帝国学園で始まる戦い
帝国学園の中心に造られた庭園には、帝国の象徴である大鷲と狼が一人の男性に寄り添う石造が立っていた。
この石造の人物は帝国の初代皇帝とされるグール・ケイン・ソウ・アドラーで、彼の傍には常に大鷲と狼が共にあったらしい、それゆえに帝国の国旗は一本の剣の両隣に大鷲と狼が寄り添うように描かれている。
石造の周りには芝が一面に植えられ、昼の弁当を持った学生や学園を見学に来た観光客が思い思いに腰掛けている。カラとレオンとコルンの三人も同じように芝の上で弁当を広げていた。
弁当の中身はシンプルなサンドイッチの詰め合わせで、ハムと野菜が挟まったもの、塩蔵アンチョビと燻製チーズを挟んだもの、塩と胡椒だけで味付けした野菜だけのものもある。飲み物は柑橘の実を絞ったものを水で薄めたもので、飲むと爽やかな香りが口の中に広がった。
カラが野菜だけのサンドイッチを、コルンがアンチョビとチーズのサンドイッチを頬張っていると、レオンが口を開いた。
「今日は二人に合わせたい者達がいる。本当は学校が始まる前に会わせておきたかったが、お互い忙しくて無理だったんでな」
「もしかして、前に言ってた人達かいレオン?」
「そうだ、昼食を一緒にして今後のことを話そうと言ってある。案内はハルとウルカに頼んであるからそろそろ来ると思うが―――」
そう言っていると、庭園の入り口に目当ての人物達が、ハルとウルカと一緒に来ているのが目に入った。あちらもこちらに気づいたのか手を振りながらレオン達に向かって歩いて来る。
それは南辺境伯領でレオンが出会い、誓いを交わした二人だった。
「よお、久しぶりだなレオン! 元気だったか?」
「今日まで挨拶にも行けなくて悪いねレオン。何分忙しかったものだから、すまない」
「気にするなクルス。こちらも似たような状況だったしな、カインも元気そうでなによりだ」
挨拶を交し合う各辺境伯の令息三人に興味津々の眼差しを送るカラとコルン。それに気づいたクルスがクスリと笑う。
「それでレオン? こちらの麗しい令嬢達を紹介してくれないのかな?」
クルスの言葉にカラはおお、と感心し、コルンは疑問顔になりカラを見て納得顔で頷いていた。普通は頬を染めて恥らうところなのだが、普通の令嬢にはなれない二人である。
その二人の普通とは違った反応にクルスは一瞬目を見張り、次に面白そうに口を笑みの形に浮かべていた。その光景を呆れ顔で眺めてからレオンがお互いを紹介する。
「カイン、クルス。これが私の妹のカラだ。それからこっちが一緒に入学試験を受けて知り合ったコルン。カラ、コルン。こちらは西辺境伯領と南辺境伯領の将来の跡継ぎとなる予定の二人で、カインとクルスだ」
「カラ・レティーシア・ミスラです。よろしくお願いいたします。二人のお話は兄様から何度も聞かされています。お会いしたいと思っていたんです」
「へぇ~これがレオンの妹か、聞いてた以上に可愛いな! カイン・ノーリス・サイロンだ。よろしくな!!」
「クルス・ライアス・イダです。よろしく」
「え、えーとコルン・ディア・ナイルです。よろしくお願いします」
レオンの紹介を受けて挨拶を交し合う四人、その中でコルンは内心悲鳴を上げていた。何故なら帝国の三方を統治する三つの辺境伯の跡継ぎと令嬢が揃い踏みである。自分が一人だけ平民出身で、場違いだとわかるのでいたたまれない。そんなコルンの名前を聞いて、クルスが思案顔になり次に何かに思い当たったのかコルンに声をかけた。
「ナイルというとナイル商会のご息女ですか?」
「は、はひ!? あっすいまへん、そうです。何でしってるんでっか?」
突然話しかけられ驚いたコルンだったが、耳慣れた響きにすぐに返す。それにクルスは頷くとコルンの疑問に答えた。
「以前、父を尋ねて来てね。会ったことがあるんだ、君と同じ狐の獣人だったからもしかしたらと思ってね」
「なるほど、確かに今は南辺境領からシードラ共和国への交易路開拓を進めてますわ」
「うん、父も乗り気でね。交易路は多いに越したことはないから」
「よろしくお願いします!!」
「ははは、僕に言って決まるものじゃないけど、父には一筆書いておくよ」
感慨深げに二人の会話を横で聞いていたレオン。しかしこれ以上挨拶で時間を喰われると本題にいく前に昼休みが終わってしまうので話を進めるように促すことにする。
「どこで繋がってるかわからないものだな。さて挨拶はこれくらいでいいか。本題に入るとしよう、いいか二人共」
「おう、問題ないぜ」
「大丈夫だよ、ちゃんと父の許可はとってある」
「そうか、それでは事前に説明してあった通りに―――」
訳知り顔の三人の間で会話が進んでいくのを、カラとコルンは横で眺めていた。
そうして、話す内容を何気なく聞いていたコルンの顔がどんどん青ざめていく、コルンは横で最後のサンドイッチを食べ終えたカラに、小声で自分の考えが間違っていないか確認することにした。
「これって何の話なん?」
予想はついているのだが合えて口には出さない、出来れば外れていてほしいことなのだ。
「なんか、自分達の派閥を一から造るらしいよ?」
予想通りであり間違っていて欲しかった答えに、コルンの中で警鐘が鳴り響く。帝国学園での派閥というのは、将来の貴族社会での立ち位置を決めるに等しい。平民であるコルンには関係ないように思えるが実際はそうではない。帝国は基本貴族が領地を管理運営するため、大きな商会などになれば貴族との商談が自然と多くなる。
コルンが帝国学園に入った理由も貴族との人脈作りのためなのだが、父親から入学前に言われたことがある。それは、派閥には入るな。
一つの派閥に入ってしまえば、それ以外の派閥の者とはどうしても疎遠となる。しかも派閥同士が敵対していれば敵対している相手との商売など出来ない、出来たとしても実入りの良いものにはならないだろう。そのためコルンは帝国学園では派閥には入らず、手広く交友関係を広げ、将来の商売相手を見つけていこうと思っていたのである。
その点でいえば入学試験で東辺境伯の子供であるカラとレオンと知り合えたのは幸先が良いと言って良かった。しかし事態はコルンの思いも寄らない方向へと流れ、コルンの思惑を木っ端に砕こうとしていた。
「派閥を造るって、簡単に造れるものなん?」
「造るのは簡単みたいだねぇ? 維持が大変みたいだけど」
「へ~それは何でなん?」
「既にある派閥から妨害や嫌がらせがあるんだろうねぇ、それに耐えられなければ―――」
カラはコルンの疑問への言葉を切ると、手に持っていた紙ナプキンを握り締める。紙ナプキンはカラの手の中で小さく潰れるとサンドイッチが入っていたバスケットの中に落ちた。
「な、なるほど」
青い顔で小さく潰れたそれを見つめるコルンに、コルンの心情を察したカラが優しく語り掛ける。
「別にレオンも、無理矢理コルンに自分達の派閥に入るよう強要したりはしないと思うよ?」
「へ!? そ、そうなんかな?」
カラの言葉にコルンは救いを見たのか、俯いていた顔を上げる。しかしカラの言葉はまだ続いていた。
「うん、嫌だと言えば無理強いはしないと思う。ただ僕達とは疎遠になると思うけどねぇ」
「えっ?」
「多分派閥を造ったら、忙しくなる。その中で自分達の派閥以外の人間と接している余裕は無くなると思うんだ。だからコルンよく考えた方が良いよ。もしかしたら君の一生を左右する選択になるかもしれないから」
コルンは思考の海に沈む。確かに、確かに自分の将来を決めると言っても間違いではない選択だと思ったのだ。どうすれば良いのか、何が最善なのか、十年という短い人生の中で得た知識や経験を総動員して思考の海を泳いでいると、レオンから声がかかった。
「コルン、折り入って話があるんだか」
「はひぃ!?」
覚悟も出来ていない内に声をかけられ、悲鳴のような声を上げるコルン。カラ以外の三人がどうしたのかと心配そうに見つめるが、本人はそれどころではない。
「な、なんでしょう!?」
「あ、ああ。実は私達は派閥を新しく造ろうと思っているんだが、コルンも私達の派閥に入らないか? もちろん他の派閥からの妨害や嫌がらせはあると思うが、私達が全力で守ると約束する。最初は苦しいこともあるだろうが、その分見返りも用意するつもりだ」
「見返り……?」
「ああ、コルンにとって良い話だとおもう。次代の辺境伯からの辺境領での商売の全面援助だ」
「!?」
レオンから提示された条件にコルンは目を見開く、それは商人なら口から涎が出る内容だったからだ。しかし同時に疑問も浮かんだ。
「なんで、わいを派閥に入れるのにそないな好条件を?」
「私の目から見て、コルンが使える人間だと思ったからだ。そんな人間を引き入れるためなら、それに見合った報酬を払うのが当然だろう? 勿論、報酬に見合った働きはしてもらうがな」
疑問の答えは、コルンの迷いを切り裂くのに十分な威力を持っていた。
つまりレオンはコルンの能力が欲しいと言ってくれているのだ。ただ近くにいたから、与しやすいから、などの理由ではなくコルン自身の力が欲しいと言っている。
だからコルンはこう答えた。父親に心でごめんなさいとと謝って。
「まかせてなレオンはん。わい良い仕事しまっせ!」
「ああ、よろしく頼むコルン。ではこの五人で私達の戦いを始めるぞ」
そあ言ってレオンは拳を突き出す。
「「「「 おう!! 」」」」
それに四人の拳が合わさり、静かに五人からの帝国学園での戦いは始まった
今回も読んでくださりありがとうございました。
仕事が忙しくなってきて、毎日更新が苦しくなってきました!?
なんとか続けたいと思うのですが、日空けちゃったらごめんなさい。




