城砦都市の攻防 四
自分の足が幼く短いことが、これほどもどかしいと思ったのは初めてだ。
速く進まない身体、縮まない距離、迫る足音、全てがこの幼い身体のせいだと思えてくる。
「あと少し……」
何度目かわからないあと少し、を呟く。
既に城壁の上に立つ人影が確認できるほどの距離まで来ていたが、後ろからの圧力も同じように近づいてきていた。
追いつかれれば助からないだろう。数というのは技量の差を覆すのにもっとも単純であり効果的だ。一人の達人なら十人相手に勝利を収めるだろう、百人ならば辛勝できれば良いほうで、千人にもなれば打ち倒される。
その理を当てはめるなら、こちらは幼子ながらも達人級が二人、しかし相手は数が減ったとはいえ未だ二十万越えの疲れを知らぬ不死者の軍勢だ。相対したならば最初の接敵にすら耐えられない。
さらに城門は近づき人影の顔が判別できるまでに近づく、そして気付いた。
「城門が……」
「閉まったか―――」
城砦都市の門は堅く閉まり、堀に架けられた跳ね橋は上げられ外にいる者を拒んでいた。
当然といえば当然だ。
場外に人影は無く、先程西辺境伯軍の撤退が完了したのは確認している。ならば篭城を選択して敵が迫っているとなれば、城門を閉じ跳ね橋を上げるのは至極当たり前のことだ。
今から城門を開き跳ね橋を下ろし、二人が城砦都市に入れたとして、その後すぐそこに迫った不死者の軍勢がそのまま城砦都市に雪崩れ込めば勝てたとしても被害は甚大なものになるだろう、それでは二人が足止めをした意味が無くなるどころか、それ以上に悪い結果を招いたことになる。二人には到底許容できることでは無かった。
「ここまでかねぇ」
「本気で言っているのか?」
「いや、言ってみただけだよ。それでレオン、何か良い案あるかい?」
「一応な。私の羽は壊れたが、お前のはまだ無事だろう?」
「無事だけど、高台からじゃないと空は飛べないでしょ?」
二人の背にある翼は高台から滑空することによって飛行を可能にする物であって低地から空を飛ぶようには出来ていないのだ。
「二人分の風の精霊魔術をぶつけて無理矢理空へ上げる」
「……無茶だけど、それくらいしないと今は切り抜けられないか――― わかった。さっ、レオンしっかり掴まって」
そう言って両手を広げるカラを見てレオンの動きが止まる。
「なぜ両手を広げる?」
「えっ? 抱き合わないと二人で飛べないでしょ」
「それはそうだが……」
「ほら早く!!」
「…… わかった」
渋々といった態度のレオンに対し、カラは嬉しそうに抱きついた。
「嬉しそうだな」
「いやいや、嫌がるレオンが面白くてね」
「ふっ、そうか――― では一、二、三で同時に精霊魔術を展開するぞ」
「わかった」
二人がそうやって準備する間にも不死者の軍勢は近づいて来ており、二人に向かって弓が射掛けられ近くの地面に矢が突き立っていく。
「一」
カラの手がレオンの背中に回される。短い手は背を包むことは出来ずに途中で止まるが、それでも絶対に離さないというように力が込められる。
「二」
二人は精霊魔術の展開を始める。
「三」
カラの羽に向かって二人分の風の精霊魔術で展開された突風がぶつかる。体が浮き上がる浮遊感。それと同時にカラの背に回されていたレオンの手が離された。
「――― すまないな」
「えっ?」
空へと上昇していく感覚と共に視界に映るレオンの顔がどんどん離れていく、その顔には申し訳ないといった風に眉を寄せて、それでも満足したように微笑んでいた。驚きと困惑、次にカラを襲ったのは激しい怒りだった。
「レオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!」
叫ぶカラに向けてレオンが続けて放った突風がぶつかる。それによってカラは強制的に上昇させられ、そのまま城壁上にいた兵士達にぶつかって止まる。
「な、なんだぁ!?」
「えっ? 女の子? どっから飛んできた!?」
驚く兵士達を無視してカラは城壁の上から身を乗り出して下を見る。不死者の軍勢はすぐそこまで来ており、金髪の少年を今まさに飲み込もうとしていた。
ここまでが昨日書き上げたかった内容です。
次回は絶対絶命のレオンがどうやって切り抜けるのか!?
といった感じにらる予定。
今回も読んでくださりありがとうございました。




