城砦都市の攻防 三
「なんだあれは!?」
城壁から飛び立った二つの影に気付いた兵士が見たことも無い光景に驚き叫び声を上げた。その声に反応した者達が同じように頭上を見上げると、丁度兵士達の頭上を大きな羽を広げて通り過ぎる人影が目に映った。
その人影は小柄であり、自分の倍はある蝙蝠の羽に風を受け滑空していく、その姿は子供の頃御伽話に出てくる悪魔を連想させた。
「…… 悪魔だ」
「不死者の次は悪魔かよ!?」
「ちくしょう!? 帝国は呪われてやがる!!」
空を飛ぶ影に兵士達の間から不安の声が広がっていった。それを上空から見下ろしていたカラとレオンは空中で併走しながら苦い顔になる。
「混乱させてるねぇ、流石にこれは予想できなかったよ」
「不味いなこのままだと……」
「ん? 確かに士気が下がるのは不味いけど、このまま不死者の軍勢に攻撃加えれば味方だと判るでしょ」
「いや、そうじゃなくてだな―――!? 高度を上げるぞカラ!!」
「へっ? うわぁあ!?」
突然起こった下からの突風によってカラは悲鳴を上げながらも背の羽を風に乗せて上昇すると、同じく高度を上げていたレオンに文句をぶつけた。
「いきなり突風起こすとか馬鹿じゃないのレオン!? 墜ちたらどうするのさ!?」
「あそこにいたら味方からの矢を受けて蜂の巣だ、見ろ」
レオンの言葉に下を見ると先程までカラとレオンがいた空間に矢の雨が殺到しているところだった。その光景にカラの背筋を冷たいものが走る。
「怖!? 味方に殺されるところだったよ!?」
「やはり敵と判断されたな。早いところこの空域を抜けるぞ、味方に撃墜されるようなことになれば笑い話にもならん」
「酷い冗談だねぇ……」
二人は矢が届かない高さまで高度を上げると、城砦都市へと進む不死者の軍勢の手前まで滑空する。初めての飛行ということもあり思い通りに進まないこともあったが、風の精霊魔法によって風向きを調整することでその問題も解消できるようになっていた。
「さて始めるぞ。まず私が足止めする。カラは適度に間引いていってくれ、流石に二人でこの数を殲滅するのは無理だからな、味方に被害が及ばない程度に足止めしたら戻る」
「わかった」
打ち合わせを済ませた二人は二手に分かれると同時に精霊魔術を展開していく。
カラが展開したのは飛竜の時にも見せた炎龍、それを自身が展開できる限界の三匹を展開すると不死者の軍勢の先頭へと襲いかからせる。炎龍達は生ける死体やいける骸骨をその高温の体に飲み込んで消し炭へと変えていった。
レオンが展開したのは深い堀とネズミ返しになった城壁だった。堀の部分にあった土砂を城壁へと変えたため消費が少なく、不死者の軍勢の全体を覆うように展開することが出来ていた。その堀に前方を進んでいた不死者達は立ち止まるが、後続に押されて次々と落ちていき味方の重みで潰れていく。
不死者達もやられるばかりではなく、弓を持ったいける骸骨が二人に対して矢を射掛けるが高度を上げた二人には届かず地面へと落ちていった。
距離が離れたことによって声が届かなくなったため、カラとレオンは念話によって連携を取りながら不死者の軍勢の周囲を旋回する。
『この調子なら、もう少し数を減らせるかな?』
『そうだな、だが油断はするなよ――― いや待て、妙な奴が出て来た。警戒しろ』
『あの赤い奴かい?』
『そうだ、ライアン様が言っていた首無しの騎士だろう』
二人の視線の先には、深紅の鎧を身に纏った首無しの騎士が立っていた。その手には鉄槍
が握られており、首無しの騎士は大きく振りかぶってその槍を―――
「危ないレオン!?」
レオン目掛けて投擲した。
槍はレオンを打ち落とそうと風を切り裂きながら突き進む、空中という不安定な状態のレオンはそれを避けるために突風を起こして身体を横へと吹き飛ばすが、僅かに遅く背中の羽の皮膜部分を貫かれ穴を開けられた。
「くそっ!?」
『レオン!?』
翼に穴が開いたレオンは空中で体勢を維持できず錐揉み状に回転しながら地面へと落下していく、幸い先程展開した堀と城壁の外側だったため不死者の軍勢から投槍や矢を射掛けられることは無かったが、どんどん迫る地面に冷や汗が流れる。
それでもレオンは恐慌することは無く冷静になると精霊魔術を展開して深い穴を造るとすぐさまそれに水を満たす、次に着水する前に身体に突風を当てて落下速度を落とすとあとは運に任せた。
「ガッ!?」
次の瞬間、身体をバラバラにするような衝撃と共に即席の池へとレオンは着水する。
全身が水に包まれる感触で池へ着水できたことを知るが、着水の衝撃で身体を動かすことができず、そのまま穴の底へと沈んでいく、このままでは不味い、と思うレオンだが連続の術の展開ですぐに精霊魔術を使う余力が無かった。
なんとか水面を目指そうと、動かない身体に鞭打ってもがいていると、目指す水面に何かが飛びこみレオンへと向かって来る。視界に映ったのは水の中で波打つ銀色の髪、良く知るそれはレオンに抱きつき水面へと向かう。
「ぷはっ!? 無事かいレオン!?」
「ごはっ!? ゴホッ、ゲホケホッ! すまん、助かったカラ」
水面へと顔を出したカラとレオンは、岸へと泳ぐと地面へと上がる。不死者の軍勢がいる方向を見ると、まだ城壁を破られた形跡は無かった。しかし感じる圧力はいつ破られてもおかしくないことを感じさせた。
「走れる?」
「難しいな、着水の衝撃で体が痺れて歩くのがやっとといったところだ。すまないが肩を貸してくれ」
「わかった、出来るだけ急いで城砦都市に戻ろう。今の僕達の状態じゃ追いつかれたら非常に不味い」
「ああ」
二人は肩を組んで城砦都市目指して歩き始める。距離は目視でも五キロメートルはあり、普段の二人なら一時間もかからないが、今の二人の速度では二時間以上かかってもおかしくない距離だ。
不死者の軍勢がいつ城壁を突破して追いかけてくるかわからない状態の今、二人には実際の距離以上に遠く感じられた。
「しかしカラ、何故助けに来た? お前だけなら無事に城砦都市まで戻れたろう」
「うわぁ、助けに来た恩人にそういうこと言うかい?」
レオンの言葉にカラは顔を引きつらせる。必死になって助けに来た自分が馬鹿みたいではないか、そう思っているとレオンの独白は続いていく。
「この状況は私の油断が招いた結果だ。お前まで巻き込まれる必要は無かった」
「じゃあ僕が逆の立場だったら見捨てるのかい?」
「当然見捨てる」
「本当に?」
「…………」
「ほら、レオンも見捨てないだろ? それで死んだとしても後悔したりしないでしょう? 僕もそうさ。見捨ててレオンが死んだなんてことになったら一生後悔する」
「そうだな、だが死ぬつもりは無い。城壁が破られる前に城砦都市まで戻るぞカラ」
「もちろんだよレオン」
決意も新たに二人は城砦都市を目指して歩き始める。
幼い子供の歩幅であり尚且つ肩を組んで歩く二人の歩みは遅かったが、少なくない時間をかけて徐々に城塞都市の門の様子が見える位置まで辿りついていた。
門の前にいた軍勢の姿は既になく、城砦都市へと入ったのが確認できる。二人の不死者の軍勢を足止めするという目的は達成されたといえた。後は自分達が無事に帰還するだけである。
「…… 後少し」
「だが、時間切れか。身体もある程度回復した。走るぞカラ」
「わかった!!」
カラとレオンは後ろを振り向かずに走り始める。
それを追うように、不死者の軍勢を押し止めていた城壁の至るところが崩壊し、生ける死体やいける骸骨が溢れ出す。
二人と不死者達の距離は二キロメートルといったところである。後三キロメートルを追いつかれずに城砦都市へと辿り着かなければならなかった。
ちょっと変なところで切ってしまいました。
何故かって?
時間が足りなかったのです。
ストック無しの一日更新なので許してくだされ。
今回も読んでくださりありがとうございました。




