城砦都市の攻防 五
「もう一度飛んでいけば――― !?」
そう思い広げた翼には先程まで無かった裂傷が広がっていた。これでは滑空することもままならない、そしてこの傷をつけたのはおそらく―――
「レオン!!」
こんな優しさはいらない。
「君は勝手だ……」
その間にもレオンへと不死者達は襲い掛かる。生ける死体の手がレオンに伸びる。いける骸骨の槍がレオンに突き込まれる。それらを最小限の動きでかわしながらレオンは舞うように不死者の軍勢の中を駆けている。
しかしそれは空中に張られた綱の上を飛び跳ねるようなものだ、長く続くとは思えない。
「レオン、レオン、レオン」
レオンに対する怒りや、自分の不甲斐無さ、その他諸々の感情で目から涙をボロボロとこぼしながら一度も足を止めないレオンを見続ける。
その万軍に一人で立ち向かう姿は英雄のそれだ、美しく、格好良い。そう思えば思うほど涙が止まらなかった。
「もういいよ、格好なんかつけなくいいから…… 逃げてよレオン」
「それは無理ってもんだ、何故って? 男は格好つける生き物だからな!!」
後ろから突然かけられた声にカラは振り向く、そこには鎧を着込み身の丈ほどもある戦斧を肩に担いだクラウスが立っていた。クラウスはカラの横まで歩くと眼下で繰り広げられる光景を眺める。
「おうおう、格好良いねぇ。だが、それで女を泣かせてるようじゃ二流だ。俺が教育しなおしてやろう、一緒にいくかカラ?」
そう言って階段を下りていくクラウスの背中を、カラは涙をぬぐって追いかけた。
黒鋼の曲刀を振るう、生ける死体の首を斬り飛ばし、いける骸骨の頭を割り砕く、特に狙いを定めずとも曲刀を振れば当たるような不死者の密集地帯を足を止めずにレオンは駆ける。
一蹴でも立ち止まれば、そこに総攻撃が打ち込まれるのは目に見えている。ゆえに不死者達の狙いが定まらないように直線では無く、曲線を描きながら散発的に繰り出される生ける死体の手をいける骸骨の剣や槍を紙一重で避けていく。
このまま戦い続けても勝利することは無いだろう、精霊魔術を使う余力は残っていない、体力も既に底を尽きかけている。精神はギリギリの攻防の連続で鑢をかけられているようにゴリゴリと磨り減っていく、それでも助かる一縷の望みを捨てずに手を、足を動かす。自分はこんなところで死ぬ訳にはいかないのだから。
しかし、現実とは厳しいものだ。
限界にきていた体力が仇となり足を絡ませてレオンは倒れる。
「ぐっ!?」
急いで起き上がろうと顔を上げるが、目の前に飛び込んできたのはいける骸骨が繰り出した槍の穂先だった。
死を感じたからなのか、槍の穂先はゆっくりと近づいてくる。これならば避けられると思ったが自分の身体もゆっくりしか動かない、そしてまさにレオンの右目へと槍が突き込まれる瞬間、完璧に槍の動きが止まった。
極限状態のせいで時間が止まったように感じるのかと思ったが、いつまでたっても突き込まれる気配が無い、流石におかしいと身体を起こしてみると自分に槍を突きつけていたいける骸骨も他の不死者達も一箇所を見つめて止まっていた。
レオンもつられるように同じ方向を向く、そこは城砦都市の城門であり、今まさに跳ね橋が下りてくるところだった。
「馬鹿な…」
不死者の軍勢には篭城で対処すると決まっていたはずであり、跳ね橋を下ろす必要など無いはずである。それなのに何故下りてきているのか、自分を助ける以外には考えられない、それはレオンにとって許しがたいことだった。自分のせいで味方が危機に陥るなどあってはならないことだ。
「馬鹿な真似は止めろ!! すぐに跳ね橋を元に戻せ!!!」
レオンの警告を受けても跳ね橋は止まらない、もう少しで堀に橋がかかるといった瞬間に三つの影が跳ね橋をを駆け上がり戦地へと降り立った。それを確認すると跳ね橋はまた上がっていき、城門はまた堅く閉じられた。
「俺に馬鹿とか、良い度胸だレオン!!!」
真っ先に戦地に降り立ったクラウスが戦斧を旋回させレオンの周りにいた不死者達を蹴散らす、それに紅蓮の炎を纏わせた双剣を振るう黒狼騎士団長オルテガが続いた。
「陛下!?」
「一人で格好つけてるんじないぞレオン。勝手に動いて勝手に危機に陥りやがって、まぁお前達のおかげで兵の収容が滑らかに進んだのは事実だ、今回は不問にする。今度からは一言言ってから行動しろ」
「…… 申し訳ありません」
「陛下、もうそれくらいで良いでしょう。本人も反省しているようですし、それに――― 我々は少し席を外したほうが良いでしょう」
自分の不甲斐無さに、唇を噛み締めて俯くレオンを見かねたのかオルテガが割って入る。クラウスはそれを受けて意地の悪い笑顔をニヤニヤと浮かべて言った。
「女は泣かせた後が大変だ、上手くやれよレオン」
「健闘を祈る」
オルテガもそれに続き、二人は不死者の軍勢へと斬りかかっていった。そしてレオンと最後に戦地に降り立った銀髪の少女が残される。
「カラ」
カラの顔は泣き腫らしたのかまぶたが赤く腫れていた。
「すま―――ぶっ!?」
詫びを入れようとしたレオンの顔を小さな軍靴を履いた両足が蹴り抜く、体力の限界にきていたレオンの身体は面白いほど転がり四回転ほどしてようやく止まる。しかもそれだけでは終わらなかった。カラはレオンに馬乗りになり拳を雨霰と撃ち込む、両腕を固定するという周到さである。
自分が悪かったと途中から甘んじて受けていたレオンだったが、止まりそうに無い拳打に流石にこれは不味いと反撃に出る。
「痛いわ!!」
レオンは上半身を勢い良く起き上げてカラに頭突きを喰らわす、それに怯んだ隙を狙って両腕を解放させ掴みかかってきたカラの両腕を逆に掴む、睨みあう形になり見たカラの目からはまた涙がボロボロと落ちてきていた。
両腕の抵抗が無くなったのを感じたレオンは手を離すとカラを抱きしめた。
「すまなかった」
胸の中でカラが頷く、そしてレオンの背に手を回して抱き返してくる。
「もう、あんなことはしないでよレオン」
「すまない」
ただ謝るレオンにカラが顔を上げた。
「僕強くなるから。今よりもっと強くなるから」
「ああ、そうだな一緒に強くなろう、誰にも負けないくらいに、強く」
「レオン?」
カラと抱き合ったまま、体力の限界にきていたレオンの身体は崩れ落ち、意識は暗闇の中へと落ちていった。
一日飛ばしてしまいました。
今回は何度か書き直してこの形に落ち着きました。
次回は篭城戦の予定。
最近仕事が忙しくなってきたので、更新が遅れるかもしれません。
どうかご容赦ください。
お気に入り登録、評価ありがとうございます。
今回も読んでくださりありがとうございました。




