入学式
「――― 諸君はこれからの帝国を背負っていく者として―――」
階段状に椅子が設置された広大な講堂で、帝国学園の入学式は行われていた。椅子には落ち着いた在校生と今年入学した初々しい新入生達が座っている。学生達は全員が黒を基調にした詰襟がついた制服に金糸で装飾されたものを着ている。
講堂に並べられた全ての椅子が向く方向に造られたステージの壇上には、現在の学園長で先代の皇帝の弟であるセイローグ公爵が、新入生へ歓迎の言葉と学生としての心構えを語っている。
風の精霊魔術で増幅された声は講堂内全てにいきわたっている。
「――― 当学園は君達の入学を歓迎する。よく鍛え、よく学び、君達の学生生活が充実したものとなるよう願っている。では皆頑張りたまえ」
学園長の祝辞の挨拶が終わると、眼鏡をかけた教師の男性が壇上へ上る。
「これで入学式は終了です。教材や支給品に関しては後日渡すので、今日はこれで解散になります、この後学生寮での過ごし方の説明が寮であるので新入生は学生寮で説明会があるので事前に通知があった学生寮に集合するように、在校生は今日は授業はありません」
教師の男性の言葉に新入生と在学生が動き始める。在校生は嬉しそうに、街に繰り出す相談を交わし、新入生はそれを横目に見ながら、これから数年お世話になる学生寮を目指して歩いていく。その中にはカラとレオンの姿もあった。
「寮か~、ちょっとワクワクするね」
「お前はもう少し危機感を持て、男子に対して女子の数が少ないから女子寮がないんだぞ、いくら男子の立ち入りが禁止されているとはいえ、同じ寮の中に一緒に住むことになるんだ、もう少し警戒心をだな―――」
「はいはい、わかったよ。レオン心配しすぎだって」
「いいや、聞いた話では卒業前に妊娠して中退した者もいるという話だ」
「うえ!? それ本当?」
「数年前らしいがな、学園側もそれで対策を講じたらしいが、気をつけるにこしたことはない。わかったな?」
「わかった、わかったよ」
両手を上げてカラが降参の意を示すと、レオンは疑いの眼差しを向けながらも納得したのか頷く。
「まぁ、お前にはあの子をつけたからな。精々怒られないように気をつけることだ」
「あ~、従者制度だっけ?」
「ああ、人の使い方に慣れさせるためのものだそうだが、お前には丁度良い。下の者を守るのも上に立つ者の義務だ。使うだけではなく、守ってやるんだぞ」
「わかってるよ」
そんな会話をしながら歩いていると、新入生の一行は学生寮へと到着していた。
ガッシリした石造りの建物には壁の一角を建てられてからの年月を感じさせるように蔓が蔽っている。正門の門柱には風の精霊のレリーフが施されていた。
寮の前には壮年の男性と、在学生の年長の少年数人が新入生を出迎えるために待っていた。
「ようこそ、新入生諸君。私は東部寮『シルフ』を任される寮監のテリーだ。これから嫌になるくらい顔をあわせることになると思うが、よろしくたのむ。寮に関する決まりごとは寮長であるサン君から説明がある。彼は私を除けば東部寮内の最高権力者だ。逆らわんほうがいいよ」
テリーの言葉にサンと呼ばれた少年が苦笑いすると一歩前に出ると口を開く。
「初めまして、今紹介されたサン・クリード・マクドーナルだ。寮監が言ったような寮長の権限を使って命令するようなことはしないので安心してくれ。さて、それでは寮則の説明をしようと思う。皆食堂に移動してくれるかな」
そう言って案内された寮内の食堂は、長机がずらりと並んでおり二百人は一度に食事が出来そうなほど広かった。そこに新入生が次々と座っていくのを眺めているとカラとレオンの肩がトントンと叩かれる。それに二人が振り返ると、ピコピコと狐耳を動かしながら笑うコルンが立っていた。以前より髪が伸びて女の子らしくなっている。
「お久しぶりやね二人とも。元気にしていたかいな?」
「コルンか、お前もな」
「元気だったよ、コルンも元気そうだねぇ」
「うん、元気やよ~。積もる話もあるけど、とりあえず座ろか」
三人が並んで座るとサンが説明を始めるところだった。人前で話すのに慣れているのか緊張した素振りはない。
「さて、それじゃ食堂に来たことだし、まず食事の説明から始めようか。朝食、夕食は基本寮で取ってもらうことになっている。授業の関係で時間が合わない場合は、事前に食堂に言ってもらえば簡単な軽食を用意してもらえることになっている。それで足りない場合は帝都で何か買ってくるかして用意してくれ。昼食も同様だ」
サンの説明に新入生達の間でざわめきが起きる。それはカラやレオンも例外ではなく―――
「寮の食事か~、美味しいと良いんだけど」
「下手に期待しないほうが良いぞ。私達の舌はミスラ家の料理長のおかげで肥えてしまっているからな」
「大丈夫やと思うよ? 貴族の子供が集まる帝国学園の寮やからね、王宮ほどとはいかんけど腕の良い料理人が各寮に勤めてるって話や」
「へぇ、なら食堂の料理人とは仲良くなっておこうか、融通聞いてもらえるようにねぇ」
「気があうね~カラはん」
少女二人が悪い笑いを交わし合っている横でレオンが苦笑していると、サンの説明が続いていく。
「次に部屋割りだが、新入生一人に二人部屋が与えられることになっている。これは事前に説明を受けていると思うが、我が学園が行う従者制度のためだ。君達には従者として連れてきた者と相部屋になってもらう。これは君達に人の使い方に慣れてもらうための制度だが、従者は従者であって奴隷ではない、そこのところを間違えないように」
サンの言葉に従者との相部屋のくだりからざわついていた者たちが黙り込む。
「ほ~やるねぇ、あの寮長。ちゃんと釘を刺したよ」
「寮長は成績だけでなく人間性も選抜基準に入ると聞いたが、なるほど流石帝国学園と言うことか」
二人が関心していると、コルンが首を捻る。
「どういうことや?」
「貴族内では従者との相部屋なんていうのは普通ありえないんだよ」
「それをあえてするのは、下の者との信頼関係を築かせる狙いがあるのだろうが、さて卒業までに何人がその意図に気付けるかな」
「なるほどな~、まぁ商人のわいにはあんまり関係ないなぁ、下のもんとの信頼関係は商人にとっては必須や。今更習うこととちゃうわ」
「恵まれているねぇコルン」
「えへへへへ」
照れるコルンに和んでいると、説明も終盤を迎えていた。
「学園の授業は週のうち基本は光・火・水・土・風・木の六日間、闇の日が休みになる。休みの日は自由に行動してもらってかまわない。しかし、帝国学園の生徒として節度ある行動を心がけるように。他に質問がある者は私か他の先輩に聞いてくれ。説明は以上だ。」
言い終わるとサンは笑みを浮かべて言葉を続ける。
「さて、堅苦しいのはこれくらいにしておこう。ようこそ東部寮『シルフ』へ、歓迎するぞ野郎共!!」
「「「「「「「「「「 おう!!! 」」」」」」」」」」
サンの号令を合図に食堂の扉が勢いよく開かれる。そこから現れたのは在校生の先輩達。手には歓迎のための料理や、飲み物を持っており、瞬く間に長い机の上が料理や飲み物で埋め尽くされていく。
それから一同は歓迎の宴へと移行して、飲んで食べての乱痴気騒ぎとなっていく。長机の上で歌い始める者、どちらが食べれるか競い合うもの、腕相撲を始める者達、皆々が思い思いに騒ぎ笑いあっていた。
そんな中でカラ、レオン、コルンは大勢の先輩達に取り囲まれていた。特にカラとコルンに視線が集中している。やはり学園内では女子が少ないため、皆興味津々である。レオンは巻き込まれまいと逃げようとしたが、カラとコルンに両腕を取られて捕獲され、巻き添えを喰らうはめになった。
「へえ兄妹なんだ、あまり似てないね」
「可愛いな~、許婚とかいるの?」
「え、いない!? ヨッシャ!!」
「とりあえず放せ二人とも」
「放したら逃げるだろレオン!?」
「そ、そうや! 置いてかんといて~レオンはん!!」
「お兄さんって呼ば――― ぐはぁっ!?」
「け、獣耳。はぁはぁ――― げほっお!?」
「ちょっ!? ま、両方落ちつけ―――げはぁっ!?」
カラとコルンに質問がいくと、二人に挟まれた形になるレオンにも顔が近づき非常に気持ち悪い。顔を
紅潮させているため尚更である。そのため両腕を拘束されているレオンは押しのけることもできず、蹴りによって撃退する。そうなると、蹴られたほうも面白いはずがなく―――
「上等だ!! 新入生!!」
「両手に花とか羨ましすぎるんだよ、この野郎!!」
「放せ!! 逃げないから!!」
「嫌だ!! 絶対逃げるだろ!?」
「ふ、ふ二人とも落ち着くんや」
「兄妹でなんて… これは創作が進むわぁ~」
「まて!? 今の誰だ!!」
「一発殴らせろ、こらぁ!!」
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
耐え切れなくなったレオンが、両腕にぶら下がるように掴まっていたカラとコルンを振り払おうと雄叫びを上げて両腕を振り上げる。そこで事故が起きた。
レオンの雄叫びに驚いたコルンが手を放したのだ。それによってレオンはカラの方に倒れこむ、丁度カラが逃がすまいと力を込めたのも不味かった。レオンはカラを巻き込む形で床に倒れていく。
「なっ!? んだぷっ!?」
「へっ? わぁっぷっ!?」
そして次の光景にその場にいる全員が固まった。
なぜなら銀色と金色の髪が混ざり合うように重なっていたのだ。
唇が当たる形で。
「…………」
「…………」
「…………」
「神・降・臨!!」
「…………」
時が止まったような空間でレオンが両手をついてゆっくりと立ち上がる。
その目は何も見ておらず、夢遊病者のようにフラフラと歩いていく。
その光景にレオンの歩を阻む者はおらず、人垣が割れてレオンは食堂を出て行った。
「カ、カラはん?」
コルンが倒れた後ピクリとも動かないカラの顔を覗き込むと、その紫の瞳に光は無く、慌てて駆け寄ったコルンが肩を揺するが、まったく反応が無い。
「だ、誰かぁ、誰か助けてぇえええええええええええ」
首がだらりと力無く垂れ下がったカラを抱きしめるコルンの悲鳴が、食堂に木霊する。時間が動き出し、先輩達が出した結論は。
「楽しんでるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、新入生諸君!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「いぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
見なかったことにした。
やってしまいました。
うん、どうしてこうなった。
まあ、いつものことです。なんとかなるなんとかなる。
指摘、感想いつもありがとうございます。
お気に入り登録、評価嬉しいです。
今回も読んでくださりありがとうございました。




