授業開始
結局歓迎会での一件は、先輩や新入生といった目撃者達の善意によって学園内に広まることは無かった。ただ二人を題材にした、小説が一部分の学生の間で裏取引されるようになったのをここに記す。内容はここに書けるような内容ではないので御想像にお任せする。
そんなことがあった学生生活初日が終わり、新入生が受ける初めての授業が始まろうとしていた。
帝国学園では、まず一年目に基本教育である武術、魔術、一般教養を中心に教わる。その後、各部門ごとに試験が行われ、全て合格したものは自分の特性を見極め、自分がやりたい部門を好きに受講できるようになるのだ。卒業まで一つの部門を極めようとする者もいれば、教われるだけ教わろうといくつもの部門の門を叩く者もいる。
そして成人を迎えると、帝都の各地へと巣立っていくのだ。
カラとレオンも新入生であるため、一年後に行われる試験の日まで他の部門に係わることは出来ないのだ、といっても裏道があったりするのだが。
カラとレオンは起床して、同学年の寮生でその日の日程や行事を確認する始業を終えると、食堂に集まり食事を取っていた。
朝食は簡単なもので、卵を泡立てて作ったスクランブルエッグ、半熟か固焼きか選べる目玉焼き、粗挽き肉の腸詰、焼いたベーコンに、葉菜と根菜を合わせたサラダなど、後は黒麦パンや白パンが並んでいる。これらをビッフェ形式で好きなように食べられるようになっていた。味もコルンが言っていたように、家で食べていたものと遜色無く二人の舌を満足させるもので二人を安心させた。
「美味いわ~、これだけでここに入った価値があったと思うのはわいだけじゃないはずや!」
カラとレオンの前では、コルンが寮館の朝食に頬を緩めている。両手にはフォークに刺さった腸詰と白パンが握られ、目の前の皿には山になるほどの料理が盛られていた。
「余り詰め込みすぎると、この後が厳しいぞコルン。始業で確認しただろう、この後すぐに武術の授業だ」
「大丈夫、大丈夫。わい家ではこれ以上食べて父親の仕事手伝ってたんや、これくらいなんともないんよ」
「逞しいねぇコルンは」
「まあ、本人がそう言うなら何も言わんが、忠告はしたぞ?」
「おおきにな~」
レオンの言葉に礼を言うとコルンは腸詰に齧りつくのだった。
食事を終えると、カラとレオン達『シルフ』の寮生の新入生達は、学園にいくつかある武道館といわれる広い板張りの床の建物に来ていた。
「おはよう諸君!! 君達の武術の授業を担当するシルバーだ。さっそくだが君達の実力が見たい。そこで実戦形式の試合をしたいと思う」
授業開始一番に武術教官のシルバーにそう言われ、新入生一同から不満の声が上がる。
特に平民出身の者達からの声が強かった。それも当然で彼等は武器を触ったことが無い者が多く、幼少の頃から武術を習う貴族の者達と自分達では差があるとわかっているのだ。
「うむ、不満があるのもわかるが、今現在の自分の実力を知るのも勉強だ。私の今後の教育方針の目安にもなるので変更はしない。得物はこちらで用意した模擬武器を使ってもらう。好きな得物を選んだら各自クジを引いて最初の相手を決めるように、その後は勝った者同士の勝ち抜き戦だ」
シルバーの説明が終わると、各自が自分が得意とする模擬武器を手に取りクジを引いていく。カラ、レオン、コルンの三人も握りや長さを確認しながら模擬武器を選んでいく、カラは両刃の片手木剣、レオンは自分の身長の二倍はある木槍、コルンは大振りで両刃の木短刀を二本を手に取った。
「二人と当たらんことを祈るわ、勝てる気がせんからね」
「勝ち残ったら、結局当たるけどねぇ」
「カラ、先に言っておくが今回は当たってもお互い本気は無しだ。以前のように数日動けなくなると学業に支障が出るからな」
「そうだねぇ、わかったよ」
クジ引きの結果は初戦でカラとコルンが当たり、レオンは他の学生との試合になった。
「さ、最悪や~」
「んじゃ、正々堂々戦おうねコルン」
「程々にお願いします」
「まあ、二人とも頑張れ」
全員の準備が終わったのを確認するとシルバーが第一試合の開始を宣言して、武道館に木剣を打ち合わせる音が響いた。
試合は進んでいき、やはり武術を学んだ貴族の子息達が優勢で、平民の者達は負けて悔しい顔をしていた。
試合開始と同時にカラはコルン目掛けて上段からコルンの頭目掛けて振り下ろす。それをコルンは獣人の反射神経と運動能力で素早く避けると、カラの真横へ移動して短剣をカラの頭と腹に時間差をつけて突き込む、狙いは腹、頭への突きは牽制だ。
「速いねぇ」
そう言いながらもカラはゆらりと体を捻って、コルンの短剣を避けるとお返しとばかりに、横薙ぎの一撃を放つ。しかしそれも避けられカラは感心の歓声を上げる。
「凄い凄い、ごめんコルン。侮ってたよ」
「いやいや、そのまま侮っててええよカラはん」
「―――― 少し本気出すね」
「ちょっ!! だから止めて!?」
次の瞬間コルンの視界からカラの姿が消える。正確には消えたと錯覚させられたのだが、次の瞬間にはカラの木剣がコルンの首筋で止まっていた。それを確認したシルバーが判定を下す。
「勝負あり!! カラの勝利だ。コルンも見事だった。クジ運に泣いたな」
「はぁ~、やっぱ無理やったね」
「だけど思った以上に強かったよコルン。自己流かい?」
「いや、商会で雇ってた冒険者さんに習ったんよ、筋が良いって褒めてもらったんやけど、カラはんには通用せんかったね」
「ふむふむ、なるほどねぇ」
そんな風にカラとコルンが自分達の試合の感想戦をしていると、レオンの試合が始まった。相手は貴族の子息で、手にはカラと同じような両刃木剣を持ち正眼に構えている。
対してレオンは木槍を相手に向けて構え、試合開始と同時に突き込む。相手はそれを後ろに下がって避けるが、レオンの槍がすぐに追いつき胸の前で止まる。一瞬で終わった試合に一同から感嘆の声が上がる。
その後もカラとレオンの二人は順調に勝ち進んでいき、準決勝で相対した。
「改めて言っておくが本気は無しだ」
「わかってるよ、しつこいねぇ」
そう言い交わした二人だが、初撃からカラがコルンに使った、目の錯覚を利用した動きでレオンの視界から消える。視界から消えても気配が消えたわけではないため、レオンは木槍を縦にして自分の横に来ていたカラからの横薙ぎの一撃を防ぎ、石突のほうの柄の部分でカラの足を払う。
「うわっと!?」
足を払われて倒れるからだをカラは両手で支えると、そのままバク転してレオンから距離をとる。しかしそれを許すレオンではなく、すぐさま距離を詰めると連続して木槍を突き込んでいく。
「ちょっ!? ぬっ、うに、うえぇい!?」
それをカラは紙一重でかわしていくが、どんどん追い詰められていく。それでもレオンは油断することなく突きの速度を上げていき―――
「ぐっ!?」
木槍を打ち落とそうとしたカラの一撃を綺麗に避けて、カラの胸すれすれのところで木槍を止める。
「それまで!! レオンの勝利だ。しかし二人とも見事だった。お前達ならすぐにでも騎士として通用するだろう。これからも精進を怠らないように」
レオンの勝ちが決まり、二人の激しい攻防を見守っていた観戦者達から賛辞の拍手が上がった。
「あ~もう、負けた。悔しいねぇ」
「流石に槍を持って負けるわけにはいかないんでな。なんなら今度は剣でやってもいいが」
「いいよ、ハンデもらって勝っても嬉しくない」
頬を膨らませるカラに苦笑しながらレオンが答えていると、レオンの決勝の相手を決める試合が開始される。カラとレオンの試合とは違い技といった技も無く、ただ打ち合うだけの試合展開が続くのを眺めていると、体格の良いほうの上段からの一撃が相手の肩に喰い込み、バキャッという鈍い音が武道館内に響く。
「あっ」
「ふぅ」
「ひ、ひえぇぇ」
「ぎっ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
肩の骨が折れた音がした後、肩の骨が折れた生徒が盛大に悲鳴を上げて転げまわるのを、折ったほうは呆然と眺め震えている。
すぐさま教師のシルバーが駆け寄ると治癒術師の手配をした後、自分も治癒術を使って生徒の痛みを和らげて場を治めた。これで授業も中断かと思っていた生徒達にシルバーの声がかかる。
「さっ決勝だ。二人中央へ」
「えっ?」
「…… わかりました」
未だ中央で呆然としていた少年は素っ頓狂な悲鳴を上げ、レオンは言われたままに中央へと出る。二人は対峙するが、少年の手は骨を折った感覚が手に残っているのか小刻みに震えており、それを察したレオンは開始の合図と同時に少年の木剣を巻き上げて宙へ飛ばして早々に決着をつける。
それを確認したシルバーはレオンの勝利を宣言して、言葉を続けた。
「今のように相手に手傷を負わせることは、帝国学園では珍しくない。しかし当学園は高位の治癒術師が常駐しているため心配する必要は無い!! 相手を傷つけること、傷つけられることを恐れるものは学園を去ってもらってかまわない。将来諸君等の何人かは戦場へ出るかもしれないのだ。我々はこれに耐えられ無い者は必要としていない」
シルバーの厳しい言葉に、生徒達の間からざわめきが起きる。カラとレオンはそれを少し離れたところから見ていた。
「さっそく振るい落としにかかるとは流石帝国学園。厳しいねぇ。コルンは大丈夫かい?」
「大丈夫やよ? 高い金払って入学したんやし、元は取って帰らんと」
「逞しいことだ――― さて初日で同級生が減らないと良いがな」
青い顔をした同級生達に苦笑していると、そのまま授業は終了となり、三人は寮で作ってもらった弁当を持って学園の中心にある庭園へと向かうのだった。
今回も読んでくれてありがとうございました。




