騎獣授業
帝国学園の騎獣厩舎にカラとレオン達新入生は集まっていた。
今日は初めての乗獣の授業である。
派閥に関するごたごたはエレンとの一件によって学園での地盤を確立し、安定して人員を増やしている。
そのため心的疲労が減ったカラとレオンも今日が楽しみであり、誰よりも早く厩舎へと来ると中にいる騎獣達を見て回っていた。
「騎獣といっても、やっぱりほとんど馬なんだねぇ」
カラが言うように今回っている厩舎内には白、茶、黒の毛並みの馬が何頭も並んでおり、飼葉や水を食んでいた。
奥に行けば他の騎獣がいるのだが、騎獣の飼育員に止められていた。気性の激しい騎獣も多いため事故があってはいけないかららしいが、二人からすれば早く来たのに一番見たいものを見れず消化不良状態の二人である。
「そろそろ、授業の開始時間だ。集合場所に行こう」
「ふう、仕方ないねぇ」
馬達に一度の別れを告げると二人は指定されていた厩舎外に向かう。厩舎外には同期の少年達が集まっており、その中にはコルンの姿もあった。
「二人共早いなぁ、何か面白いもの見れたかいな?」
「いや、特に面白いものは見れなかったよ。可愛い馬達は見れたけどねぇ、それ以上は駄目だって追い返されたよ」
「二人共私語を止めろ、教官のご到着だ」
レオンが言うように武術教官のシルバーがこちらに向かって来るところだった。後ろには副教官と先輩数人を従えている。
「集まっているようだな。皆整列せよ!!」
皆が整列すると、シルバーはいつもと同じように大喝するように授業の説明を始めた。
「集まっているな諸君! 本日は初の騎獣訓練だ。訓練とはいえ生き物を扱うことだ、油断すれば命に係わる。決して気を緩めることなく行うように!!」
「「「「「「「「「「 はい! 」」」」」」」」」」
「本日は卒業間近の先輩方が諸君等の授業を見てくださる。皆騎獣に関しては一家言持つ者ばかりだ。良く見て技術を吸収するように。それでは授業を開始する」
授業が始まると、各員は飼育員に先導されて馬達が並ぶ厩舎へと案内された。
馬独特の臭いに顔を顰める者もいたが、飼育員達は各員に馬を割り振っていくと、全員に向けて優しげな笑顔を向けて言った。
「今君達に割り振ったのは皆大人しい気性の馬達です。騎馬の扱いに慣れてきたら成績上位者には特別な騎獣に乗れるようになります。頑張ってくださいね」
それに反応したのはカラとレオンだった。二人は飼育員の男性に詰め寄る。
「つまりさっき通してくれなかった厩舎に入れるってことだよね!?」
「もう少し詳しく」
「お、落ち着くんや二人共。飼育員はんが困ってはるよ」
二人の剣幕にタジタジとなった壮年の飼育員の男性を気の毒に思ったコルンが二人を止めると、正気に戻った二人は掴んでいた飼育員の胸倉を放して頭を下げた。
「申し訳ない!」
「ごめんなさい!」
「いえ、良いんですよ。頑張ってくださいね」
その後、割り振られた馬達に鞍を載せて練習場に向かうと、シルバーと先輩達が既に準備して待っていた。
「それでは武技と同じように諸君等の技術を見せてもらう。まったく乗れない者は先に言うように、恥ずかしいことではないので必ず進言するようこと、これは諸君等の安全のためだ」
言われたとおりに乗れる者と乗れない者とで分かれると、別々に授業が始まった。
乗れない者達はシルバーが担当して、厩舎横にある練習場で馬に跨るところからの練習となり、乗れる者達は武術の副教官と先輩達が担当して、帝都近くにある平原へと遠乗りすることになった。
平原へと向かう一行の中にはもちろんカラとレオン、コルンの姿もあり、三人はどうすれば騎獣に乗れるかを相談しながら進んでいく。
「つまりさ、技術があれば騎獣に乗れる許可が下りるわけだよね?」
「まあ、そういうことだろうな」
「どうやってそれを証明するかだよね?」
「そういうことだな」
「あっ、もう技術が足りないとかそういう段階ではないんやね……」
技術面での心配を一切しない二人に対して、コルンは呆れながらも既に二人が規格外なのは実感していたのでつっこんだりはしない。
平原に着くと最初は馬と慣れるようにということで、自由に走るように指示され三人は並んで並走していた。
「コルンも普通以上に乗れてるよね」
「小さい頃から父親の商隊と一緒に各地回ってたんや、これくらい出来るようにならんと足手まといになってしまうやろ、必死で覚えたんや」
「努力家だよねぇコルンは」
「えへへ、そんなことないよ」
「いやいやいや」
「過剰な謙遜は周りから反感を買うぞコルン。まぁそれがお前の良いところだと思うが」
照れるコルンを二人で窘めていると同行してきた先輩が近づいてきた。
「やあ、上手いね君達。今回の新入生の中では群を抜いてる。家で練習を?」
「そんなところです」
「そうだ先輩。聞きたいことがあるんだけどねぇ、騎獣に乗る資格の条件って何なのかな?」
カラの質問に先輩は渋い顔をすると質問に答えた。
「騎獣に乗る条件かい? 当然騎馬の技術は必須だが、一番大事なのは騎獣との意思の疎通が出来るかだね」
「騎獣の意思の疎通?」
「そう、騎獣と呼んではいるけど中には魔獣も混ざってるんだ。だから騎乗しながらそれを制する技術がいる。魔獣の制御には念話が最も効率的だから、そういう点が評価される。僕にはその素質が無かったから騎獣に乗ることは出来なかったんだけどね」
「悪いことを聞きました。すいません」
「いや、気にしていないよ。君達も頑張ってくれ」
そう言うと先輩は離れていった。
「魔獣というとベガと同じか」
「ベガ?」
「実家にいる狼の魔獣だ」
「へえ、そんなのいるんや流石やねぇ」
「そういえばどうしるかなベガ」
「元気にしているとは思うが、魔獣が騎獣ならベガを学園に呼ぶのも良いかもしれないな。今度教官に相談してみるか」
そんな会話をしていると副教官から集合の合図がかけられ、全員が集まると副教官は全員に向けて指示を出すため口を開いた。
「見た限り諸君も馬も慣れてきたことだと思う。技量的に見て拙い者もいるので今日は無理をせずに基礎をしっかりとやっていく。熟練した者にとってはつまらないものになると思うが他の者に合わせるのも騎士にとっては大事なことだ。基礎だからといって油断せずしっかり行うように」
「「「「「「「「「「 はい! 」」」」」」」」」」
その後は教官の指導の下、全員で円を描いたり、横一列に並んでの並走等をして走るなどして、昼食をはさみ日が落ち始め学園へ帰還となる頃、それは起こった。
最初にそれを見つけたのは同行していた先輩で、見つけた途端彼は叫んだ。
「嘘だろ…… 飛竜だ!? 全員逃げろ!!」
先輩の言葉にその場にいた全員が空を見上げる。
それは帝国の北に広がるミフレ山脈がある方向から、こちらへ向かって来ており、最初は点のようだったものがみるみるうちに大きくなったかと思うと、一人の生徒を騎乗した馬ごと掴み倒して、その大きな口で噛み千切った。
血と臓物が飛び散り、辺りに血と糞便の臭いを撒き散らす。
獲物を屠った喜びか、己を鼓舞するためか、鎌首を空に向けるとそれは高々と咆哮を上げた。
今回も読んでいただきありがとうございました




