開戦
今回は短めで主人公達は出てきません。
王城にある執務室で、クラウスは署名待ちの書類に囲まれながら自分の手を見つめていた。
「カラ様のことを思い出しておられるのですか?」
そんなクラウスにフェイマーから声がかけられる。その言葉はクラウスの心情を的確に捉えていた。
「自分の子をあれほど愛しいと思ったのは初めてだ」
「…… 他の御子様達には聞かせられぬ言葉ですな」
「かまうものかよ、どいつもこいつも俺の跡を継がせるには色々と足りぬ腑抜けばかりだ」
「陛下が優秀すぎるのですよ、御子様方も努力されております」
御子達を擁護するフェイマーの言葉にクラウスは鼻で笑って一笑に付す。
「はっ、努力したからといって結果が伴わなければ皇帝などは勤まらん。努力しましたが帝国は滅びました、では笑い話にもならんだろう」
「確かにそうですが、努力を認めてやらねば育つものも育ちませんぞ?」
「俺が認めるほど努力した者がいればな。奴等の努力とはなんだ? 貴族の後ろ盾を得るために奔走することか? それとも自分の兄弟を追い落とすための策謀をめぐらせることか? 何故自分を磨こうとしない?」
苛立たしげに自分を囲む書類に署名し続けながらクラウスは自分の子供達への毒を吐いていく。それをクラウスは涼しげな顔で流していく。
「カラ様は違うと?」
「まったく違うとは言わんさ、だが努力しない者に飛竜を討伐できるか?」
「――― 出来ませんな」
「あれは見た目は母親であるカリンに似たが、中身は俺と同じよ。一目見て解った」
先程御子達のことを語っていた時とは打って変わって上機嫌にクラウスは語る。
「それでは御子様として迎えますか?」
フェイマーの提案にクラウスは即座に答える。
「いや、迎えない。意味が無いからな」
「それは何故?」
「我が国は一応長子相続となっているだろう。皇族はその限りではないがな。だがそれでも女子の相続権は男子の後だ。俺には今既に皇子が五人、姫が五人だ。カラは産まれた順番でいえば四番目、皇位継承権でいえば六番目になる。上の六人を掻き分けて皇位に就きたいというなら話は別だが、あれはそんなことは望まんだろうよ」
「一目でそこまで解るものですか?」
「あれの考え方は、レオンに近いのだろう。レオンとは面識が多少あるからな。といっても奴が三歳の頃になるが、だが既にその頃には奴は精神の基盤が出来ていた。末恐ろしいと思ったよ。それを兄として育ったのだ考え方も似るというものだろう」
なるほど、と頷くとフェイマーは別の切り口から質問を投げかけた。
「愛しいという理由で迎えはしないのですか? 手元に置いて成長を見守る。親であれば誰もが考えることだと思いますが」
「檻に入れた獣を見て何が楽しい? 奴等は野を駆けるからこそ美しいのだ」
「なるほど、失礼しました」
「いや、俺のことを思ってだろう? それを責めるつもりはないさ。この話はこれで終わりだ、丁度署名する書類も無くなったしな」
そう言って羽ペンをインク瓶に戻すクラウスの前には、決済済みの書類が山となって並んでいた。フェイマーと会話しながらも手が動いていた証拠である。
仕事終わりのクラウスに紅茶を入れようとフェイマーが動こうとした時、執務室の扉が勢いよく開かれた。その乱暴な行為にフェイマーは眉を顰めるが、入ってきた侍従の青年の顔が真っ青なのに気付き急ぎ用件を確認する。
「何事ですか?」
「も、申し上げます。アセリア王国から宣戦布告がありました。アセリア王国軍は既にダシュカット平原に布陣、現在西部辺境伯が防衛のため軍を展開していますが敵の数が多いため援軍をお願いしたいとのことです!!」
侍従の口から語られる内容に、フェイマーは目を瞑り溜息を吐き、クラウスは獣のように犬歯を覗かせて笑った。クラウスは立ち上がり執務室を出る。後ろにはフェイマーと報告に来た侍従が付き従う。
「近衛騎士団長には伝えたか」
「はっ、既に近衛騎士団長、黒狼騎士団、黒鷲騎士団、各将軍方にも伝令がいっているはずです」
「よし、では余と近衛騎士団は先に出る。黒狼騎士団に後を追うように伝えろ。黒鷲騎士団は帝都の防備だ」
「はっ」
クラウスの指示を受け、侍従の青年は各所に指示を届けるために駆けていく。それを見送りながら二人の足は止まらない。
「いつも通り麦の収穫後かと思いましたが違いましたな」
「王国に放った密偵の報告では、今年の王国の収穫の予測量が例年よりも大分少ないらしい、西部地帯の一部を一時的にでも占領して麦を収穫して引くつもりなのかもしれんな。我が軍も舐められたものだ」
「王国はダシュカット平原を越えられたことは過去数回しか無いというのに…… 陛下の代になってからは一度もありません。そのような暴挙に及ぶでしょうか?」
「わからん、あるいは何か隠し玉があるのかもな。まぁ、とりあえず早く援軍に向かわねば【豪槍】の御大に怒鳴られる。後は宰相とお前で回しておけ。緊急の要件の場合は傍受されてもかまわん念話で連絡しろ」
「はっ、御武運を陛下」
フェイマーに見送られクラウスは近衛騎士団と共にダシュカット平原へと向かい、黒狼騎士団もその後に続く、グローリア帝国とアセリア王国との間に例年のごとく戦争が始まるのだった。
戦争勃発!!
今回もよんでくれてありがとうございました。




