戦争参戦準備 前編
アセリア王国と開戦したことは帝国学園にも直ぐに伝わった。
なぜかというと、帝国は軍隊を徴兵ではなく賃金を与えて維持する職業軍人で構成している。これは維持費がかかるが錬度が高く近隣諸国からも警戒される屈強さを誇っており、長年にわたる王国との戦争を連勝に導いている理由の一つである。
そんな理由もあって帝国学園の別名が騎士学校と呼ばれる由来になっているのが、卒業生で家督を継がない者はそのまま軍へと入る者が多いためだ。帝国学園卒業者は一兵卒ではなく士官として迎え入れられ、帝国軍の水準向上に一役買っているのである。
そのため戦争が始まると、帝国学園の生徒で成績が優秀であり尚且つ希望するものが士官補佐として戦争に同伴出来る制度がある。
これは未来の士官候補達を早いうちから戦争に慣れさせようというものであるため、希望する者は将来士官として軍に入ろうと思う者がほとんどで、家督を継ぐ予定の貴族や人脈作りに来た商人の子息は参加しない、それも当然といえば当然だ。
なぜなら、戦争に行くのだ。
好き好んで人が殺しあう場所に行きたいと思う者は少ない。
そんな希望者が数十人集まる黒狼騎士団宿舎の一室にカラとレオンは当然のように来ていた。本来入学したての一年生は希望する権利は無いのだが、二人は先日の飛竜討伐の一件があり特別に許可が下りていた。
今回の戦争について王国の狙いや軍団規模を雑談交じりに話し合っていた生徒達が、カラとレオンの二人を見て話題を二人に移していく。
「あれか飛竜を討伐したっていう兄妹は?」
「嘘だろ、二人とも俺の肩までしか身長ないぜ」
「二人とも上級精霊魔法の使い手らしい」
「冗談だろ!? 学園内どころか帝国内でも使える奴は数える程だぜ?」
「しかも座学も一年生内でダントツ、兄のほうは入学するなり派閥を立ち上げてる。天才ってやつだな」
「それで辺境伯の御子息、御令嬢っていうんだから完璧だな。才能と境遇の差に絶望する」
「今度は戦争見学か? 俺等は将来のために駆けずり回ってるっていうのに辺境伯の天才様方は気楽なもんだな」
部屋に入るなり浴びせられる言葉に二人は苦笑を浮かべる。
「言いたい放題だねぇ」
「言わせておいてやれ、言いたくなる気持ちも解らないでも無い」
二人の会話が聞こえた者は額に青筋を浮かべながらも、年長者としてのプライドからか椅子を立つ者はいなかった。そんな風に室内がピリピリと険悪な雰囲気をかもし出し始めた頃、黒狼兵団の上級士官が到着した。
「集まっているな諸君。私は黒狼兵団中佐のエクリプト、今回の戦争への同伴について経験のある者もいるだろうが初めての者もいると思うので一から説明する。一回しか言わないので聞き漏らしのないように。さて君達にはこちらで選抜した士官の下に各員二名ずつついてもらう。誰が誰につくかは申し訳ないがこちらで決めさせてもらった。今から読み上げるので自分がつく士官の名をしっかり覚えるか書き残すように、まず―――」
そうしてエクリプトの口から士官名と生徒名が交互に読み上げられていく、カラとレオンは最後だった。
「テス・クリット・タノルト中尉にレオンハルト・アルバ・ミスラとカラ・レティーシア・ミスラ。以上だ。準備期間は今日のみ、集合は明日明朝七時に黒狼騎士団宿舎前の広場へ、遅れた者は参加の意思無しとしておいていく。では諸君また明日」
説明を終えるとエクリプトは自分も準備があるのだろう、すぐさま部屋を出て行った。生徒達も我先にと出口へと殺到し駆けて行く、それはカラとレオンも同様だった。
「とりあえず最初に行くのは?」
「防具店【ガルガンディー】だな、頼んでおいた物が出来ているはずだ」
「あーあれだねぇ」
「そうだ急ぐぞ!」
二人は黒狼兵団宿舎を出ると、武器店や防具店が立ち並ぶ戦士通りといわれる通りへと駆けて行く、辻馬車を拾っても良かったのだが戦士通りは常連が兵士や冒険者のため、騎士団や冒険者ギルドに近く辻馬車を探すより走ったほうが早いと判断したのだ。
数分駆けると防具店【ガルガンディー】の看板が見えてきた。扉前で少し乱れた呼吸を整えると扉を開ける。
店中に入ると皮と金属の匂いが合わさった独特の香りが充満しており二人を出迎えた。店内を物色する客の中には先程黒狼兵団の宿舎で見かけた顔ぶれを数人見かけたが、特に気にせずに二人はカウンターへと進む。
カウンターには浅黒く日焼けした筋骨稜々の黒髪の女性が座っていた。その顔が整っているだけに、それを乗せる身体との違和感が甚だしい。防具店【ガルガンディー】の女主人ガルガンディーである。
女性は二人に気がつくとカウンターから身を乗り出して二人を出迎える。
「いらっしゃい! あれ取りに来たんだろ? 出来てるよ!」
店内全体に響く声量に常連の者達らしい冒険者風の者達はいつものことなのか見向きもしないが、帝国学園の生徒達は何事かとこちらを見る。
そんなことはまったく気にせずにカウンター奥へと入っていくと二つの箱を持ってきた。
「こっちがレオン君ので、こっちがカラちゃんのね。とりあえず着てみてくれるかな? 寸法はあってると思うけど、最後に調整したいから」
「わかった」
「やっぱり新品を着るのはワクワクして楽しいねぇ」
ガルガンディーに渡された箱を開けるとそこには胸と背面を守るように作られた鱗鎧が入っていた。鱗鎧とは本来薄くのばした鉄板を貼るものだが、二人に渡された鎧に貼られていたのは深緑の本物の鱗だった。
これは二人が討伐した飛竜の素材を使った物である。魔獣や魔物の死体は討伐した者に保有権が発生するため、飛竜の死体は二人の物になったのだ。飛竜の素材となると、そもそも討伐自体難しいため希少性が高く高額で取引される。
そこで二人は自分達の分を確保すると他は全て売っていた。おかげで二人は現在ちょっとした小金持ちである。どれ位かというと金貨六百枚、これは一般帝国民の五十年分の年収に匹敵する。
「飛竜の素材なんか久しぶりに扱ったからね、張り切っちゃたよ。下地は魔獣の牡牛の皮を使ってる、その上には頼まれた通り飛竜の鱗。牡牛の皮は鉄の鏃の矢も刺さらない強度だし、飛竜の鱗に至っては戦ったあんた達が一番解ってると思うけど魔法にも衝撃にも強い、どれ位かというと魔法抵抗力でいえば銀鋼より下、強度でいえば銀鋼より上だね。神鉄が手に入らない現状これ以上の防具はそうそう手に入らないよ」
「良い出来だ。寸法も問題無い」
「私のは少し大きいかな」
「了解―――― どうだい?」
「うん、良い感じ」
「まぁ、ほっといても今に胸がきつくなるさ」
「はっはっはっ……」
「…… 残りの料金だ確認してくれ」
自分の無い胸を見下ろすカラから顔を逸らしレオンがカウンターに金貨が入った袋を置く。それをガルガンディーが一枚ずつ数えていった。
「はい前払いの金貨十枚に後払いの金貨十五枚確かに頂いたよ。また寸法が合わなくなったら来てくれ、銀貨一枚で直すよ」
「わかった」
「ありがとねぇ」
「毎度あり~」
ガルガンディーの声を背に二人は鱗鎧の入った箱を担いで店を出る。
「さて次は―――」
「武器だね!」
今回も読んでくださりありがとうございましたー




