飛竜襲来
この世界では竜種は魔物としてでは無く、人類種として分類されている。
何故なら竜種の高位の者達は人類を越えた知識と長命による豊富な経験、他の種族の追随を許さない強靭な身体を持ち、人類との意思疎通が可能だとされているからである。実際は高位の竜達は気位が高く、他の人類種との友好は無いに等しいのだが。
そんな竜種の末席に飛竜がいる。低位の竜であるため人類との意思疎通が出来るほどの知能は無いが竜種としての強靭な身体を持っているため、他の種族にとっては高位の竜よりも危険な存在と言える。
その飛竜が数十年に一度、群れからはぐれた個体が帝国の村や町を襲うことがある。その時は帝国騎士団か高ランクの冒険者達によって討伐されるのだが――― そんな存在が今、目の前で牙を剥いていた。
「全員後ろを振り向かずに帝都まで走れ!!!」
副教官の叫びに従って全員が帝都に向かって馬を走らせる。
そんな姿を嘲笑うかのように飛竜は最初に襲った生徒と馬を丸呑みにすると、その二階建ての家ほどもある巨体を再び空に飛翔させ逃げる者達を追い始めた。
「どう考えても追いつかれるよねぇ、これ」
「そうだな」
「二人共のん気に話とる場合かいな!?」
目の前を走る騎馬達と飛竜を見比べながら会話する二人にコルンが怒鳴りつける。
「いや、これ誰か足止めしないと無理だと思うんだよねぇ」
「だからってカラはん等がする必要ない!! 教官とかに任せてとけば良いんや!!」
「そうだ!! 私に任せてお前達は早く帝都へ戻れ!! おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
言い争いする三人の横を、決死の表情をした副教官が逆走する。彼の周囲には精霊魔術で造られた十数個の水球が浮かび、次々と飛竜に向かって高速で飛んでいく。
しかし水球は飛竜の羽ばたきによって飛竜の身体に当たる前に四散した。
「あっ、不味い」
「逃げろ!!」
水球を自分への攻撃だと認識した飛竜が副教官へと狙いを定め急降下する。
「あっ……――― ぎょぶっ!?」
自分に向かって来る飛竜を目の前にして、呆気に取られた表情を浮かべた副教官は、次の瞬間激痛と共に空へ打ち上げられ、分断された自分の下半身を眺めながら事切れる。
副教官の残骸が地面に落下した時、既に三人はある程度の距離を離れていたがまだ安全とは言い難かった。
「中級精霊魔法を一蹴かい!?」
「馬鹿げた速度だな、この世界でも飛竜の厄介さは健在か! コルン私達が足止めしている間に逃げろ!!」
「えっ、で、でも!?」
「ハッキリ言ってやる、足手まといだ!! 私達を助けたいと思うなら早く帝都に戻って救援を呼んで来い!!」
「わ、解った。二人共死なんといてや!!」
「大丈夫だよ」
「任せろ」
そんなやりとりの後コルンが帝都に向けて馬を走らせるのを確認すると、二人は飛竜へと向き直った。飛竜は副教官と副教官が乗っていた馬を食べ終わると、再び空へと飛び立ち上空からカラとレオンを睥睨していた。
「蜥蜴が、私を見下すとは良い度胸だ」
「しかし如何したものかねぇ、中級がほとんど効果が無いとなると上級精霊魔術じゃないと駄目かな?」
「それしかないだろう…… 先程の様子を見るとそれほど効果が期待出来るとは思えないがな」
「まあ、試してみて無理だったら逃げて救援を待てば良いさ」
「無理をして死ぬなよカラ」
「レオンもねぇ」
そう言うとカラは左から、レオンは右から飛竜へと駆ける。上空からそれを見ると、どちらを狙うか一瞬迷った後、飛竜は小柄な方が容易いと感じたのかカラへと向けて副教官へしたように急降下を行う。
風を切り裂いて突進してくる飛竜を、カラは両手を広げて出迎える。
「はい、いらっしゃい」
自分に突進してくる飛竜から目を逸らさずに、カラは高速で魔術を展開していく。そして精霊が形造ったのは二匹の炎龍、飛竜を上回るその長い体躯と顎を飛竜へ向けて揮う。
「ギガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
飛竜と二匹の炎龍が空中で激突する。しかし飛竜の咆哮と突進による衝撃で、炎龍は散り散りに分解されてその姿を消した。
しかし飛竜も炎龍との衝突でまったくの無傷とはならず、軌道をカラからずらしカラの上空を掠めるとカラの後方の地面へと頭から突っ込んだ。
「上級でもこれかい!? やれやれ骨が折れるねぇ」
「油断するなカラ!!」
「えっ? うわぁあ!?」
レオンの警告と同時にカラを守るように地面が隆起し壁を形成する。次の瞬間カラを狙った飛竜の口から放たれた炎の息吹が土壁に激突した。
「無事か!?」
「ごめん助かったレオン」
「良いから敵から目を放すな!」
飛竜の息吹によって真っ黒に変色した土壁を背に飛竜を窺うと、口を大きく開けてこちらを威嚇する飛竜の姿が目に入った。
その姿は無傷とは言えず、身体の鱗は所々焼け焦げ剥がれ落ち翼の皮膜には穴が開いている。しかし瞳には怒りの意思が燃え上がり、こちらを殺してやると語っていた。
「こわいこわい、本気にさせちゃったかな?」
「戦闘中の油断は死につながるぞ、呆けたか?」
「ごめんって!? 怒らないでよ」
「怒っていない、呆れているんだ」
「ぐっ!?」
レオンの苦言にカラは涙目になりながらも次の魔術を展開する。レオンも同様で二人の魔術は同時に発動し、飛竜へと襲い掛かった。
カラが発動したのは風による数百の真空の刃、レオンが展開したのは地面から突き出る数十本の杭、上下からの攻撃を飛竜はまともに喰らうが、真空の刃は硬い鱗が跳ね返し、硬い杭は激しく振るわれた翼腕の横薙ぎの一撃でほとんどが薙ぎ払われる。
「ちょっ!?」
「これは……」
二人がそれに驚愕していると、飛竜が二人目掛けて突進してきた。地面を揺らして近づいてくる暴威に、馬達は怯え動かなくなる。
「ごめんね」
「許せ」
それに気付いた二人は馬達に詫びながら鞍から飛び降りると、風圧を自分に当ててそこから大きく跳躍して離れる。
それを待っていたように飛竜は二人が乗っていた馬達に突進して二頭を空高く跳ね飛ばした。
「死ね!!」
「…………」
こうなるとは思っていても気分が良いものではない、悪態を吐きながらも二人は飛竜へと続いて精霊魔法を展開する。
カラが展開したのは太陽を彷彿とさせる巨大な火球。飛竜の五倍はあるそれから放たれる熱量は凄まじく、だいぶ離れた場所にいるはずの二人の髪をチリチリと焼いていく。
そんなカラの限界を超えた術の行使にレオンは舌打ちするが、これで勝負を決めると決意し膨大な量の水流の拘束帯を展開すると飛竜を拘束し、次に飛竜を囲むように厚い土壁を展開する。
限界ギリギリで火球を維持していたカラがそれを待てないというように飛竜へと火球を落とす。それをやり遂げたのを確認するとカラは芯が抜けたように崩れ落ち、レオンに抱き止められた。
ゆっくりと火球は落ちていくと飛竜にぶつかった瞬間、膨大な量の熱量と水が合わさり水蒸気爆発が発生した。
爆心地を中心に全てを薙ぎ倒すような衝撃波が発生しカラとレオンを木の葉のように空へと吹き飛ばす。
「……」
「グッ!?」
空中でバランスを取ろうとするレオンだが、腕の中に気絶したカラがいるので上手くいかず重力のままに地面に背中から激突し、衝撃波の余波によって地面をゴロゴロと転がる。やっと止まった頃には全身に激痛が走った。確実に骨の数本は折れているだろう。
痛みという危険信号を発し続ける身体に鞭打ってレオンは立ち上がると、飛竜がいた場所に目を向ける。
そこにはピクピクと痙攣し、両翼腕を失い身体のいたるところから骨が突き出し、血を噴水のように噴出させながらも生きている飛竜がいた。
瀕死の重傷でありながら、その瞳には未だにレオン達への殺意を漲らせている。流石末席とはいえ竜種だと言えるだろう。しかし―――
「もう休め、竜の戦士よ」
次の瞬間にはレオンが展開した岩杭によって脳天を貫かれ、脳漿と頭蓋を派手に飛び散らせ飛竜は息絶えた。
レオンの最後の言葉は届いたのか、それは解らない。
飛竜の最後を見届けると、レオンは倒れ気絶したままのカラの元へと向かう。
「無茶をしすぎだ馬鹿が」
覗き込んだカラは、術の限界を超えた行使によって目、鼻、耳から血を流し端整な顔は土と血によって汚れて酷い有様だった。
「はあ、帰ったら説教だな」
気絶したままのカラの横にドカリと腰を落とすレオン。自身も満身創痍であり、自力で帝都へ帰るのは正直厳しい、救助を待ったほうが良いだろう。
「私もまだまだか」
そう言うレオンの独白が風に流されて消えていった。
久しぶりのガチ戦闘。
何かおかしいな? と思うことありましたら意見ください。
今回も読んでくだってありがとうございました。




