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- Double - 勇者と魔王の転生記  作者: 矢島 ユウ
アセリア王国戦争期
54/81

出兵

 次の日、指定された黒狼騎士団宿舎前の広場にカラとレオンは来ていた。従者のウルカとハルの二人も一緒である。

 カラとレオンは昨日用意した武具と防具を身につけ、ウルカとハルも簡易ではあるが皮製の胴鎧で武装しており、腰には護身用の剣が吊るされていた。ウルカトハルの手にはそれぞれ二頭分の軍馬の手綱が握られており、二人の後ろには四頭の軍馬が控えていた。

 

「戦争へ行くのは、もっと後だと思っていたのですが……」

「ごめんねぇウルカ。でも戦争始まっちゃったし仕方ないよね?」

「いえ、行かないという選択肢もあったのでは?」

「えっ?」


 何言ってるの? という顔をする主の思考回路を修正するのを早々に諦め、溜息をついているとウルカの肩に手が置かれた。振り返るとハルが同じく諦めの表情で首を振っている。彼も同じような状況に陥ったらしい。


「お互い苦労しますね兄さん」

「仕方ないよ。大丈夫ウルカは私が命を懸けても守るよ」

「…… 何を言ってるんです? 兄さんはレオン様を命懸けで守って下さい。私もカラお嬢様を命を懸けて守りますので、私達従者の命は主のためのものなんですから」 

「え? あれ?」


 妹の言葉に自分の常識に疑いを持つハル。四人の中では一番常識人であるのだが少数派に追いやられてしまい今まで生きてきたことまで否定されているような気分を味わっていた。不憫である。

 そんなハルが回復する暇も与えられず、帝都の神殿区から七時を告げる鐘の音が流れる。それを合図に広場に設置された演壇の壇上に、昨日説明会に来ていた黒狼兵団中佐のエクリプトが上る。


「おはよう諸君! 一人もかけることなく集まっているようでなによりだ。既に昨日、陛下率いる近衛騎士団は出発した。我々黒狼騎士団はこれに遅れての出兵となるため、迅速に行動する必要がある。それでは早速、昨日割り振った上官の下につくように、まず一組目ボルト・コート・タガル中佐の元に―――」


 エクリプトが名前を読み上げるたびに演壇横に控えていた中佐達が前に出て、その下につく生徒達とその従者が集まる。

 次々と名前が呼ばれる中、カラとレオンの順番が回ってきた。


「――― テス・クリット・タノルト中尉の元にレオンハルト・アルバ・ミスラとカラ・レティーシア・ミスラ」


 名前を呼ばれ一歩前に出た女性士官へと四人は歩き始める。

 その女性士官の前に並ぶと、四人の目が彼女のある部位に釘付けになった。

 それは胸。正確には乳房だ。なぜかというと大きいのだ。どれくらい大きいかというと、四人は十歳前後の少年少女の平均身長であり、成人女性の彼女を仰ぎ見る形になるのだが、彼女の顔が隆起した胸によって遮られて見えないくらい大きいのだ。

 その威容に男性陣は男の悲しい(さが)で目が引きつけられ、女性陣は自分との圧倒的な差に打ちのめされた。

 そんな四人に気付かずに、彼女の胸――― 否、彼女の口から声が発せられる。


「テス・クリット・タノルト中尉だ。今回君達の上官となる。質問があれば今、あるいは行軍中でも良いので質問するように」


 女性士官テスの言葉にレオンが代表して了解の意を伝えるとさっそくカラが手を上げた。


「はい! どうしたらそこまで胸が大きくぶっ!?」

「失礼しましたテス中佐。申し訳ありませんが屈んでもらって良いでしょうか? 逆光で顔が見づらいので」

「ん? そうか? 分かった」


 暴言を吐こうとしたカラの口を塞いだレオンが、テスの顔だけでも確認しようと放った言葉は彼女の胸を更なる凶器へと変えた。

 テスは腰を曲げて屈むと、膝に両手を添える。それによって彼女の胸は圧迫され、その威容を更に増す形になる。

 その凶器をまともに喰らったのは、四人の中で一番の年長者であるハルだった。彼の鼻からは赤い筋がたれ、地面に赤い染みを刻んでいく。


「…… 兄さん?」

「お、おい大丈夫か!?」

「あ~、しょうがないよハル。はい、これ使いな」

「すまん、ハル」


 妹の侮蔑を含んだ蔑みの視線と、テスの自分を案じる声と、カラの同情とハンカチと、レオンの謝罪とを受けて、ハルは上らなくてもいい大人の階段を上ったのだった。



「大丈夫なのか彼は?」


 その後ハルの介抱を未だ自分の兄を蔑んだ瞳で見つめ続けるウルカに任せ、カラとレオンはテスと向き合う。現在テスは膝を抱えるように屈んでおり、カラとレオンに目線を合わせていた。

 テスの顔は凛々しい口調に似合わず童顔であり学生といっても通じそうである。大きな碧眼には眼鏡がかけられ、肩まであるだろう茶髪は頭の後ろで纏められていた。


「大丈夫でしょう」

「ちょっと刺激が強すぎたんだろうねぇ」

「刺激? よく解らんが大丈夫そうなら今から私の部隊と合流するのでついてきてくれ」

 

 自分の凶器に気付いていないのか、そう言うテスに案内され、四人は馬に跨って広場を後にした。

 テスの部隊は帝都外の平原で既に行軍の準備を終えていた。テスの部隊以外の部隊も何隊か待機している。部隊に合流すると軽装の女性騎士が五人を出迎えた。


「待たせたな」

「お帰りなさい隊長。準備は完了しています」

「ご苦労、今回同行する帝国学園の生徒達を紹介する。部隊の者達を集めてくれ」

「はっ!」


 テスに言われて女性騎士が下がると既に待機していたのか、百人程の兵士が集まると何列かに分かれて整列した。


「今回我が隊に同行することになった帝国学園の生徒四名。レオンハルト・アルバ・ミスラとカラ・レティーシア・ミスラ。そしてその従者二名だ。彼等は将来の帝国騎士団の士官候補生であり、将来諸君等の上官となるやもしれない若者達だ。今回の戦争で死なせるようなことがあっては断じてならない! 皆解ったな!?」

「「「「「「「「「「 はっ!! 」」」」」」」」」」


 四人の紹介が終わると、兵士達は自分の持ち場へと散っていく、その様子を眺めているとテスの部隊も他の部隊も物資を山積みにした荷馬車を中心に展開されており、それがこの部隊の役割が何かを語っていた。


「補給部隊?」


 カラの疑問にテスが頷く。


「そう、我々は補給部隊だ。黒狼騎士団の主力は既に戦地に向けて出発しており、我々は後発出発となる」

「つまり我々学生組は前線へは行かないということですか?」

「そうだ。はっきり言わせてもらうが、学生のお守をしながら戦えるほど前線は甘くない、残念だが我々と共に補給基地の構築に当たってもらう。がっかりしたか?」


 意地悪げに笑うテスにレオンは苦笑を浮かべながら首を振った。


「いえ、学生を前線に連れて行くのかと不安に思っていたので、かえって安心しました。それに帝国の補給線を知る良い機会です。しっかり勉強させてもらいますよ」

「ほう、君達の歳なら。華やかな前線に興味を持つものだがな…… しかし、補給線の重要性を理解しているのは良いことだ。しっかり勉強するように」

「「 はい 」」


 カラとレオンの返事に頷くとテスは部隊に向けて右手を大きく掲げる。それを合図に部隊内からラッパの音が鳴り、それに呼応するように他の部隊からもラッパの音が響く。


「進軍だ!!」


 テスの号令と同時に部隊が動き始める。

 こうして、カラとレオンの今生初の戦争が始まるのだった。


なんかハル君が不憫キャラへとクラスチェンジしました。

多分この扱いは今後も続くでしょう。


今回も読んでくださりありがとうございました。


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