ライアンの退却戦
インフルエンザで倒れてました。
未だに熱で頭がぼうっとしてますが読者さんに忘れられる夢を見て恐怖からの更新です。
時は少し巻き戻り、アセリア王国軍の前方に不死者の軍勢が出現したのを西部辺境伯軍の先頭に立つ西部辺境伯ライアンは目撃していた。
「不死者の軍勢か…… アセリア国王め、邪道に堕ちおったな」
「どう致しますか御大?」
後方に控え指示を待つ副官に振り返ると、ライアンはつまらなそうに顔を歪めると号令を発する。
「退却する! 我等が城砦都市イセンガルドへ戻るぞ!!」
「あれを放っておいてよろしいのですか?」
「おそらくあれは今までダシュカット平原に埋葬された死体を触媒にして召喚されている。そうなると更に数は増えることにる。我々だけでは対処しきれん。城塞都市で陛下と合流して撃退する」
「まさかっ!? くっ……」
不死者の軍勢を指差して聞き返してくる副官だったが、次々と地上へ現れる不死者達にこちらの不利を悟り口を噤む。
副官が退却のため部下達に指示を出すのを見送るとライアンはもう一度、不死者の軍勢を前にして展開するアセリア王国軍を見る。その光景に血の赤が咲いた。それは徐々にアセリア王国軍中に広がる。ライアン達の前で繰り広げられるのは不死者の軍勢によるアセリア王国軍に対する蹂躙だった。命乞いも聞かず、逃げることも許されない虐殺。アセリア王国軍は阿鼻叫喚に包まれている。
「制御に失敗しおったか!? 馬鹿が!! 退却を急げ!! 糧秣は最低限だけで良い、王国軍への虐殺が終わったら次にあれは我等に牙を剥くぞ!!」
「はっ!!」
部下達を叱咤しながらもライアンの目はアセリア王国軍から離れない、その目には憐憫の色が宿っていた。
「愚かな、愚王とは思っておったがここまでとは…… オーダイン、貴様は仕える主を間違えたのだ。馬鹿が――― 馬鹿者が……」
ライアンの口からは戦場で何度か矛を交えた武人に対する叱責がこぼれる。しかしそれは怒りを含んだものでは無く、悔恨が含まれた呟きだった。
「御大! 退却準備整いました!!」
「よし! お主は先頭に立ち、退却せい。儂は殿を務める」
「なっ!? 危険です。御大が退却して下さい!! 殿は私が」
殿を務めるというライアンに副官が食い下がる。それをライアンは蝿でも追い払うように手を振ると一蹴した。
「いらん、別に儂も死ぬ気などない。適当に時間を稼いだら退くから心配するな」
「し、しかしですな」
「くどい!!」
「…… 分かりました。しかしこれだけはお願いします。無茶だけはしないでください。我々にはまだ御大が必要です」
「だから死ぬつもりは無いというとろうが、安心せい」
「では、御武運を!!」
「おう」
副官が走り去るのを見送ってライアンは王国軍の虐殺を完了してこちらに向かってくる不死者の軍勢に向き直る。顔には笑みを浮かべ二つ名の【豪槍】の由来となった柄まで銀鋼製の槍を掲げた。
「儂と共に殿を務めたいと思う者はいるか!? いるのならば儂に続け!!」
「「「「「「「「「「 はっ!! 」」」」」」」」」」
ライアンを囲む騎士や兵達がライアンに続く、それは全軍に伝播して西部辺境伯軍の三分の一に及ぶ二万の軍勢となって不死者の軍勢と対峙する。
「ふっ、馬鹿共が――― では、いくぞ!!」
「「「「「「「「「「 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 」」」」」」」」」」
鬨の声を上げながら二万の騎馬隊が二十五万の不死者の軍勢と激突した。
「「「はぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」
まず最初にライアンと他の上級精霊術師によって土の精霊魔術が展開される。
それはダシュカット平原を分断するように三メートルに及ぶ高さの石壁を展開して不死者の軍勢を分断した。石壁に突き上げられて生ける死体やいける骸骨が宙に舞い地面に叩きつけられるが何事も無かったように起き上がり軍勢に復帰していく。
ライアン達側にいる殿部隊の三倍ほどの六万弱の不死者の軍勢が、生者が憎い、我等に加われ、とその手に持つ剣や槍を手にライアン達に牙を剥く。
それを迎え撃つように、西部辺境伯軍の騎士や兵士達の剣、戦棍や戦斧が振るわれた。
不死者には刺突攻撃は効果が薄いため、殿部隊に槍や刺突剣を使う者は残っていない、自分達が役に立たないと自覚しているため唇を噛みながら撤退していった。残ったもの達は殴打や斬撃を得意とする武器を持つ者達であり、不死者達の数を減らしていく。
しかし、こちらに犠牲がまったく無いという訳ではなかった。
数体の生ける死体に組み付かれ生きたまま喰われる者がいた。
いける骸骨の胸骨に武器を捕られ首に錆びた直剣を突き込まれる者がいた。
優勢に見えて徐々にライアン達殿部隊の数は減っていく。それは数の差のためともいえたが、決定的なものは不死者達の不死性だ。
生者ならば本来死ぬか行動不能に陥る状態であっても、不死者は構わずに生者の足を引き、仲間になれと襲い掛かってくる。
こんな不死者の特性を知っていても戦場であるため、全ての状況を把握するのは難しい、歴戦の騎士や兵士達も不死者の軍勢という初めて遭遇する暴威に果敢に応戦しながら一人、また一人と戦地へすの体を沈めていく。
その場景に奥歯が砕けるほど歯噛みしながらもライアンは戦場を冷静に分析する。そして十分な時間が稼げたと判断すると次の行動に移った。
「そろそろ我々も退却するぞ!! 退路を確保せよ!!」
「「「「「「「「「「 はっ!! 」」」」」」」」」」
ライアンの号令以下、殿部隊の半数が自分達の後方に向かって突進する。既に不死者の軍勢に半ば包囲される形になっていたため、後方に陣取った不死者達を邪魔だとばかりに蹴散らし仲間達の退路を確保するため駆ける。
「「「「「「「「「「 おおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 」」」」」」」」」」
決死の突撃により退路は確保された。
後は逃げるだけ、となった時にそれは起きる。
不死者の軍勢を二分していた石壁の一部が轟音と共に砕かれた。そこから現れたのは血で深紅に染めた首無しの騎士。
その姿を認めてライアンの瞳が見開かれる。
「…… オーダイン」
自分がその実力を認めた武人の変わり果てた姿にライアンは全てを悟る。
「そうか、お前は止めようとしたのか」
この愚行を。
そして首を刎ねられ首無しの騎士となったのか。
何故なら首無しの騎士となるのは生前首を刎ねられて死んだもののみが成る不死者だからだ。
「ああああアアアアアアアアアアアアアアああああアアアアアアアアアアアアアアああああああああ」
理性を失った深紅の瞳でこちらを睨みつけ、オーダインであった首無しの騎士はライアンへと駆ける。その途上にあった騎士や兵士達の首を、行きがけの駄賃とでもいうように刎ねながら。
それをライアンは正面から迎え撃つ、馬上から銀鋼の槍を振るうとオーダインの両刃剣が迎え撃つ、激しい火花を開戦の合図として二人の戦いが始まった。
次回はライアン VS オーダインです。
今回の戦争が終わったら何年か進めるつもりなので、その前に盛り上げれるように頑張ります。




