帝国学園入学試験 三
嘆くビーンは放っておくことにして、カラ、レオン、コルンの三人は青妖粘菌の核の回収を始めることにした。炎に焼かれた青妖粘菌の群れはダムの底に青く輝く核を残して跡形も無く蒸発している。
「いや~、しかし凄かったな。わいは下級くらいしか使えへんねんけど。二人はどれくらい使えるん?」
「私は土と風と水が上級、火は中級だ」
「僕は火と風が上級で他は中級だね」
二人の返答にコルンは目を見開く、上級といえば八百万の人口を誇る帝国でも数百人いるかいないかなのだ、それが目の前に二人もいて両方自分と歳が変わらない子供なのだ。才能の差というものを感じてしまう。実際はカラとレオンが特殊なだけなのだがコルンにわかるわけもない。
「よし、これで三十個だな、他は捨てていくか」
三人の足元にはまだ後五班分くらいの青妖粘菌の核が転がっていたが、荷物になるだけなので放置して戻ることになった。そんな中コルンがあるものを見つけ駆けていく。
「レオンはん、これは持って帰ろう青妖粘菌王の核や」
コルンが指差すのは青妖粘菌の核の数十倍はある赤子大の青妖粘菌王の核だった。意味が解らずレオンは首を捻る。
「持って帰るなら青妖粘菌の核のほうが軽くて楽だろう? そんな大きいのは荷物になるだけだぞ?」
「ちゃうねん、青妖粘菌の核は簡単に手に入るから安価なんやけど、青妖粘菌王の核はビーンはんが言ってたように、冒険者適正が金か白金の希少素材や市場価格で金貨三十枚にはなるんよ!! 三人で分けても金貨十枚や!!」
目をキラキラさせて語るコルン、その輝きは将来の夢を語っていた時より増していた。根っからの商人である。
「だよな…… 俺の分は無いよな」
なんとか立ち直って合流したビーンが乾いた笑みを浮かべていた。今日一日だけで十歳くらい老けて見えるようになったのは心労からだろう。
不憫に思ったのか、その後コルンがビーンにも分け前がいくように割り直し、カラとレオンを説得すると、一人金貨七枚で分配することに決まった。端数分はコルンが手間賃として貰うとのこと、ちゃっかりしている。
「よっしゃ! それじゃあ帰ろうぜ!」
分け前が入るとわかってからのビーンは顔に生気が戻り、体からウキウキと幸せオーラが溢れていた。なにせ、帝国民の平均月収七か月分が一気に懐に入るのだ、嬉しいことだろう。
結局彼は青妖粘菌王や青妖粘菌の群れのことは上に報告せずに自分の胸に仕舞っておくことにしたらしい、屑である
しかしカラとレオンにしても、下手に騒がれても面倒なだけなのでビーンが屑で小物なのは丁度良かった。
「思ったんだけどさ、青妖粘菌の群れを殲滅しちゃったから他の班の青妖粘菌足りなくなるんじゃないかな?」
「あ」
「あ」
「あ」
カラが何気ないことのようにポツリと言うと他の三人の足が止まる。レオンは溜息を吐くと遠くを見つめ、コルンは大事そうに抱えていた妖粘菌王の核に目を落とし、ビーンは引きつった顔で笑った後うつむき、次に顔を上げた時には晴れやかに笑うと手を打ち合わせて言った。
「俺達は何も見なかった。そうだよな!?」
「うわぁ」
「駄目な大人だ、駄目な大人がいるよ」
「ビ、ビーンはん。う、うん、そやね。そのとおりや。うっううっううううう」
ビーンの言葉に、三者三様の反応で返す、レオンは呆れ顔でビーンの顔を見上げ、カラはビーンから顔を背けるとビーンを罵る言葉を呟き、コルンはビーンが不憫になったのかビーンの言葉に同意した後、憐れみからか嗚咽を繰り返していた。目には涙が光っている。
「み、見るなよ。お、俺をそんな目で見るなぁ、見るなよ!? てか止めろコルン!? お前の反応が一番胸にくる!? 罵ってくれ!! 俺を罵ってくれよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「ヒイッ!?」
その場に崩れ落ち、コルンの肩を掴み罵ってくれと叫ぶビーン。その光景にカラとレオンはドン引きしていた。コルンは短い悲鳴を上げカタカタと震えている。トラウマにならなければいいが。
仕方なくレオンが、自分の情けなさに肩を震わせて泣き始めたビーンの背中をさすりながら諭す。
「悪かった、悪かったからビーン。頼むからコルンを放してやってくれ。それにさっきのお前の意見には賛成だ、俺達は何も見てないし、何もしていない、それで良い、それで良いんだ」
「ほ、本当か? 俺は間違っていないのか? 俺は…… 屑じゃ無いのか?」
「………………」
「何か言ってくれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
ビーンの懇願に即答できないレオン、その顔からは表情が消えていた。それを見たビーンはレオンの肩を掴むと激しく揺さ振り叫ぶ、レオンの頭は振り子のように前後に揺れていた。
「落ち着いたかいビーン?」
「あ、ああ、すまんな。みっともないところ見せちまって」
「いや、気にしていない」
「そうそう」
「後は戻るだけやしね」
しばらくして一行は落ち着いたビーンと共に峡谷を下っていた。ビーンの謝罪に三人はなるべくビーンを刺激しないように当たり障りの無い言葉を返す。峡谷の入り口はまだ遠い、太陽も先程まで真上にあったものが徐々に落ち始めている。
青妖粘菌や他の受験生達とも会うことなく進んでいると、コルンのお腹がクゥーと鳴いた。
「そういえばお昼過ぎてるね」
「ああ、忘れてたな、コルン、ビーン、弁当は?」
「持ってきとるよ。色々ありすぎてお腹空いてるの解らんかったわ」
「ふっふっふっ、見て驚くなよ?」
そういう訳で、一行は手ごろな岩を机と椅子にして遅めの昼食となった。
カラとレオンが取り出したのは朝、応援の言葉と一緒に「一角馬の泉」の料理長からもらった弁当である。中には薄く切られた黒麦パンの間にハムとチーズ後は数種類の葉菜、ゆで卵のスライスが挟まれたサンドイッチだった。
コルンは背中に背負っていたリュックからブリキの水筒を取り出して、水筒についていた同じくブリキのコップに水筒の中身を注ごうとしていた。水筒からは最初茶色いソースが流れ、次に丸い肉団子がゴロゴロと四つコップの中に転がった。最後にリュックからハンカチに包まれた黒麦パンを取り出している。
ビーンが取り出したのは大きなバスケットでカラ達の倍はあった。その偉容に全員の目が注目したのを確認するとビーンはおもむろにバスケットの蓋を開く、そこにあったのは「一角馬の泉」で貰った弁当が霞むほどの料理の数々だった。肉厚に焼かれたオムレツ、火を通された数種類の腸詰、揚げられた鶏肉、様々な葉菜、根菜、豆類、茸の野菜炒め、カラ達と同じようなサンドイッチもある。
「どうだ凄いだろう、俺の奥さんが作ってくれた傑作だ!!」
「「「結婚してたの!?」」」
三人の心が一つになった瞬間だった。
その後は三人の言葉に傷ついたビーンをなだめて食事となった。ビーンの弁当の量が多かったのは受験生にも食べてもらえるように、というビーンの奥さんからの心配りらしい、三人は遠慮無く頂くことにする。
ビーンが自慢するだけあって彼の奥さんの料理はみんな絶品だった。オムレツは焼きたてのようにフワフワで冷たくてもするりと喉を通る。腸詰や揚げた鶏肉は噛み切ると口内に濃い肉汁の味が広がり、野菜炒めは色々な食感が楽しめた。「一角馬の泉」の料理長には悪いが軍配はビーンの奥さんに上げざるおえない、それほど美味しかった。
「いや~、美味しかったわ。ビーンはんは幸せもんやね、こんな美味しい料理毎日食べれるやなんて」
「だろ! 美味しかっただろ? 自慢じゃないが俺の奥さんの料理はルベラ一だぜ」
「認めるのは悔しいが美味かった。店でもやっているのか?」
「おっわかるかレオン? 実はルベラで食堂をやってるんだ、結構流行っててな。俺も休日には店手伝ってるんだぜ」
「へ~、冷めてる料理でこれだけ美味しいなら温かい料理はもっと期待できるね、帰る前に一回食べに行こうかレオン」
「お~来い来い、奥さんには言っとくから」
「そうだな、幸い泡銭が手に入る予定だしメイ達を誘って食べに行くか」
「やったね、約束だよレオン」
「ああ、約束だ」
カラとレオンがビーンの奥さんが営む食堂に行く約束を交わしている横で、コルンは近くにあった林へと向かっていた。生物として当然の生理現象が襲ってきたからである。三人から見えないところまで来ると、ズボンを下ろししゃがみこむ。そこでふと気配と臭いを感じて顔を上げ、悲鳴を上げた。
「ひきゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
やっほい。
ごめんなさい、終わりませんでした!?
前編、中篇ときて今回後編となるはずが終わらなかったので数字へと変更させてもらいました。すいません、すいません。
次回には…… いえ、もう何も言いますまい。
新章は気長にお待ちください。
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