな」
「…… そうですね」
東の空が白み始めたのを眺めながら、ライアンとフォギィアは先の戦に思いを走らせるのだった。
更新ペースが、更新ペースがぁあああ。
ということで一日遅れの更新です。すいません。
今回も読んでくださりありがとうございました。




