不死の軍団
今回は敵方の王国軍パートになります。
残虐描写が入ります。
カラとレオンが帝都を出発した頃、ダシュカット平原ではライアン・ベイ・サイロン率いる西部辺境伯軍とアセリア王国騎士団が睨みあう形で軍を展開していた。
既に睨みあいは三日目に突入していたが、宣戦布告から一度も矛を交えておらず、膠着状態が続いている。
そんなアセリア王国騎士団本営では、王国騎士団団長オーダインが主であるアセリア国王ピエトロ・アルド・シダ・アセリアを前に気炎を上げていた。
「攻めないのならば兵を引きましょう陛下!! 国の麦畑は黄金に実り収穫を待っています。このまま男手を戦に取られたままでは収穫が間に合わず、我が国は飢えに苦しむことになります」
「もう少し待つのだオーダイン。宮廷魔導師ザラトゥースの数年に渡る儀式が完了する。そうなれば帝国の羽虫共を打ち落とし、この先に広がる穀倉地帯を我が物と出来るのだ。そうなれば飢える心配もない」
オーダインの苦言に対して王から返ってきたのは剣を友とするオーダインにしてみれば誇大妄想にしか聞こえない内容だった。確かに魔術は強力だが一人の宮廷魔導師の儀式一つで長年負け越している屈強な帝国騎士団を退けられるとは思えないのだ。
しかし王は騎士団長であるオーダインよりも宮廷魔導師であるザラトゥースの言に重きを置いており、オーダインが口にする言葉は柳に風といった風に何の効果もなかった。オーダインが唇を血が滲むほど噛み締めていると話に上がっていたザラトゥースが本営が置かれた天幕の中へと姿を現した。
「なにやら騒がしいようですが、いかがされました陛下?」
「おお、ザラトゥース。なにオーダインの奴がいらぬ心配をしおってな。仕方ないので窘めていたところだ」
「さようですか」
王の自分には向けられぬ信頼が含まれた声に苛立ちながらもオーダインはザラトゥースを見る。
四十を過ぎた自分よりも歳若いながらも髪には白い物が混ざり、元は整っていた顔も目にはくまが出来て落ち窪み、頬はこけて骸骨に皮が張り付いているような顔だった。
かっては共に王国を守ろうと誓いあった同僚の変わり果てた姿にオーダインは嫌悪感を感じずにはいられなかった。
しかしこれだけは確認しておかなければいけないと思いオーダインはザラトゥースに詰め寄る。
「ザラトゥース。陛下に聞いたが、お前の儀式で帝国の騎士団を退けられるというのは本当か? 本当ならどうやってそんなことが可能なのか説明してくれ」
ザラトゥースはオーダインの言葉に頷くと、骸骨のような顔に嬉々とした表情を浮かべて説明を始めた。
「ああ、分かったよオーダイン。説明しよう、いやさせてくれ。まずこれを見てくれ」
そう言ってザラトゥースが取り出したのは刻印が掘り込まれた何の変哲も無い石だった。それに見覚えがあったオーダインは頷く。
「国から支給された物の中にあったな。確か肉体強化の術式が組み込まれた魔石でそのまま飲み込んで使う物だという話だったと思うが」
自分で言うようにオーダインも受け取った当時、物は試しと飲み込んで実際剣を振るのが飲む前より軽くなったため、その効果に驚いたものだ。
「そう! そういう歌い文句で数年前から我が国の兵士全てに配っている物さ。確かに多少の肉体強化を施すが本命はそこじゃない!!」
ザラトゥースの瞳に狂気が宿るのを見てオーダインは今すぐ自分のはらわたをぶちまけて石を取り除きたい衝動に駆られる。嫌な予感がしたのだ。
「この石はあることの下準備なのさ。オーダインここ数年で我が王国軍はここダシュカット平原で何人の死者を出しているかな?」
「…… 二十万だ」
「そう、そして疫病などを防ぐために死体はここダシュカット平原に埋められている」
それは王国の人口の十分の一になる。それだけの死体が今現在も自分達の足元に埋まっているのだ。帝国での戦死者は丁重に回収され家族の元へ返されるという話だが、王国にそれだけの余裕は無い。そしてそれだけの兵を死なせた戦を指揮していたのは―――
「私の無能を歌いたいと言うことかザラトゥース」
「そんなことは言わないさオーダイン。大体、職業軍人の帝国兵と徴兵によって集められた農民である王国兵とでは自力の差があって当たり前だ、先程の魔石で自力を上げたからといって何の足しにもならなかっただろうさ。でもね、それでいいんだよ。僕も陛下もそんなことは百も承知なのさ」
「どういうことです陛下?」
オーダインの質問に国王は答えず、顎を突き出してザラトゥースに先を促す。
「僕の儀式の内容はね、簡単に言えば死者の蘇りさ。そして蘇った死者達は蘇らせた僕の忠実な僕となる。つまりダシュカット平原に埋まる二十万の死体が起き上がり、不死の軍勢が誕生するんだ!!」
「…… 馬鹿な」
それはつまり。
「我が国のために戦って死んだ死者達を不死者に変えるということか!?」
不死者とは、本来死ぬはずである死者が憎悪や後悔によって死にきれず生きた死体として蘇ったものをいう。不死者の種類も様々で、魂だけが蘇る幽霊、死体が蘇った生ける死体、骨となった死体が蘇ったいける骸骨、他にも人の生き血を吸う吸血鬼や首無しの騎士などが上げられる。
それらは総じて生者である人を襲うため人類の敵とし認識されている。
そんな存在に自国のために戦って死んだ国民達を変えるという目の前の二人の正気をオーダインは疑う。
「そんなことが許されると思っているのですか陛下!? ザラトゥース貴様もだ!!」
「許されなかったらどうだと言うのだオーダイン?」
「儀式を中止していただく!! こんなことが近隣諸国に知られれば我が国は完全に孤立してしまう!!」
「だからさオーダイン。二十万の不死者の軍団があれば帝国だけじゃない、近隣諸国も我が王国が飲み込むことが出来るんだよ」
「本気で言っているのかザラトゥース? 高位の不死者が二十万なら確かにそうだろう、しかし貴様の儀式で生まれるのは精々が生ける死体やいける骸骨が関の山だろう。そんなものでは近隣諸国どころか帝国すら倒すことは出来ん」
オーダインの言葉に不快感を顕にするとザラトゥースは国王を見る。その視線に国王が頷くと
今まで黙って三人の話を聞いていた四人の騎士達がオーダインに斬りかかった。
「なっ!? 貴様等ぁあああ!!」
しかしオーダインも王国騎士団の騎士団長を務める剛の者である。すぐさま剣を抜き放つと騎士達に応戦する。本営である天幕の中で、同国同士の戦いが始まった。
「なめるなぁあああああああああああ」
オーダインの剣が騎士達が繰り出す斬撃をかわし受ける。多勢に無勢ながらも互角の戦いが繰り広げられる。
だがそれもザラトゥースが参戦するまでだった。
ザラトゥースが騎士達の援護に回ることによって、オーダインは土の精霊魔術で足を拘束されたところを騎士達の剣に身体を刺し貫かれた。
「がぶぅッ!? お、おのれ、へ、陛下」
「今までご苦労だったオーダイン褒美に余自ら首を刎ねてやろう」
「ぐ、ぐぉオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――――」
断末魔の叫びを上げながらオーダインの首が天幕の中を飛ぶ、そのまま地面にぶつかるとザラトゥースの足元へと転がって止まった。
「さようならオーダイン。だけど寂しがることは無いよ君も僕の不死軍団の一員になるんだからね」
「それでは始めよ、ザラトゥース」
「はい陛下」
国王に恭しく一礼するとザラトゥースは自分の手を切ると地面に血を落としていく、そこから赤い光が立ち上ると地面を蝕むように戦場を駆け巡る。
≪ 盟約の石によって、我は命ずる。死者よ、今こそ蘇り生者へと、その怒り振り下ろさん ≫
狂気の笑いを上げながらザラトゥースは術式を完成させ魔術を展開した。
ダシュカット平原の至るところから死者の手が地面を突き破って出現する。
≪ 不死の軍勢 ≫
ザラトゥースの戦術級魔術が顕現され、ダシュカット平原に生ける死体、いける骸骨の軍勢が姿を現していた。
「は、はははははははは、凄い、凄いぞ、二十万もの不死の軍勢が僕の――――― いギィッ!? アガガガガガガッ」
「どうしたのだザラトゥース!?」
儀式の成功に喜んでいたザラトゥースが突然瘧のように震えだした。目や耳から血を流し、皮膚が裂けるのも構わずに頭を掻き毟る。
「止め、止めぇエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ、ギョボッお」
次の瞬間、体中の穴という穴から血と汚物を撒き散らし、ザラトゥースは自分の体液で作った血と汚物の池に飛び込み、絶命した。
何故こうなったかというと、確かにザラトゥースは不死者の軍勢を創り出すことには成功したが、制御するには能力が足りなさ過ぎたのだ。己の力を過信した者の当然の末路だった。
こうして術者であるザラトゥースが死んだが、一度姿を現した不死者の軍勢が消えるわけではない、そして制御する者がいない今当然のように不死者の本能のままに生者を襲い始める。
「ザラトゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥス!! この役立たずめがぁあああ」
騎士達によって本営に雪崩れ込んできた不死者の群れから庇われる国王が血と汚物の池に沈むザラトゥースの死体を蹴りつける。怒りに任せたその一撃にザラトゥースの死体は不死者の群れへと転がると、何本もの手に掴まれ、引き裂かれ、地面へとその破片をばら撒いていった。
「撤退だ!! 退くぞ!! 守れ! 余を守れ!!」
国王は撤退の号令を喚き散らしながら騎士達と共に撤退するため本営を出ようと駆ける。その前に立ち塞がる者があった。
「オ、オーダイン!?」
跳ね飛ばされた首を左手に、生前の愛剣を右手に構えた首無しの騎士へと変貌したオーダインが国王へと歩を進める。
それを守ろうと騎士達が壁となるが、生前の剣技はそのままに人外となった膂力で振るわれる剣が、騎士達の首を一振りで宙へと飛ばす。
「ひっ、ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい。す、すまなかったオーダイン。頼む許してくれぇえええええええええ」
国王の誇りをかなぐり捨てて土下座するその姿に、オーダインの動きが止まる。
「た、助けてくれるのか!?」
それを助命と取った国王は一刻も早く逃げようとオーダインの横を駆ける。
次の瞬間、国王は地べたへと顔から突っ込んでいた。
「がぶっ!? な、なんじゃあ!?」
何かに躓いた覚えの無い国王は自分の足を振り返る。
そこに自分の足は無かった。
「はっ? えっ? 余の足――― ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ」
自分の足の膝下から下が斬られたと認識した脳が激痛を知らせる。それにのたうち回る王の体が頭上から振り下ろされた剣によって縫いとめられる。
「ぎょぼッオ!?」
右肺を貫かれたことによって口から血を吐き出す、それを虚ろな目で見て、次の左肺を貫く痛みで目を見開き新しく血を吹く。
「ヒィオオ、ひぃオボッ!?」
次に胃、次に腸、次に陰茎、次に四肢を切断された。
生きているのが不思議な状態のまま仰向けにされ、自分の心臓に振り下ろされる剣を見つめ、生首となったオーダインの口から響く哄笑を聞いてアセリア国王ピエトロ・アルド・シダ・アセリアの意識は闇へと落ちた。
そんな光景はアセリア王国軍の至るところで起こっていた。
不死者達は生者を憎むように蹂躙し、自分の仲間へと加えていく、虐殺が終わった頃には
二十万だった不死者の軍勢はアセリア王国軍を飲み込み、二十五万まで膨れ上がっていた。
そして次の犠牲者を求めて不死の軍勢は進軍を開始する。
ライアン・ベイ・サイロン率いる西部辺境伯軍へと不死者の足音が進むのだった。
王国軍パートと言いながら、誰一人生き残らないという展開になり、引かれていないでしょうか?
正直ここまで凄惨にするつもりはなかったのですが、気付いていたらなっていたという。
病んでいるのでしょうかね私?
次回は帝国軍 VS 不死者軍の予定です。
今回も読んでくださりありがとうございました。
評価、お気に入りありがとうございます。




